インディーゲームは癖が付きもの。トキメキでもあり呪いでもある風習が根付くなか、「癖を出して行こうぜ!」と最前線を爆走している開発者を見つけた。それが『72Studio』の代表『ななにい』氏です。
「イベントでよく見かけるな~」と思いつつ、今までしっかり話を聞いたことはありませんでした。人外キャラに思い入れを持っていることは知っていましたが、並々ならぬバイタリティを底支えしている癖の正体は何なのか。正直気になっていました。
この記事では、ななにい氏が制作している作品『Batterynote』を紹介しつつ、「ななにいさんにとっての癖とはなんですか?」の返答を書き残しました。この作品が生まれた理由についても見え隠れしているので、最後までお付き合い願えれば幸いです。
当記事は『東京インディーゲームサミット2025(TIGS2025)』に参加した際の取材から構成されています
廃棄場からサルベージしたロボと最期の会話を楽しむ

『Batterynote』は、人間に危害を加える「アノマリー」と見なされて廃棄されたロボット達を修理し、キャラクターと最期の会話を楽しむビジュアルノベル作品です。ロボットは電源が切れているため、まずは充電して叩き起こす場面からスタートします。
また今作はロボットとの会話を純粋に楽しむほか、充電装置を使った「過充電」でロボットを処分することも可能です。生意気なロボットへのお仕置きや言葉を引き出す駆け引きはもちろん、気まぐれで電気を流すマッドサイエンティストプレイも。
会話できるキャラは全部で3体用意されており、それぞれ性格や作られた目的も異なります。せっかくなので軽く紹介させてください。
サーベリー【セキュリティロボ】

ビルの監視ロボとして導入されたモノアイが特徴のロボット。ストーカー気質で人間を盗撮しまくっていたところ、クレームが入り無事にアノマリー判定されて廃棄場に。「ダンナ~♡」とか喋り掛けてくるので良い感じにネットリしてます。
ほかの2キャラと比較して友好的であり、充電してあげたことに感謝する場面も。監視ロボットなのに何故ナンパキャラになったのか。色々あってならざるを得なかったのか。バックボーンとなる背景は本編で明かされるんだろうなと思います。たぶん。
デバインドR7【戦闘用ロボ】

軍事用として作られた誇り高き戦闘用ロボット。絵に描いたような戦士の心を持っており、敵との戦闘で自爆して命を絶ったと証言しています。真相を探るため記憶を覗いてみると、名前に含まれる『R7』の部分から意外な事実が見えちゃったり…
戦闘用ロボであるが故にセーフティー(安全装置)が組み込まれており、人間に対する暴力行為はロックされている様子。修理を担当したAIはデバインドの出身地を知っている様で、揺さぶりを掛けながら深いコミュニケーションに踏み込んでいきます。
ジェシカ【ウェイターロボ】

「ティミーズ・ダイナー」と呼ばれる職場で働いていた名物ウエイトレスのロボット。煽り性能MAXで初見プレイヤーの高電圧スイッチを快く押させてくれる優しさも持っており、筆者が体験版でぶっ壊した最初のロボでもあります。
本人は超人気であることを自負していますが、データを回収するとクレームを受けまくって廃棄寸前になっていた事実が発覚。店長のティミーとは仲が良さそうで、迎えに来てくれると信じていますが実はダイナーは廃業してて…
1週15分でスナック感覚でエンド回収が可能

今作は1週辺りの時間が15分と短く、理想のエンディングを追いかけやすい設計が施されています。キュートアグレッションでいじめ抜いても良し、最後の最後まで話を聞くも良し。人外キャラと思う存分コミュニケーションを楽しむ作品となっています。
廃棄場に捨てられていたロボットを持ち帰り、修理しては壊れる寸前の状態で会話を楽しむ。最初は「うわっ!なんか怖っ!」と感じましたが、遊んでいる内にどこか人間くささというか、もの寂しさも見え隠れしていて良い味出してるんですよね。

各種メディアやSNSでは「電圧を掛けて反応を楽しむ」遊び方で注目を浴びていますが、実際のところどうなのか。個人的に気になったので、ずかずかと話を聞いてきました。続きを読むと、今作の向き合い方と見え方が変わってくるかもしれません。
癖の発着点は『深淵の覗き見』

