都会、一人暮らし。若者とビル清掃|『スカイ・ザ・スクレーパー』の開発者『古淵』氏にプチ取材

休日に11時まで二度寝を決め、ダラダラ過ごして気づけば15時に。身体も心も欲求に従順。平日の疲れを言い訳に、毎週飽きもせずしおらしくなっている。人生は上手くいかない時の方が多くてやるせない。

今回取材させて頂いた『古淵』氏の作品は、ビル清掃を題材にした都会の若者が主人公。スイング操作で颯爽と窓掃除をこなす傍ら、少ない手取りと両親の小言に気を落とす。夢はなくても志を捨てず、人生と対峙する姿に「今を生きる」を感じました。

この記事では、古淵氏が制作する『スカイ・ザ・スクレーパー』について紹介します。アクションとADVの面白さを併せ持つ作品でありつつ、真面目に生きる大人の心臓をキュッと締め付ける空気感にも注目です。

今を生きる若者を描くビル清掃アクションADV

▲家賃が滞納すると即追い出される

スカイ・ザ・スクレーパー」はビル清掃を題材にした若者の人生を描くアクションADV作品です。命の危機と隣り合わせの『ビル清掃』で歩合制を取っており、業務時間内に仕事をこなせれば豊かな生活を送ることも可能。ここだけみるとザ・ノンフィクション。

ビル清掃パートでは強風や障害物を避けつつ、スタミナを管理しながら汚れを落としていきます。物語が進むと『シナプス』が発火して特殊スキルを獲得。頑固汚れをものともせず拭き取れるとのこと。

▲命懸けの窓掃除で日銭を稼ぐ

主人公は親元を離れて一人暮らしをしており、大家から急かされて家賃を振り込むギリギリの生活を続けています。四苦八苦しながらも志を捨てず、何者かを目指して暗闇を走り続けるような作品でした。

具体的な夢がない。それは決してネガティブなことでもなく、ほぼ全ての人が感じて抱えている感覚だと思います。いまを生きる若者に焦点を合わせた、アーバンな雰囲気も今作の醍醐味かもしれません。

▲ぶっきらぼう過ぎる父

また作中では我が子を思う親との隔たりや、出世していく友人に生じる密やかな劣等感など、ぎくしゃくした人間模様が描写される場面も。胃が絞られるような閉塞感もアクセントを加えています。

成功者を描くのではなく人生と対峙する若者を描く。開発者の『古淵』氏は「壁にぶつかっているひとも、壁を通ってきた人にも遊んでほしい」と仰っており、人生ドラマのようなアドベンチャー色の強い作品であることが伝わってきました。

文脈を重要視してローグライクから路線変更

▲スイング移動とスキルでアクション性◎

今作は『ローグライク』のジャンルとして走り出し、開発中に路線変更をおこなった結果『アクションADV』に着地。個人的に動向を探っていた作品だったので、この決断は英断だったなと感銘を受けました。

「何故ローグライクから路線変更をしたのですか?」の質問に対して古淵氏は、「若者の人生観を描くアドベンチャー要素が強い作品なので、ローグライクとのミスマッチが生じることを危惧している」と教えてくださいました。

▲勤務シフト等の軽いランダム要素はある様子

ビル清掃のアクションを絡めたハイテンポな作品ではなく、文脈を重要視するハイブリッド型を目指しているとのこと。『ビル清掃アクション』のパンチラインも素敵ですが、想像よりもゆったり遊べる仕上がりになるのかなと予想しています。

ビル清掃後には自由行動できる生活パートも用意されており、プレイヤーの選択によって行動範囲も拡大。行動によって『志』と呼ばれるパロメータが増減し、やり方次第ではヤンチャな行動を取ることも。

▲行き当たりばったりで生きることもできそう

また古淵氏は「異なる文化圏も盛り込んでみたいんです」と仰っており、展開によって舞台が変わることも教えてくださいました。都会が持つ気怠げな雰囲気も似合うのですが、それ以外のシチュエーションも楽しみだなと感じました。

