「フィクションのキャラクターと、本当の友達になれるだろうか?」
『For the GHOSTs』はそんな問いを投げかける。今作は仮想空間に住む少女たちと会話を重ねていくビジュアルノベルだ。プレイ時間は3〜4時間ほどの短編だが、その中に詰まった言葉が胸に残る。
画面をクリックして進めるだけ。特別な選択肢もなく、彼女たちの言葉に耳を傾ける。それだけなのに、気づけば引き込まれる。誰かと静かに語り合うような感覚かつ、穏やかで切ない時間を過ごせる作品だ。
仮想空間でのんびりおしゃべり

物語の舞台は「チャンネル」と呼ばれる3つの仮想空間。それぞれの場所には異なるキャラが住んでおり、訪れるたびに彼女らと会話が発生する。
【トランクルーム】には「ねずみ」
【アクアリウム】には「さかな」
【コンソレーション】には「彩度」と「Acryl」
この4人の少女たちと、プレイヤーは言葉を交わしていく。彼女たちとの会話は、特別なイベントが起こるわけではない。哲学的な問いかけもあれば、日常の些細な美しさについての語りもある。その何気ないやり取りが心地よい。
仮想空間で生きている彼女たち

今作の特徴は、キャラクターたちが自分を「仮想の存在」と理解している点だ。彼女たちは自分が人間ではないと知っている。「わたし達は、あなたのことをどうやっても知りようがなくて」と、ねずみは語る。
この設定を聞いて、「何を当たり前のことを」と思うかもしれない。ゲームのキャラクターなのだから、仮想の存在なのは当然だ。でも彼女らは、その事実をしっかりと認識している。仮想空間と現実は別のものだと、彼女たち自身が理解しているのだ。
だからこそ、「知りようがないからこそ、あなたの情報に触れたいの。それは他の誰でもない、あなただけの自己だから」という言葉が重みを持つ。
仮想の存在である自分たちには、プレイヤーのことを知る手段がない。だからこそ、知りたいと願う。この構造が、フィクションと現実の境界を考えさせる。彼女たちは確かにデータでしかない。しかしその言葉には、確かに意思が宿っているように感じられた。
ねずみが教えてくれた、美しい瞬間

ねずみとの会話で特に印象的だったのが、彼女が考える「美しい瞬間」の捉え方だ。友達の話として語られたミルククラウンのエピソード。そこから彼女自身の好きなものへと話が移っていく。
コーヒーにミルクを入れてぐるぐる混ぜる時の、色が混ざっていく瞬間。印象派の絵画も、「あの一番きれいな瞬間をいっぱい使っているから好き」なのだと。カラーパールのフェイスパウダーも、カラーブレンドのファンデーションも、肌を輝かせてくれる。
一見バラバラに見えるものが、「色が混ざっていく瞬間」という共通点で繋がっている。日常の中にある一瞬の美しさを見逃さない視点や感性。それは特別なものではなく、誰もが目にしているはずのもの。でも彼女のように言葉にすることで、その美しさが際立つ。
こういった会話の積み重ねが、キャラクターに深みを与えている。設定やストーリーで語るのではなく、何気ない会話の中で人となりが見えてくる。この自然さが、今作の魅力だ。
HARF-WAY コマーシャル
絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

リアルな背景が生み出す、生きている感覚

彼女たちが実際に生きているように感じられたのは、視覚表現の工夫があったからだ。キャラクターはイラストで描かれているが、背景はリアルな写真が使われている。この組み合わせが絶妙で、仮想の存在に命を吹き込んでいる。
イラストだけの世界なら、完全にフィクションとして受け取れる。でも現実の背景と組み合わせると、彼女たちの存在がより身近に感じられた。仮想空間に住んでいるという設定と、この視覚表現が呼応している。
彼女たちは確かに仮想の存在だ。でも現実の風景の中に立っている。その矛盾した光景が、今作のテーマを視覚的に表現している。フィクションと現実の境界線は、思っているほど明確ではないのかもしれない。
切ない会話が秋の夜にしみる

『For the GHOSTs』をプレイして感じたのは、登場人物みんなが何かを抱えているということだ。その切なさが、少し寒くなってきた秋にしみる。彼女たちとの会話は楽しくて心地よい。でもその裏側には、データとしてしか生きられないという寂しさが漂っている。
プレイ時間は3〜4時間ほど。短い時間だが、その中で交わした言葉は確かに胸に刻まれる。筆者は「琥珀の中で永遠の時間と共に眠る蜜蜂のように」という言葉がお気に入りだ。
何か一つでも刺さるセリフがあったら、それは財産になる。今作にはそんなセリフが散りばめられている。フィクションのキャラクターとの会話が、現実の自分に何かを残していく。その不思議な体験が、『For the GHOSTs』の本質なのかもしれない。
誰かと静かに語り合いたくなったら。この作品を開いてみてほしい。仮想空間に住む少女たちが、あなたを待っている。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | For the GHOSTs |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 980円 |
| リリース日 | 2024年1月8日 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
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