“僕”と彼女の歪な同棲―セル画風アニメーションで描かれる蒼くて淡い世界―『Rain98』プレイレポート&インタビュー【BitSummit 14 PUNCH】

20年先にも世界があるのなら……教えてください。そこはどんな世界ですか?

どこか諦念を感じさせるキレイめ低音ボイスでそう問いかける少女の名は「雨原玲奈(CV:土屋李央)」。渋谷を拠点とするゲームスタジオ「C#4R4CT3R」が手掛けるサイコサスペンス&ロマンスADV『Rain98』のヒロインです。

2025年に情報が初公開された本作は、数々のイベント出展を経て国内外から様々な反響を呼んでいます。筆者も以前から注目しており、この度、京都みやこめっせで開催された「BitSummit PUNCH」にて遂に試遊することが出来ました。

本稿ではイベント期間中にプレイアブル出展された『Rain98』のプレイレポートと、本作のディレクターである「ショーン・T」氏へのインタビューをお届けいたします。

▲公式最新トレーラー

2025年の”僕”と1998年の「雨原玲奈」

『Rain98』は1998年に生きる少女「雨原玲奈」と、彼女の部屋に2025年からタイムスリップしてきた”“の歪な共同生活を描くアドベンチャーゲームです。

どこか危うげな空気を纏う「雨原玲奈」には「絶対に近付いてはいけないけれど近づいてしまう」そんな魅力がありました。

主人公はそんな彼女とともに「世界を滅ぼすための共同生活」を始めるのです。世界を滅ぼす。それは主人公も雨原玲奈も、お互いの時代が抱える腐った世界情勢に閉塞感を感じていたからでした。

雨原玲奈がタバコを吸いながら言い放った言葉が忘れられません。

「こんなクソな世の中、さっさと滅ぼしましょう」

この台詞にはつい共感してしまいました。なぜなら筆者も現代の社会情勢を見て「人間も世の中も腐り過ぎている……!滅んでしまえ!」と思ってしまうからです。

▲雨原玲奈との邂逅
▲タバコの火をくゆらせる

しかし、世界を滅ぼすといってもどうやるのでしょうか?

それは雨原玲奈が持つ「エンジェルパスポート」にシールを100枚貼る事です。シールを貼る?それでどうなるの?と思うかもしれません。

実は彼女の正体はノストラダムスの大予言に登場する「アンゴルモア」であり、世紀末に世界を終わらせる災厄だというのです。そして「エンジェルパスポート」にシールを100枚貼ることで、彼女は世界を滅ぼすエネルギーを獲得できるとのこと。

大それた嘘のような話ですが、彼女の言葉にはどこか真に迫る説得力がありました。

▲彼女は自身のことを、世紀末に世界を終わらせる災厄「アンゴルモア」だという
▲エンジェルパスポートにシールを100枚集める
▲「エンジェルパスポート」は1998年10月に実際に発売された「ヘブンズパスポート」が元ネタになっている

ただし「エンジェルパスポート」にシールを貼るには条件があります。

それは「世界に対する影響」を及ぼす行動をとること。具体的にはアンゴルモアである「雨原玲奈」の”想い”に応え、それをシールとして記録するのです。

例えば、一緒に何かを食べる、一緒にどこかへ行く。その行為自体がありふれたものでも、彼女が”特別だ”と思えたのなら充分世界に爪痕を残すような影響を与えるのだそうです。

実際に、最初は彼女の散らかった”汚部屋”を片付けることでシールを一枚貼ることが出来ました。そういった彼女が”特別だ”と思う行動を積み重ねて行くのです。

▲玲奈が”特別だ”と思うこととは?何をさせられるのだろう?

ルーズソックスとY2K—ミニゲームがもたらすゲーム性

今回開催された『BitSummit 14 PUNCH』の試遊版では新たに追加された要素がありました。

それは「雨原玲奈にルーズソックスを履かせる」こと。

単純にそういうシーンがあるだけでなく、ミニゲームとして実際にプレイヤーが雨原玲奈にルーズソックスを履かせるのです。

▲ドラッグ操作で少しづつ持ち上げる

実際にルーズソックスを履かせるシーンでは、単純に履かせるだけでなく「ソックタッチ(靴下のずり下がりを防ぐ糊)」まで塗るので「ほえ~、そうやって履くんだ……」と思いながらプレイしていました。