サクサクと周回をこなすローグライク。どっしりと腰を据えて若者の葛藤を見守るアドベンチャー。軽すぎず重すぎない塩梅が難しそうですが、双方の長所を併せ持つハイブリッドな作品に期待が膨らみます。

生まれたきっかけはゲーム遊び仲間との何気ないやり取り

▲ビル清掃は装備品が多い

「何故ビル清掃を取り入れたのか」を尋ねると、古淵氏は「友人がビル清掃をしていて、作業道具がガジェットみたいにカッコ良かったのでビルドを組んでみたんです笑」と照れくさそうに明かしてくれました。

最初から完成形が見えていた訳ではなく、冗談交じりに制作を進めていく内に今作のテーマが見えてきたとのこと。『なんとなく面白そう』が起点になっており、柔軟な開発思想も垣間見えます。

▲汚れの種類によっては中々落ちない

ビル清掃をしているご友人はゲーム遊び仲間らしく、一緒に遊ぶかのように面白がってビルドを組んだのかなと思いました。ノリでビルドを組みあげるって、非プログラマからすると想像もできない世界です。

個人的な意見になってしまうのですが、作中で『シナプス』と呼ばれる要素も印象的でした。言うなれば『スキルツリーシステム』なんですが、ゲームとの親和性も言葉の響きもビタッとハマっていて美しい。

▲機微の捉え方がとても好き

今作は仕事の合間に自由時間が設けられており、散歩等の行動を取ることで徐々に行動範囲が広がっていきます。寝てばっかりだと成長は見込めず、行動を積み上げて各種スキルや物語に還元される形です。

本来シナプスとは『脳の神経細胞を繋ぐ』役目を担っています。経験を積んで自分の可能性を切り開く若者とリンクしており、違和感なく溶け込んでいて職人芸を感じました。こういうの好きなんですよね。

お金を貯めて生き抜くことは第一目標であり、志を持って今を生きることが今作の核といえます。技術を磨いて効率良くビル清掃するのも大切ですが、人生ってそれだけじゃないよなと思ったりするのです。

壁にぶつかっている若者と
壁を乗り越えた大人へ

▲こういう連絡がくるとキュッとなる

古淵氏いわく、エンディングとして腹落ちする部分はあるものの、明確なゴールを明示することはしないとのこと。右も左も分からずがむしゃらに生きて、ハッキリとした夢を持てなくても、志を捨てず生きる若者に正解なんてないですもんね。

今作はメカニクス的な楽しみ方ではなく、人生の追体験に重きを置いているように感じました。金もないし疲れたから寝る。ちょっとだけ元気だから気分転換に散歩して新しい発見をする。良くも悪くも、新卒だった頃の自分を思い出しました。

▲哀愁が漂うTHE END

古淵氏は「仮説立証をするのが好きなんです」と仰っており、遊び手が主人公の息苦しい生活や人間関係の軋轢への反応を見て、どこでどんなリアクションをするか眺めて楽しんでいるとのこと。

体験版の配信やイベントでの試遊など、人によって異なる反応が返ってくることも珍しくないそうです。「給料低すぎ~」と嘆く人もいれば、『親とのやり取り』に苦い顔をする人も。こういう話を聞くと、ほんとに人生って難しいよなと感じます。

▲壁にぶつかる人、振り返っている人

「壁にぶつかっている人も、壁を通ってきた人も遊んで欲しい」。20代の将来に対する希望と仄暗さを題材にしたまばゆい作品だと思っていましたが、本当はそうじゃないのかもしれません。

若者の人生を追体験する一方、自分の回顧録をめくっている感覚にもなりました。自分の人生とほんの少しでも真面目に向き合った経験のある方は、きっと何かを感じる作品だと思います。

ストアリンク
https://store.steampowered.com/app/2387430/SKY_THE_SCRAPER/

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