今作を試遊した際、まっ先に感じたのが「壊さなくても良い」という部分でした。どことなくキュートアグレッシブ(かわいいものを虐めたくなる衝動)をベースにした作品なのかなと思いきや、穏やかに会話を楽しむ流れが細やかに整備されています。
ななにい氏に「ご自身が一番癖を感じている部分はどこですか?」とお聞きしたところ、「人外キャラとコミュニケーションを取れるところです!」との返答が。正直、もっとドロドロしてるかと思っていたので意外な結果でした(とても失礼)。

筆者は『癖』=『過激なもの』をイメージしており、頂いた返答は真逆のモノ。「キャラを好きになって欲しいんです」と柔やかに話されており、過充電でロボを壊すエキセントリックな内容からは想像もできないモノでした。めっちゃ平和ですよね。
戸惑いを隠しきれずに驚いた反応を見せると、ななにい氏は続けて答えてくださいました。「人外キャラは確かに好きですが、コミュニケーションを重ねて相手を深く知ることが自分にとっての癖なのかもしれません、相手の深淵を覗く的な(笑)」と。

この言葉を聞いた瞬間、筆者は今作に対する思い込みを恥じました。表面的な部分にばかり着目し、コンセプトを勝手に思い込んでいたんだなと。このゲームの核は『相手を知って好きになること』であり、高電圧はコミュニケーションの一つだと気づかされました。
充電はクスリと同じで、劇薬にも良薬にもなる。主導権を握った状態で余命の短いキャラクターと会話を重ね、相手を知りながら好きになることが今作の根底を支えていることを知りました。取材を介して作品の解像度が高くなった気がします。
HARF-WAY コマーシャル

ゲームである理由は双方向のコミュニケーション

充電をコミュニケーションの道具と考えると、壊す以外の側面も見えてきます。仲良くなりたければ程よい充電を保ち、相手が対等ではなく高圧的な態度を取るようであればお仕置き。相手がロボットだからこそ成立する意思疎通といえるでしょう。
生殺与奪の権利を握っているというよりも、好きな子にちょっかいを掛けたくなるような心理になっていました。高電圧の言葉を真に受けてそのまま受け取ると物騒に思えますが、『ちょっとしたイタズラ』と考えると見え方も変わってきます。

また今作がゲームである理由についても、双方向のコミュニケーションを取れることが大きいと仰っていました。スイッチを片手に充電アクションを起こし、反応を介して相手の深淵を覗くことが今作の醍醐味かもしれません。たぶん。
ここまでの取材を通じて、相手を深く知るコミュニケーションが作品の推進力になっていることを聞かせて頂きました。しかし1点だけ引っかかりを感じている部分があり、最後の最後に質問させて頂きました。
窮地への追い込みで見えるもの

なぜ相手を壊せる状態にあるのだろうか。相手を深く知るのであれば、多少のイタズラはできたとしても破壊する必要はない。そこで「相手を壊さなくても良いんですよね?」とお聞きしました。
ななにい氏は「もちろんです!プレイヤーが人外キャラと好きなコミュニケーションを取る作品なので!」と答えてくれました。やはり電撃で無双して破壊を推奨する作品ではなさそうです。
取材を進めていくなか、「看取りのようなゲーム」という言葉をお聞きしました。人生の最後には嘘であれ事実であれ、深淵を覗いて本心と対峙することになる。きっと、この言葉が全てなんだろうなって。
15分では心を削る体験まで到達しないかもしれません。しかし、相手の言葉が遺言となってプレイヤーの記憶に刻み込まれるのなら、わずかな時間でも忘れることのない意思疎通になることでしょう。
まぁ体験版を遊んで軽くお話を聞いただけなので、ここから作品がどうなるかは全く分かりません。きっと心に秘めておきたい深い部分を引き出していくゲームになるんだろうな~と予想してます。
完成度についてお話を伺うと、全体チャートは固まってきたのでセリフとデザインを詰めていく段階とのこと。可愛いロボキャラの深淵を覗きたい方は、是非ウィッシュリスト登録して製品版をお待ちください。
ストアリンク
https://store.steampowered.com/app/3005930/BatteryNote/