丁寧な描写によって『Rain98』の時代を象徴する90年代ファッションの手触りを感じることができ、とても臨場感がありました。加えて玲奈との距離感を演出する意味でもかなり特別な操作体験なのではと思います。

また、ルーズソックスを履かせるミニゲーム以外にも「カプセル詰め」や「アイロンビーズ作成」といった内職ミニゲームもありました。なので、会話だけが続いていくわけではない、アクセントの効いたゲームデザインといえるでしょう。

もちろんテキストが続いていくだけのゲームも好きですが、そういった遊び心が入ると没入感の向上に繋がりますよね。楽しい体験でした。

▲アイロンビーズ作成では、実際にビーズを詰めてアイロンをかける工程があり、リアルな体験が楽しめる

また、ルーズソックスと言えばY2Kファッションですよね。あくまで1998年が舞台なので明確なY2Kではないのですが、その源流ともなるアイテムは現代のプレイヤーにも受け入れられるのではないでしょうか。

他にも彼女の部屋には「たまごっち」をモデルにした「でじっぴ」や「ファービー」をモデルにした「マァービー」が置いてあります。1998年なので、ブラウン管テレビももちろんありました。

そういった平成を象徴するアイテム類が出て来るのも『Rain98』らしい要素といえます。平成を駆け抜けた現代のオタクたちにはとても刺さるのではないでしょうか?

▲でじっぴ
▲マァービー

『Rain98』のディレクターを務めるショーン・T氏へインタビュー!

BitSummitでの試遊当日は、レーベル『C#4R4CT3R』の創設者であり、本作『Rain98』のディレクターを務める「ショーン・T」氏(※)にインタビューすることが出来ました。

『Rain98』を制作した思惑や裏話、はたまた本作に関するちょっとした雑談まで、たっぷりお話を聞かせていただくことが出来ました。可能な限り内容を盛り込んだので、ぜひご覧ください。

※どこかのラジオパーソナリティみたいな名前だな…と思っていたら、ショーン・Tさん本人もその人を意識していたと仰っていました

◆90年代のアニメーションへの想い

――まず始めになのですが、『Rain98』は何名くらいで制作なさっているんでしょうか?

ショーン・T氏:いまは20〜25名くらいですね。最初は去年の4月ぐらいから動き始めまして、企画前の段階も含めると1年ちょっとぐらい動いています。その中で最初3名だったメンバーが、いまは結構増えて20名から25名ぐらいです。

――かなり人数が増えたんですね。

ショーン・T氏:なかなか中所帯ぐらいになってきて、やっぱりイラストとか結構な数のミニゲームがあるので、割とギュッと人に手伝っていただいています。

――90年代のアニメを彷彿とさせるセル画のアニメーションが素敵だなと思いました。90年代を舞台にしているだけあって、やはりそういったセル画のアニメは意識なさっているのでしょうか。

ショーン・T氏:そうですね。90年代の中でもやっぱり90年代初頭と後半も雰囲気が違ったりして、特にパッと思いつくのだと、コナンの1998年ぐらいのやつとか、ポケットモンスターとかですよね。やっぱりあの辺が一番絵としても脂が乗っています。攻殻機動隊とかも良くて、それは1995年かな。

あの時代特有の絶妙な絵心をそのまま再現するというのは難しいのですが、あの雰囲気をつかめるような形を目指しています。特にやっぱり光の入れ方は力を入れていますよね。うちのチームは今そういった演出が好きなメンバーが多くて、みんなで話し合いながら作っています。

――たしかに、光の入れ具合は凄いなと思っていました。セル画特有の光の当たり方ですよね。玲奈の部屋の光の当たり方とか凄いな、と思います。

ショーン・T氏:そうですね。 透過光風というか。そういった光の入れ方に力を入れています。

▲滲むような淡い光は、セル画特有の効果だと言える

――トレーラーの冒頭で浮かんでくる3行の文字も良いですよね。あれも攻殻機動隊の冒頭のシーンみたいで。凄い雰囲気が出ているなと思いました。

ショーン・T氏:まさに、あの雰囲気を意識しています。

▲『Rain98』トレーラー冒頭で浮かび上がる文章

――そういったセル画のアニメーションって、今でも作れるものなんでしょうか?

