毎日似たようなことを繰り返している、と感じることがある。スマホのアラームを止めた後のスヌーズ機能で二度寝して、寝ぼけ眼のままなんとか身支度をして、通勤電車に揺られながら友達のSNS投稿にいいねをつけたりして……
今回紹介する『Florence』は、私たちと近い生活を送っている「フローレンス・ヨー」という女性の人生を追体験するゲームだ。約30分程度の短い作品ながらも、彼女が経験する恋の始まりと終わり、そして夢のたどり着く先を見届けられる。
台詞のないゲームなのに、画面の切り替わりやちょっとしたミニゲームで登場人物たちの感情が伝わってくる。この記事を通じて、次々と他人の感情が流れ込んでくる今作について紹介させてほしい。
フローレンスとプレイヤー

主人公のフローレンス・ヨーは25歳。先述の通り、私たちと似たような生活を送っている。目覚ましを止めたり、歯磨きをしたり、スマホの操作をしたり。日常の動作をプレイヤーがすべて操作することになる。
朝のルーチンを一通りプレイするだけでも、そのまま彼女の主観に没入できるだろう。個人的にお気に入りなのは、通勤電車の中でSNS投稿をチェックしているシーンだ。誰かの投稿に、少しの表情筋を動かさないままいいねを押す。きっと誰もが経験している日常的なシーンではないだろうか。
今作では終止、彼女の感覚や感情の動きがそのまま操作感に反映され、プレイヤーはフローレンス本人の視点を追体験できる。彼女の喜びも戸惑いや悲しみも、そのまま自分のことのように感じられるゲームだ。
彼女の恋

フローレンスはある日、プロのチェロ演奏家を夢見る「クリシュ」と出会い、お付き合いを始める。2人の会話はパズルで表現され、デートを重ねるごとにピースも減っていく。細やかな操作感の変化によって、2人が少しずつ親密になっていく過程が表現されている。
喧嘩中のやり取りはスピード勝負っぽい要素も追加され、臨場感ある口論の様子が台詞なしでも伝わってきた。また、大きな夢を持つ彼の背中を押すなかで、フローレンス自身もかつての夢をを思いだしていく。
彼女の夢

クリシュとの交際中、フローレンスは自分がかつて、何かを作ったり絵を描いたりすることが好きだったのを思い出す。
大人になるにつれて、幼いころの友人や好きだったものから少しずつ遠ざかっていく。会社勤めで疲れて帰ってきて、買い置きの夕食を食べて寝るだけ。次第に趣味や自分の大切なものを思い出せなくなって……というのは私たちにも身近な話ではないだろうか。
フローレンスは恋人のおかげで自分の夢を思い出すことができ、少しずつスケッチなどの創作活動を始めていくことになる。
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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

2人の日常と夢

やがて、2人は一緒に住むことになる。フローレンス1人だった日常に恋人のクリシュが加わり、世界が色鮮やかなものになっていく。
けれど共同生活を営むうちに、クリシュは音楽の道に行き詰まりを感じ始め、フローレンスも仕事にかかりきりで創作活動に割ける時間が奪われていく。
誰かが明確に悪いわけではない。そしてある日、一緒にいられないと感じて決裂をむかえてしまうことは、けっこうある。何かで心に余裕がなくなってたり、ちょっとしたすれ違いが重なった結果だったり。
けれど、その衝突やすれ違いを胸に残したままでも、人は前に進める。無理やりに足を進めるうちに、少しずつ本当の意味で前を向いていけるようになっていく。フローレンスも、そういう強さを持った女性だ。
フローレンス・ヨーという女性とその人生

大切な人とぶつかった時、修復が上手くいってもいかなくても、私たちの人生は続く。衝突の先に新しい絆や希望が見つかることもあるかもしれない。ただ、どうしようもない傷として残ることもあるだろう。
どちらにせよ大切な人との時間のおかげで前を向いたり、夢に向かっていく決心がつくこともある。『Florence』では、フローレンスの人生の一幕をそのまま体験することができる。
退屈で変わり映えしない日常、特別な人との出会い、恋人との幸せな生活。どれも永遠には続かないかもしれないけれど尊いものだった。
今作で丁寧に描かれる恋の始まりと終わり、そして彼女が夢を思い出し、向き合っていく様をぜひプレイして体感してほしい。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | Florence |
| ジャンル | インタラクティブ・アドベンチャー |
| ストア価格 | 825円 |
| リリース日 | 2020年2月14日 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

