バッドエンドのその先で『BAD END THEATER』

映画を観た時、その物語が不幸な結末を迎えたらどう感じるでしょうか。

好きなキャラクターが悲惨な死を迎えたら?
主役も悪役も、誰も救われない結末に到達したら?

その悲劇を受け入れるかもしれないし、「もしこうだったら」と想像を働かせるかもしれません。
 
本作『BAD END THEATER』はバッドエンドばかりの物語を周回するマルチエンド方式のアドベンチャーゲームです。何をしても、どう足掻いても、行きつく先には悲劇が待ち受けています。
 
なぜ本作はバッドエンドばかりなのか。その先に作者はどんな願いを込めたのか。物語を進めた先で明らかになる真相に、きっと心を揺さぶられるはずです。

悲劇的な物語を扱う「バッドエンドシアター」

本作の舞台は「バッドエンドシアター」。その名の通りバッドエンドを扱う劇場です。ストーリーは演劇という形で進行し、演じるのは4人の人形たち。人間サイドの勇者と乙女、悪魔サイドの魔王としもべ。

上演される物語はアドベンチャーゲームらしく選択肢によって分岐。また本作では、プレイヤーが事前に「人形の性格」を決定する独特な要素もあります。

例えば、勇者の性格に「外交的」を設定した場合、魔王の従者を倒さず対話によって解決して魔王城へ進めます。そうして魔王と対峙した時、勇者は魔王を怒らせず穏便にストーリーを進められるのです。

ほかにも「不愛想な魔王」や「礼儀正しい乙女」、「腹ぺこのしもべ」のような性格の組み合わせがあり、選び方次第で物語は幾重にも分岐。プレイヤーは前述したシステムを駆使しながら、一つの物語を何度も周回して行くのです。

個性豊かな人形たちが織り成すファンタジーの世界

ストーリーはそれぞれの人形から見た4つの視点で進みます。残念ながら、いずれもバッドエンドになる事は変わりませんが、道中の話はどこか愛らしくて、ついつい微笑ましさすら感じることでしょう。

勇者はヒロインである乙女を助けに行き、乙女は「勇者に助けられたい」という理由で自ら魔王に捕われに行きます。「乙女、それは本末転倒だよ??」と言いたくなりますが、どうやら事情がある様子。

対する魔王は人間と敵対する意思は無く、捕われに来た乙女とも打ち解けて仲良くなります。これがまた魔王なのに優しく、見てるこっちもほっこりします。

魔王のしもべはというと、悪魔の勤めを果たさずやる気もない様子。魔王城を抜け出すし、道端で出会った乙女も大抵のルートで見逃します。やる気もなく立場も弱いしもべですが、時折見せる彼なりの一生懸命な姿が素敵です。

このように、本作では悪魔が人間に敵意を持っていないのが面白いところ。大抵の王道ファンタジーでは人間VS悪魔の構図になるところ、ドット絵の可愛いビジュアルも相まって、魔王たちの事は全然憎めません。

ついつい人形だと忘れてしまう

本作のキャラクターたちは丁寧に描かれており、ついつい人形である事を忘れてしまいます。人形なのに悩み悲しむし、良い事があった時は嬉しそうにする。その全てが生きているかのように感じられます。

「劇場が用意した演出だ」と言ってしまえばそれまでなのですが、「実は彼らは人形では無いのでは?」と錯覚するほどの存在感で活き活きとしています。

実際、私は何周もしているうちに彼らが人形である事を忘れていましたし、その分毎回迎えるバッドエンドに胸が締めつけられる思いでした。

本作はバッドエンドの連続ですが、そこに至るまでのキャラクターたちの人間らしさにも注目です。悲劇の中に息づく彼らの人間性を感じれば、物語の魅力がより一層胸に染み渡ることでしょう。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


些細なすれ違いと種族の壁

魔王や悪魔がいても平和な世界。
なぜ、あらゆるルートで彼らは救われないのか。

それは、些細なすれ違いの積み重ねと種族の壁。プレイヤーがどんな選択をしても、種族の違いによるキャラクターたちのすれ違いが積み重なり、次第に大きなバッドエンドへと繋がります。

魔王と乙女が仲良くなっても、
悪魔を信用できない勇者が魔王を討つ。
魔王を倒さなかったとしても、
クーデターを企てた従者たちが魔王を裏切る。

別ルートでは、魔王城から帰ってきた乙女に対し、村人が「乙女は悪魔と共謀している」と思い込み悲惨な仕打ちを与えます。魔王は人間を嫌わず、乙女はその優しさに気付いたのに、すれ違いが起こりバッドエンドに繋がってしまうのです。

ここはバッドエンドシアター。そう分かっていても、悲劇的な結末へと進む展開に心が苦しくなります。

バッドエンドのその先で

彼らの物語を追い、無数のバッドエンドと対峙していくうちに、プレイヤーの心には「これでは彼らが救われない」という痛みが広がります。

何周も物語をともにしたキャラクターだからこそ、このままで終わって欲しくない。幸せな道を辿って欲しい。救いたいのに救えない、そんなもどかしさが積もっていきます。

筆者は考えました。なぜ作者はバッドエンドばかりの物語を作ったのか。この世界を通して、何か伝えたい想いがあったのではないか。この物語の真の目的とは?その問いに答えはあるのか。

どうか、この物語を最後まで見届けてほしいです。無数のバッドエンドの先で待ち受けるもの、そこに本作の真髄があります。きっと、辿り着けて良かった、そう思える結末が待っているでしょう。

〈詳細情報〉

ゲーム名BAD END THEATER
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格1,010円
リリース日2021年10月27日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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