ショーン・T氏:実は『Rain98』のアニメーションは本当のセル画ではないんです。ただ当時のアニメを見てない人だったり、90年代に生まれていないような若い人だったりも、やっぱりこの雰囲気を好きになってくれる方が多くて。

そういう意味ではそのまま当時のセル画っていうわけでもなく、今のデザイン性だったり何かしらの新しいものを取り入れつつ、ちょっとニューなものを作ろうとはしています。

まだまだクオリティを上げられる部分もあるので頑張っていますよ。

◆90年代を舞台にしつつ現代に受け入れられるように

――今の時点でも既に綺麗なのに更にクオリティが上がるんですね…!今の話とも少し被るのですが、90年代の雰囲気をメインにしつつ、今風の要素を出すために意識しているところはあるのでしょうか?

ショーン・T氏:そうですね。やっぱり今出すゲームとして考えた時に、いろんな面に90年代の要素は入りつつ、ただ本当にそのまま90年代にしすぎてしまうと、ちょっと重たくなってしまう。ある意味で属性がちょっと小さくなっちゃうのかなっていう感覚があって。

なので、やっぱりパッと見た時の印象とかは意識していますよね。特に玲奈のデザインは今の人でも好きになれる見た目だけど、やっぱり何か90年代も感じるような絶妙なところを狙っています。

▲「雨原玲奈」のキャラクターデザイン

ショーン・T氏:あとはゲームのテンポにも気を付けています。90年代のアニメってスローテンポで間の長いものが多いんです。ただ現代のものはすごく早い。

僕自身は間があるものが好きなんですけど、本当に全部重たいとユーザーが疲れちゃいます。なのでそこの緩急というか、現代にも通用するテンポっていうのはチームの中でも話しながら絶妙なポイントを見つけようと模索しています。

それと、多くのユーザーが本物の90年代のものをやりたいのであれば、それはもう当時のゲームやアニメを見れば良いとなってしまいます。

でも僕の中だと、何か気軽に触れられるけど、本物の持っている価値もちょっと浴びたいっていうユーザーが一番多いんじゃないかなと思ってまして、そういうユーザーに向けたものにしたいなと思ってます。

なので間口が大きくなるように、デザインだったりとかゲームのテンポだったりとかそういうものを調整するようにしてます。 

◆Rain98を制作する上で参考にしたアニメ作品

――そういった部分で、90年代を知る人たちにも受け入れられるよう、意識したアニメ作品はあるのでしょうか?

ショーン・T氏:毎回答えているものだと、『PERFECT BLUE』(パーフェクトブルー)だったりとか、それこそ『Serial Experiments Lain』(シリアル・エクスペリメンツ・レイン)だったりですね。

90年代後半のアニメは個人的にゲーム関係なしにすごい見ていたこともあるので、そういうものからのイメージっていうのはすごいあります。

それとこの二つに加えて、あれは1993年の作品だったかな。ジブリの『海がきこえる』にもインスピレーションを受けています。あの作品の雰囲気とかテンポとかは特に参考になっていますね。ある意味あの時代にしかなかったものというか。

――『海がきこえる』は私も好きです…!復刻上映を観に行ったこともありました。『Serial Experiments Lain』もオープニングが良いですよね。『PERFECT BLUE』や 『パプリカ』は私はまだ見れてなくて、見てみようかなって思いました。 

ショーン・T氏:ぜひ、個人的におすすめです。 

ただ、あれのコピーにならないようにしないと、やっぱりオリジナルの凄い作品は作れないのかなっていうのが、難易度の高いところだなとは思っています。

◆現代に生きる主人公を1998年にタイムスリップさせた意図

――ありがとうございます。あとは、単純に90年代を舞台にするだけではなく、主人公が2025年からタイムスリップしてきた人物である点は重要な意図があるのでしょうか?

ショーン・T氏:はい。結論から言うと、「もし今の時代に苦しむ20代の人とかが90年代後半の『世界が滅ぶ』と言われていた時代に行って、本当に世界を終わらせることができたらどういう気持ちになるんだろう」というのがあります。

まず、この企画が立ち上がった時に98年を舞台にしようというところは決まっていました。そこでどういう話をするか考えた時に、今の2026年の時代が持っている閉塞感、それこそ戦争とか格差社会ももちろんそうですし、今まさに石油の問題とかがそうですよね。

その現代の仄暗い世界の雰囲気と、90年代のノストラダムスの大予言でアンゴルモア(恐怖の大王)が来ると言われていた世紀末の暗さが何かリンクするのかなっていうのがありました。

