秋の夜長におかゆ本

文字をどれだけ愛していても、自分の脳がそれを拒むことがあります。

「とにかくもう本を手に持って開いた状態を維持する気力すら私にはないんだ」みたいな。「自分を大事にするために、まずはあたたかいお茶でも入れてリラックスしましょう……なんてクソくらえだ!」みたいな時。疲れているのを自覚して立ち止まる余裕すらないあなたに『おかゆ本』を勧めさせてください。

おかゆだぁ!?しゃらくせえ握り飯をよこせ!と思うかもしれません。でも説明するから待って~。

おかゆ本とはその名の通り「おかゆみたいな本」です。私がまさに今適当に作った概念ですから、聞いたことがないのも当然でしょう。

さておかゆ本とは様々な苦労や飲み込み難いものを飲み込み続けて必死に消化した末に弱り切った五臓六腑にしみわたるような本のことです。感情の起伏が少なく、物語の波が大きすぎないものですね。刺激の強さでレベル分けしつつ、絵本や漫画を挙げています。

楽しんで読めたらもちろんそれが一番ですが、おかゆ本の一番の目的は、苦にならない読書体験を得ること。積極的に楽しいと思えなくてもOKです! 

ほいじゃいきましょう。

おかゆレベル:さらさら(脳が文字を拒否するときに)

junaida『Michi(みち)』福音館書店

▲福音館書店HPより引用

【福音館書店 HP】
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=5765

文字が一切ない絵本です。表紙にいる男の子と女の子が、みちをずっと歩いていく絵本。表紙の街から始まり、ページをめくるごとに大きな木を中心に構成された街、本の街、海の下にある街、サーカスのテントの中のような街など、様々な街を巡ります。すべての街が白いみちで繋がっているのが楽しい。

細かい書き込みをひとつひとつ目で追うもよし、気に入ったページを遠くからぼーっと眺めるもよし、ここで生活するならどの家に住もうと空想するもよし。 

しっかりとした作りで、開いた状態を維持するための体力も必要なし!寝転がりながらでも読めます。

株式会社 福音館書店
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画集『箱庭世界 小さな空想の世界を描くイラストレーターズファイル』パイ インターナショナル

▲パイ インターナショナルHPより引用

【PIE International HP】
https://pie.co.jp/book/i/5509/

副題の通り、細かい描き込みや独特の世界観が特長の世界を描くイラストレーターの紹介本です。

それぞれの絵に作者によるコンセプトの説明やこだわりポイントの解説がついているのがよき。前述した絵本と比べて様々な画風が目に飛び込んでくるので刺激は強めですが、小さいころにゲームの攻略本を読み込んでいた人なら、こちらの方が好きかもしれません。

星野道夫『【新版】悠久の時を旅する』クレヴィス

▲クレヴィスHPより引用

【Crevis HP】
https://crevisonlinestore.com/items/60ee3cffc3289c0bc27e7a85

星野道夫といえばアラスカの自然と動物と暮らし。この本は写真集ですが、後半にはエッセィも多く収録されています。

白い雪に点々とゴマを巻いたように見えるカリブーの大移動や、海に沈んでゆくクジラの尾びれ、親子さん引きピッタリ並んで眠るシロクマを見ているうちに、ここではないどこかに心だけでも飛んでいけるはず。

大きな本なので開いた状態を維持するにも少し体力が必要です。ちょっと気力のある時におすすめ。

クレヴィス
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おかゆレベル:やわやわ(元気とかそういうの考えるのもムリ~、な時に)

香山哲『レタイトナイト』路草コミックス

▲路草コミックスより引用

【路草 HP】
https://michikusacomics.jp/product/leteitenite

ベルリン生活漫画『ベルリンうわの空』の作者による新作ファンタジー漫画です。表紙中央にいる主人公・カンカンが自村での生活に疑問を持ち旅に出る物語……かと思いきや、第一巻では左端にいるダックスフンドのような頭を持ったカンカンのおじさん「マル」が一歩先に旅に出ます。

