宇宙船を舞台にしたSFミステリー『アルタイル号の殺人』は、プレイヤーが“船のAI”という特異な立場で事件の真相を追うアドベンチャーゲームだ。
逃げ場のない船内で次々と起こる不可解な事件。人間たちの恐怖と疑念を、冷静な観察者として見つめるスリルがこの作品の最大の魅力だ。緊迫感と美麗なビジュアルが織りなす究極の閉鎖空間に潜む真実を、あなたは暴けるだろうか?
Nintendo SwitchとPS4で配信されており、2025年10月にSteam版も登場した今、改めてこの宇宙規模の密室劇をご紹介したい。
閉ざされた船で起こる究極のSFクローズドミステリー

有人探査船「アルタイル号」で起こる事件を描いた本作は、宇宙という壮大なスケールの中で閉鎖空間に閉じ込められた人間たちのドラマを描く「SFクローズドミステリー」だ。
物語の舞台は2092年——木星の第4惑星にある研究基地が謎の事故で爆発し、その残骸を回収しに向かったアルタイル号。基地内で冷凍カプセルに入った天才学者と、そこに寄り添う謎のアンドロイド「フレム」を回収したことから物語は始まる。
やがて船内で次々と不可解な事件が起こり、死者まで出る事態に。犯人は船内に潜む謎の生命体なのか、それとも乗組員の誰かなのか……?
主人公(プレイヤー)は、なんと”アルタイル号のマスターAI”。つまり宇宙船そのもの。ちょっとポンコツなアンドロイド・フレムを相棒に、極限状態の閉鎖空間で起こる事件に挑む。
手軽に挑める壮大なSFミステリー

▲探索コマンドは「見る」・「話す」・「触る」
舞台が宇宙である以上、地球の常識は通用しない。酸素がないため船外へは逃げられないし、重力がないから自由に移動もできない。そういった宇宙ならではの物理的法則がトリックに絡み、日常の当たり前が通用しない恐怖が独自の緊張感を生み出している。
船内システムを統括しているアルタイル号は、乗組員の行動を監視する圧倒的な情報権限を持つ。その一方、船そのものであるプレイヤーには手足や声がないため、登場人物たちを問い詰めたり証拠を調べる物理的な干渉はできない。何でも知っているのに手が出せないもどかしい状況が、このゲームの特徴だ。
そこで登場するのがアンドロイドのフレム。長期漂流の後遺症で記憶の欠落や感情の揺らぎというバグが生じている彼女を、マスターAIが遠隔で補佐し、二人三脚で捜査を進めていく。最初は機能上の連携だったアルタイル号とフレムが、次第にバディとして絆を育んでいく過程も見どころだ。
美麗なビジュアル + 非情な展開

本作のもう1つの特徴は、キャラクターデザインの美しさだ。乗組員は全部で6名。それぞれがビジュアルノベル映えする魅力を備えている。
少年少女、知的なお姉さん、曲者眼鏡に無骨なオッサン、シゴデキ船長——全員美形。もちろんフレムもかわいい。

恋愛SLGが始まりそうなラインナップだが、残念ながら死ぬのである。しかも序盤から。
「えっ、そいつ死ぬの?」という驚きがプレイヤーを襲い、「美形だから死なないだろう」というセオリーを容赦なく粉砕してくる。
「良い人が実は裏切り者で最後までしぶとく生き残ったり、冷徹なキャラが物語後半に意外な人間味を見せて株を上げたりとか、そういうお約束は通用しませんよ!」、と冒頭で宣言してくるのだ。
以降はもう全員が怪しくなってくる始末。混乱を極めた筆者は相棒であるはずのフレムまで疑ったし、最終的には「もしや自分(アルタイル号)が黒幕では?」というトンチキ推理にまで行き着いた。それくらい先の読めない展開なので、推理力よりもメンタルが試されるゲームかもしれない。
これだけ魅力的なキャラクターを揃えておきながら、ロマンス描写やラッキースケベは一切ない。登場人物に容赦なく不遇を背負わせる展開にはミステリー作品としてのプライドが感じられると同時に、その覚悟がキャラクターを魅力的に見せる味付けになっているのがとても良かった。
HARF-WAY コマーシャル
絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

AIが導く「未来への最短航路」

本作は壮大なテーマながら、謎解きの難易度は控えめ。選択肢や探索パートではフレムがさりげなく正解へ導いてくれるため、行き詰ることもほとんどない。「誤った選択で即バッドエンド!」もなく、安心して物語の緊張感と世界観に浸れる構成になっている。
手っ取り早く真実を知りたい人はフレムの誘導に従えばサクサク進めるし、設定や会話をじっくり楽しみたい人は、あえてハズレの選択肢を拾って世界を深堀するという遊び方も可能だ。
事件の真相だけでなく、“機械と人間の関係性”というテーマにも注目したい。人間じみた感情の揺らぎや「渇望」を抱えたフレムと、彼女と思考を共にするアルタイル号にも自我めいた思考回路が生まれていく。
凄惨な事件と悲しい真実、散らばった謎が解決へと収束していくカタルシスだけじゃない。極限状態を乗り越えて生まれるAIと人間との新たな共生関係、という未来的な希望が描かれているのもSF好きには嬉しい。
宇宙の謎、解明の鍵は「機械と人間の共生」
『アルタイル号の殺人』は、およそ5時間でクリアできるコンパクトな作品ながら、SFならではの謎と緊迫した人間ドラマを凝縮した良作だ。
理詰めの推理バトルではなく、雰囲気と緊張感で魅せるミステリー。どっしり腰を据えてプレイする時間や気力がなくても、ちょっとした隙間時間で宇宙の謎に挑めるし、プレイ後はちゃんと名探偵気分に浸れる。
Switch、PS4、そして2025年10月にはSteamでも遊べるようになった今こそ、宇宙という果てしない闇の中で、唯一無二の真実と一筋の希望を掴み取るロマンを味わってほしい。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | アルタイル号の殺人 |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 1,300円 |
| リリース日 | 2025年10月8日 |
HARF-WAY コマーシャル
煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
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まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

