今作には2本の軸が存在する|『アニマロイドガール』の開発者『Mar』氏にプチ取材

ひときわ目を引くケモミミの少女。各種メディアで引っ張りだこの「アニマロイドガール/獣人化少女」をご存じでしょうか。名前にピンとこない人でも、キービジュアルを見れば「あぁー!!!あれね!!!」となると思います。それくらいパンチが強い。

ざっくり話すと、身体が獣に変化する病を持った少女の話です。自分の身体に大きな耳が突如として生えてくる不安感や、人間の部位が欠如していく喪失感。少女が抱える心の揺らぎも丁寧に描写されており、可愛さ以外の世界観にも一貫した軸を感じさせます。

まさしく実力派クリエイター集団のような風格。自分とは無縁かな〜と思っていましたが、縁あって取材させて貰えたのでお話を伺ってきました。試遊して分かったことも多く、ケモ可愛いの真後ろで蠢めく仄暗さについても紹介できればと思います。

ヒトからケモノに変わりゆく少女を見守るADV

▲『少女の』の後に続く句読点が凄く好き

アニマロイドガール」は、人間の身体が徐々に獣に変化する「アニマ化」をテーマにしたADV作品です。獣と人間が入り交じる少女と研究員の主人公を軸にして物語は展開。ゲーム内の設定的にSF味が強く、濃厚なボリュームを想起させました。

研究員である主人公は身体の変化に戸惑う少女に声を掛けて見守ることもできれば、好奇心に身を任せてアニマ化を促すクスリを投与することも可能。獣化の進行度と選択肢によってシナリオは無数に分岐し、あなただけの結末に辿り着くことでしょう。

▲少女との関わり方によってエンディングが分岐

少女の幸せと自分の好奇心。双方の欲求を天秤に掛け、1年間の月日を共に過ごす基盤が既に整地されている印象でした。いざ試遊してみると、危うい選択肢に潜む妖しさが見え隠れする場面も。

完全に獣化しても人間としての理性が残るのか。断薬して経過観察すれば元の人間に戻れるのか。そもそも、この娘とどうやって過ごすべきか。研究員や育て親としての葛藤が軸になっている気がします。

▲経過観察だけでなく一人の少女として向き合う

少女の持つ諦念や喪失感が遊び手に圧し掛かり、かわいい以外の感情と相まってゴチャ混ぜに。ゲームなんだからやり直せば良いと分かっていても、選択に対する責任を刺されるような圧もチヤホラ。

平たくいえば、「アニマ度に応じてエンディングが変化するADV」。言葉にすると平面的に感じますが、目に見えない機微が含まれている気もします。そこで開発者の『Mar』氏にお話を伺いました。

本当のトゥルーエンドは
『1周目』だけなのかもしれない

▲少女の受容と諦念が入り交じる

今作の物語は大きく2つの軸が存在します。

  • 少女が幸せになれるよう親身に寄り添う
  • 研究員としてアニマ化の研究を優先する

大前提として、少女はアニマ化を受け入れていません。いきなり生えてきたケモミミに戸惑い、獣のような体毛を見て声がうわずっている。人間の部分が消えていく喪失感に怯えている状態です。

Mar氏は「1周目の体験がホンモノの想い出になるよう願っている」と仰っており、「最初に選んだ結末を大切な想い出として刻み込みつつ、個別エンドや”もしもの世界”を見て回る形になります」とのこと。穴埋め方式で物語を補完するだけの作品ではない様子。

▲薬の投与で少女のアニマ化を進めることも
▲1周目の体験がホンモノの想い出

お話を伺うなか、「このゲームには2本の軸があるんです」という言葉をお聞きしました。ちなみに少女を優先する『善人ルート』と、アニマ化の研究に没頭する『狂人ルート』の話ではありません。

最初に到達したエンディングを深堀りする軸と、別の物語から全体像を補完する軸。言うなれば1周目で自分だけの体験が描かれ、2週目ではメタ的な視点で少女と世界の秘密に踏み込んで行く形かもしれません。

▲ルート分岐も多そうな印象

「進行度によってタイトル画面も変えたい」とも仰っており、物語と仕組みを総動員してゲームを生み出す意志を感じます。メカニズムに対するこだわりも熱く、見た目以上に中身を重要視している印象でした。

エンディングはアニマ度のほかに選択肢で分岐する予定らしく、獣化×○○のような掛け合わせパターンを仄めかしてくれました。フラグ+パラメーターで分岐させるとのことですが、作業工数がヤバそうで聞いてるこちらが青ざめました。