旅行よりも長めに自分の住んでいた土地を離れる際、私たちが気にすることは、持ち物、食事、それから移動手段。物語の本筋には関係のない生活に関するそれらの描写が丁寧に何度も登場します。読んでいるうちに「ちょっと、野菜食べるかあ」と言う気持ちになる……かもしれません。

黒と青、二色刷りの印刷によって描かれる生き物や自然風景をぼーっと眺めるだけでも楽しい。

著:香山哲
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森薫『乙嫁語り』KADOKAWA

▲KADOKWA HPより引用

【KADOKAWA HP】
https://www.kadokawa.co.jp/product/200908000221

描き込みに次ぐ描き込み。19世紀半ばの中央アジアを舞台に、そこで生きる人々の生活を丁寧に描写していきます。

布!刺繍!食事!動物!建築!絨毯!装飾品!武器!全部細かい、全部楽しい!漫画というかもはや画集。実際、愛蔵ワイド版も出版されています。

私のおすすめは4~5巻に収録されている海辺に住む双子の結婚式。華やかな宴の様子とじっとしていられない双子、そんな彼女たちに振り回される夫兄弟のやり取りが楽しいポイント。細かく描写される食事の用意も見どころです。

11月から世田谷文学館にて特別展も開催されます。行ける方は要チェック!

【詳細リンク】
https://www.setabun.or.jp/exhibition/20241102-20250224_morikaoru.html

著:森 薫
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おかゆレベル:具入り(元気になりたいと思う程度の気力がわいてきたときに)

井上まい『大丈夫倶楽部』マンガ5

▲マンガ5HPより引用

【マンガ5 HP】
https://manga-5.com/content/00130001

主人公・花田もねが「大丈夫になる」ために様々な研鑽を積む日常を描いた漫画です。特別な工夫をしているわけではなく、なんとなく家に帰りたくないときは自分が満足するまで散歩するとか、バニラアイスにカラフルな砂糖フレークをかけて食べるとか、ちょっとしたことの積み重ね。

人生ままならないことが多いけど仕方ない。やっていくか~と消極的な前向きさを手に入れる方法を、主人公と一緒に探してみましょう。ま、なんとかなります。大丈夫。

著:井上まい
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幽乃れれ
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はらだ『ハッピークソライフ』竹書房

▲竹書房HPより引用

【竹書房HP】
https://www.takeshobo.co.jp/book/b10068262.html

主人公は葛谷と粕谷。クズとカスの二人がその、本当にその、本当に最低で下品なことをし続ける漫画です。えっとね、ディルドを扇風機に装着して回転させようとしたけど接着が甘くて飛んでっちゃった~というシーンから始まります。この漫画においてこのシーンはお下品レベル1です(10段階評価)。

10月発売予定の新刊の帯には、でっかく「ミッション:チンポッシブル 屈辱上等、令和ちんぽこ合戦!!!!!!!!!」と書いてありました。ずっとこんな調子。

読んで笑っているうちにほとんどの悩みはどうでもよくなります。本を閉じた瞬間から再度悩まされることになったとしても、この漫画を読んでいる間のあなたは無敵です。

同じ作者による『ワンルームエンジェル』(祥伝社)を読むと同じ脳から出力されているという事実による混乱を楽しむこともできます。おかゆ本ではないですが、こちらもおすすめ。

著:はらだ
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以上です!

一番の休息は睡眠およびなにもしないこと……とはいえ人間眠り続けることはできません。なにもしないって意外と難しい。本に限らず、映画とか音楽とかゲームでも良いので、自分だけのおかゆコンテンツを確保しておくとグッドです。のんびりやっていきましょう。

幽乃れれ
活字しんどいな~という時はこのサイトの漫画記事も併せてご覧ください。

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