短編よりさらに短いお話を指す「掌編」。
主に小説で用いられるジャンルですが、最近ではフリーのノベルゲームでも見かけるようになりました。
もし商業ゲームなどの長編を打ち上げ花火にたとえるなら、掌編は線香花火になるのかもしれません。ただ、その刹那の美しさを「一度読んだらおしまい」と考える人もいる模様。
その考え方、とてももったいないと思っています。線香花火に似ていることをもっとポジティブに考えて欲しくて、このテーマで記事を書こうと決めました。
今回はそんな掌編の魅力・楽しみ方について、ゆるりと持論を語っていきます。
掌編は「一度読んだら終わり」ではない
私が思う掌編の醍醐味は、ストーリーの機微やゆらぎを感じ取ることにあります。
そもそも、掌編に派手なアクションや複雑な分岐といった“ゲームらしさ”を求めるのは違うのかなぁと。とはいえ、「掌編は一度読んだら終わり」…というものでもないと思います。
――その儚い燃え方から、人の一生をあらわしていると言われる線香花火。刹那的な美しさのほかにも、掌編と似ていると思うんです。
人間って、ライフステージによって考え方が変わりますよね。たとえば会社の同僚だったら「超気持ち分かるな…」とか、新入社員を見たら「自分にもああいうときがあったな…」とか、憧れの上司には「あんな風になりたいな…」とか。
誕生、成長、余生、終焉。私たちはやり直しがきかない人生を一本道に進んでいますが、感情は一定ではありません。掌編も一緒です。
つまり、掌編とはゲーム内に変化を求めて再プレイするのではなく、変わらないストーリーを読み返すたび、解釈に変化があるものではないでしょうか。
さまざまな経験を積むことで好きなもの・苦手なものが変わるように、初回プレイから感想が変わることもあります。人間だもの。
だから掌編に求めるべきはゲームそのものの変化ではなく、プレイヤーの感じ方・受け取り方の変化を楽しむ娯楽なのです。きっと。
何度も読み返したくなる掌編ノベルゲーム4選
掌編は性質上、時間が経って大まかなストーリーを忘れることもそうそうありません。だからこそ、自分が最初に抱いた印象を振り返りやすいでしょう。
たとえ初回から感想が変わらないとしても、それもお話に感じる読み手の答えなのだと思います。
この記事では、ふとした瞬間に思い出し、もう一度刹那の美しさを楽しめる掌編を4つ紹介します。
※明確なネタバレはありません。
①INNOCENT
少女が大人になっていく過程を丁寧に描いた一本道ノベル。絵本のようなタッチのイラストが可愛らしく、物語に華を添えています。
結末を知ったらタイトルセンスに嫉妬すること間違いなし。誰しもドキリとするはずです。人生は選択の嵐。あなたも思い当たる節があるかもしれませんよ。
【ゲームリンク】
https://novelgame.jp/games/show/8701
②あのひ あのとき
仕事が終わり、何気ない帰り道。3分あれば読み終わる掌編ですが、分岐があります。セピアカラーのドット絵がエモい雰囲気で、海辺の町を夜歩くという設定もドラマチック。
ちょっとしたことで、日常ないしは人生は枝分かれしているのかもしれません。ぜひ「音ONでお楽しみください」の真意をご覧あれ。
【ゲームリンク】
https://novelgame.jp/games/show/8352
③fascinoma
100字のお話を綴った、10粒のチョコレート。オムニバス形式のノベルを、まさかアソートのように楽しめるとは。食べたらなくなるように、読み返せないシステム性も粋でした。
個人的に、チョコレートの包み紙をめくるようなワクワク感が味わえるところが嬉しかったです。掌編ノベルゲームの新しい型に触れました。
【ゲームリンク】
https://novelgame.jp/games/show/2001
④美しき人
父から娘への想いを読み進めていきます。とにかく一文一文が美しいので必見。少なくとも2周は必須の掌編ノベルです。初見は、たった一言で逆転する文章力に圧倒されます。
短い物語も、演出次第で劇的に変化することを教えてもらいました。そしてグラフィックや音楽も、掌編を彩る要素に欠かせませんね。終始徹底的なこだわりを感じます。
【ゲームリンク】
https://novelgame.jp/games/show/2303
掌編を再プレイしないのはもったいない
大前提ですが、長編と掌編を比べるのはナンセンスです。だって、そもそものフィールドが違いますから。
とはいえ、かくいう私も昔はもっぱら長編派でした。でも、マルチエンディングややり込み要素など、何度も遊びたくなる工夫だけがゲームの面白さではない。今なら、私はそう思えるのです。
なにより「これ面白いですよ!」と紹介しやすく「絶対遊びますね!」と返しやすいのもコンパクトな掌編ならでは。
巡り合えていない掌編がまだまだあると思うと、つい心が躍ります。ぜひ皆さんのおすすめ掌編もたくさん発信してください。ロケット花火のように飛んでいきますので。