また今作はMar氏のほかに『ザクロスケ氏』『逢編いあむ氏』の計3名が中心となり制作されているとのこと。チーム開発ならではの協業によって生まれる力を大切にしつつ、クオリティを担保するために時間を掛けて制作したいと教えてくださいました。

メカニズム×アートワークで自分のやりたいことを詰め込む

▲操作と連動してキャラが滑らかに反応

「RPGのダンジョンって、レベルとプレイ時間を調整するために経験値・敵分布・移動距離を逆算して作られているんです」。この話がとても印象的で、ストーリーの一部だと思っていた部分がメカニズムの屋台骨になっていると知りました。

Mar氏は「ゲーム体験の枠組みそのものを変えたい」と教えてくださり、慣れ親しんだシステムから逸脱しないよう気配りしつつ、導線そのものを変えようと挑戦している姿勢も感じ取れます。

▲差し込まれるスチル絵にも相当な力を感じる

「2週目をただのフラグ回収にしたくない」と仰っており、中だるみしない仕組みを考えているとのこと。自分の願望を遊び手に押しつけず、メカニズムで解決しようとする考え方が印象的でした。

惰性で物語を追いかけるのではなく、遊ぶたびに姿や形を変えて遊び手の楽しめる形を目指しているとのこと。周回プレイに耐えうるアドベンチャー構造なんて可能なのかと思いつつ、今作だったらできるかもしれないと思わせる実力の高さを感じました。

▲少女の心情が現れる表情にも注目したいところ

「自分がやりたいことを全部詰め込みたい」と力強く語ってくださり、言葉の節々から熱量が溢れていました。アートワークを通じて独自の世界観を表現するというよりも、もっと泥臭く無数の選択肢を縫い合わせてコツコツ理想を追いかけている印象です。

キャラの可愛さといった表層的な概念の一歩先。プレイヤー体験を最大化させるため、異なる要素を総動員してやりたいことを組み上げている気がしました。遊び手が1週目のルートと向き合いながら、どうやって別ルートを回収していけるのか楽しみです。


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陰りと活気が雑多に入り混じる『クーロノイドシティ』

▲めっちゃ良い…それしか言う言葉がみつからない…

最後に個人的な推しポイントを一つ。今作はサイバーパンク×ケモミミ×香港を謳っており、舞台の『クーロノイドシティ』では香港の街並みが描かれます。それぞれ単体では見かけるものの、今回の掛け合わせパターンは珍しいなと思いました。

無機質でじめっとした研究所を抜け出すと、仄暗さと絢爛さが入り交じる特有のダウンタウン感がお出迎え。少女が抱える喪失感と建物が放つ妖しさがマッチしており、可愛さだけじゃない格好良さもあって惚れました。嫌いな人いないでしょ。

▲風景はもちろん特有の空気感が素敵

公式アカウントの開発秘話によると、クーロノイドシティの空気感を表現するため、大量の画集や書籍を購入して世界観の参考にしているとのこと。ふわっとした背景で誤魔化すことなく、好きなモノと真摯に向き合う姿勢も感じられます。

また物語が進むごとに異なる舞台も用意されているらしく、様々なロケーションを眺められるのも今作の醍醐味といえるでしょう。香港の持つ陰と陽の空気感と相まって、ついついアンニュイな気持ちになる未来が筆者には見えました。

▲いろいろな場所に外出できるらしい

今作はケモ可愛いキャラや近未来的な世界観が好きな方はもちろん、人工物が朽ちて植物と入り交じった薄味アポカリプスが好きな方にもオススメ。シナリオ以外の部分も最後までチョコたっぷりで遊び手心を分かってらっしゃるのよ…

製品版のリリースは未だ時間も掛かりそうですが、イベント出展にも力を入れているので見かけたら是非触って欲しいところ。心をざわつかせる少女との交流だけではなく、舞台となるクーロノイドシティの空気感にも注目したい作品でした。

ストアリンク
https://store.steampowered.com/app/2545200/_/?l=japanese


PANDRI-DONとは?

ゲーム開発者である『Mar』と『ザクロスケ』を中心として活動する開発チーム。現在は『アニマロイドガール』を作るために集まったメンバーが主体となり、イラストを手がけるイラストレーター/アニメ作家の『逢編いあむ』を招いて3名で活動中。

Live2Dイラスト、実写動画、3DCGをミックスしたリアルタイム映像表現とプレイヤーの選択の重みを大切にしたナラティブなADV&VisualNovel作りを得意とします。 過去作品として、Webby Awards 2013を受賞したMar個人制作・ベクタースキャン風3Dシューティングゲーム『VECTROS』、ザクロスケ個人制作・Live2Dで動きまくるクズ囚人観察アドベンチャーゲーム『Romp of Dump』をリリース。


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