そういったものがあった時に、僕が日々ニュースを見ている中で未来に希望が持てない人がすごい多かったんです。

そこで考えたことが先ほども言った通り「もし20代の人とかがあの時代に行って、世界を終わらせることができたら、どういう気持ちになるんだろう」ということです。

それがきっかけで現代の人に届けたいと考えているので、 90年代を通して「現代の生き方」を話のテーマにしようと考えました。なので現代が対応している舞台になってます。

▲主人公は20年以上先の未来「2025年」からタイムスリップした

――それで主人公が2025年の人間で、玲奈は90年代後半の世紀末の人間なんですね。

ショーン・T氏:そうですね。ある意味、玲奈が90年代末の象徴みたいな存在になるキャラ属性を考えた上で、それでもやっぱり等身大の少女であることも大事にしているキャラクターではあります。そういったものを通じて今の人の考え方や生き方に刺激が与えられたらいいなっていうのが企画の根幹にあります。 

――まさかここまで深度のある回答が来るとは思っていなかったので……ストーリーが更に気になってきました。

ショーン・T氏:ストーリーはかなり展開が変わるので、想像しないお話が楽しめるんじゃないかなと思います。

一応全7章の予定で、今回の体験版が第1章の中でも一部カットした1章なので、まだここから結構先があるんですけど、話はダイナミックに変わっていくので楽しみにしていただければと思います。

◆玲奈がタバコを吸ってるのってやっぱり…?

――あと、途中から玲奈がタバコを吸うシーンが出てきますよね。「あれ、玲奈って高校生じゃないのかな」って気になりました。

ショーン・T氏:ここは当時の時代感ですよね。ただ、もちろん我々も未成年喫煙を肯定・推奨する意図はないので、作中でも玲奈の年齢や所属については意図的に明言していません。それでも他ハードに展開する時はレーティングが気になってしまいますが。

――たしかにレーティングが大変そうですよね……C(15歳以上)とかD(17歳以上)になりそうです。

ショーン・T氏:そうですね。でもそういうのも含めて、攻めたものを作りたいなという想いがあります。

◆Rain98を待ち望んでいるユーザーへのメッセージ

――ありがとうございます。質問としては最後になります。本作『Rain98』を待ち望んでいるユーザーやこれから知るユーザーに向けて何かメッセージはありますでしょうか。

ショーン・T氏:今回、京都のBitSummitでは体験版にルーズソックスの体験を新しく入れました。

意図としてはこのゲームはただのノベルゲームでもなく、かといって本当にただのアニメでもない、少しでもゲームとしての遊び心地として新しいものを体験させたいな、という想いがあります。

それは一重に玲奈っていうキャラクターをとにかく凄く好きになってほしくて、そのための演出として全てを用意しています。

なのでかなりコンセプチュアルなゲームかもしれないんですけど、絶対その玲奈っていうのは忘れられないキャラクターになってくれるんじゃないかな、と思っています。

あとは最近、『Rain98』の公式Discordを始めました。そこで開発の資料とか進捗とかを報告してやっています。僕や開発メンバーもそこでたくさん話しているので、興味を持った方は、ぜひDiscordに入って仲良くしてほしいです。

『Rain98』は現代と90年代を繋ぐアドベンチャーゲーム

Rain98』は当記事公開時点ではSteamでも体験版が公開されていない作品で、今回BitSummitで試遊できたのは貴重な体験となりました。なので当記事で少しでも本作の魅力が伝わればと思います。

またプレイレポートからも分かる通り『Rain98』は1998年を生きる少女「雨原玲奈」と2025年からタイムスリップしてきた”僕”の歪な共同生活が描かれる物語です。そのストーリーを通して描かれる現代と90年代末期が持つ共通点は、今を生きるプレイヤーたちの「現代の生き方」を示す上での一つの方向性となるのではないでしょうか。

また、「雨原玲奈」の人物像もとても気になります。彼女が持つ危うげな雰囲気には、どこかプレイヤーの心を深く突き刺してくるような魅力がありました。彼女との共同生活はいったいどのような展開を迎えるのでしょう。

ストーリーは全部で7章の予定。その物語がどう展開されていくのか、今から楽しみにしています。

〈詳細情報〉

ゲーム名Rain98
ジャンルLo-Fi × サイコサスペンスADV

最新情報をチェックしよう!

インタビューの最新記事8件