大切なものが壊れてしまった経験はないだろうか。
例えば、昔から遊んでいたゲーム機が寿命をむかえたり、ちょっと気に入っていた置物やフィギュアを何かの拍子に落としてしまったり。
家族や恋人からもらったものでも、時間の経過とともに傷がついたり、不具合が出ることがある。かたちあるものはいつか……とはいえ、思い出の詰まった品との別れは寂しいものだ。
誰かの大切なものの記憶と向き合いながら修復や修理をしていく。『Assemble with care』はそんなゲームであり、主人公マリアの仕事でもある。
壊れたものと依頼人の思い

主人公のマリアは、まもなくフェスティバルをむかえるベラリーバという町を訪れ、そこで壊れた物を修理する仕事をしていく。
依頼主は大切にしていたものや仕事道具が壊れてしまっただけでなく、それぞれに問題を抱えている。マリアがどんなに頑張って修理や修復を成功させても、すべての問題が一度に解決するわけではない。
けれど、前を向いたり、すれ違っていた大切な人に歩み寄るためのきっかけになることはある。『Assemble with care』は、壊れてしまったものの修理を通じて、依頼人の問題や思いと向き合うゲームだ。
物を修理することは、大切な記憶と今をつなぐ行為

「直してほしい」と願うモノは、得てして思い出が詰まっていたり、捨てるに捨てられない何かだ。大切な人からもらったカセットプレーヤー。経営しているカフェの宣伝用ネオンライト。親から譲り受けた彫像……
依頼品の由来も、そこに込められた思いも様々。壊れてしまった経緯も「ついうっかり」だったり「八つ当たりで壁に叩きつけてしまった」なんて話も。
けれど一様に「替えの利かない、大切なもの」であることには違いない。それを手に入れた日から今日にいたるまでの歴史をプレイヤーは垣間見ることになる。
個性豊かな依頼人たちとフェスティバル

妻を亡くして一人娘との対話がうまくできずすれ違いを続ける町長。自分で開業したカフェの経営がうまくいかず姉に資金援助を求める女性。
彼らは悩みながらも、もうじきあるフェスティバルに向けて準備を進めている。ある人にとってはただ楽しみなイベントで、また別の誰かにとっては一世一代のチャンスだったりする。もちろんマリアもその修理の腕で、町の人々の準備を手伝う。
依頼人たちはフェスティバルをきっかけに、それまでとは少しだけ変わった日々を送るようになる。けれどそれは劇的な変化ではない。
ささやかな日々の積み重ねや、それぞれが思い悩んで考えてきた成果が、フェスティバルという契機であらわれる。ぜひプレイしてその過程を見てみてほしい。
HARF-WAY コマーシャル
絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

傷が完全に癒えなくとも前を向くために

母親を早くに亡くした少女と、ベラリーバの町長である父親のすれ違いは、このゲームでメインで描かれるものの一つだ。
父親は仕事が忙しく娘にかまってやれない。母親を亡くした傷がまだ癒えきっていない少女は父親に反抗的にあたってしまう。
それぞれマリアに自分の大切なものを直すように何度か依頼をしてくるが、もちろん一度何かを直っただけで劇的に関係性が良くなったりはしない。
けれどマリアと関わりながらフェスティバルを経て、2人は少しずつお互いに向き合うようになっていく。もう一度、家族として支えあい生きていくために。
登場人物たちの心境や関係性がゆっくりと変化していく様子を、ぜひプレイして見つめてみてほしい。
ものを直すことと、相手の目線に立つこと

この物語はマリアの荷解きのミッションで始まり、町を旅立つための荷造りで終わりをむかえる。荷造りの際にはこの町の依頼人たちがくれた餞別の品も一緒にスーツケースにしまう。
町の人々だけでなく主人公のマリアにも、小さな心情の変化が起きる。壊れてしまった様々なものと向き合い、何より依頼人たちと向き合ってきた結果だ。
何か困ったことがあったとき、迷っているとき、人は自分の目線だけで物事を考えてしまいがちだ。大抵は心に余裕がないせいでそうなってしまう。
今作では壊れたものを直すことで、それが自分にとってどんなふうに大事だったかを思い出す。そして、それを大切にしていた誰かのことを思い出す。
その誰かがどう考え、感じているかを想像するようになる。『相手の目線に立って考えること』こそ、前向きに問題に向き合うための第一歩なのだ。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | Assemble with Care |
| ジャンル | パズルアドベンチャー |
| ストア価格 | 920円 |
| リリース日 | 2020年3月27日 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
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まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

