長い人生のなかで死にたくないと切望する瞬間はあっても、常日頃から生きることに異様な執着心を持つ人間はそう多くない。とくに理由もなく、生きているから生きている、と考える人が大半だと思う。
自分自身、中途半端な人生を送っている自覚がある。高校生の時に所属していた野球部は最後の大会前に抜けちゃったし、高校卒業後に勤めていた工場は辞めちゃったし、一生大切にすると誓った人とも別れちゃったし。まともな人間からは、きっと程遠い。
死にたいと思うことはあっても、覚悟がなくて踏みとどまる。なんだかんだで生き延びてしまった。何かに執着した結果、何かに苦しむ人はごまんといる。今回紹介する『ぎるぐる GiLGuL』は、生と死の間にある世界に迷い込んだ中途半端な人間たちの物語だ。
この記事は『Skeleton Crew Studio』の提供でお送りします。
舞台は生と死の狭間
「間世(はざまよ)」

『ぎるぐる GiLGuL』の舞台は、「間世(はざまよ)」と呼ばれる死後の世界と現世の間に存在する、ちゅうぶらりんの世界。間世の水先案内人「ビッケ」いわく、「生きたいとも死にたいとも思えない、どっちつかずの人間」がたどり着く場所らしい。
ここに訪れる者には3つの選択肢が与えられ、いずれかを自分自身で選択しなければならない。
- 試練に打ち勝ち現世を目指す
- 間世に残って魑魅魍魎となる
- 死を受け入れて成仏する
本作の登場キャラクターは「生」「老」「愛」など仏教でいうところの四苦八苦に苦しんでおり、死を望みながらも死にきれなかった中途半端な人物として間世に現れる。主人公「三津真央(みつ まお)」は、誰よりも”生”に固執する少女という設定だ。

彼女は「死んだら何もかもに負けたことになる」と考え、生きることに対して並々ならぬ執着を持つ。キャラクターボイスを担当する「高柳知葉」氏の演技力と相まって、異質な強迫観念を漂わせている。
強い意志を持ちながら現世に向かうものの、とあるシーンで真央の感情が爆発する。気丈な態度で生にしがみつく彼女の心が折れ、一人の少女として感情を吐露する場面では思わず涙が流れた。

そもそも、死から最も遠い感情を抱く真央が、どうして死を望む者しか訪れることのない間世の世界にいるのか。最初にビッケから説明を受けたときは腑に落ちないものの、物語を進めることで真実が明らかになる展開も目玉といえるだろう。
業を背負いし6人の女性

真央が現世に戻ろうと奮闘するなか、道中で6人の女性と出会う。一見すると普通の女性にも見えるが、彼女たちはそれぞれ複雑な事情を抱えている。そして、死にきれずに間世へとたどり着く。
ビッケは「真央以外にココに来る人間はどうしようもないクズなのだ」と攻撃的な口調で罵倒する。仲間になったばかりの彼女たちに軽蔑した態度を取る姿に、筆者は顔を歪ませてしまった。言い過ぎやろ。

しかし、ビッケが強くあたるのには理由がある。彼女たちは何らかの理由があって間世に来ており、なかには決して許されない行為に手を染めてしまった者もいるのだ。ネタバレになるため詳細は伏せるが、死ぬ勇気がない以前の問題を抱えている。
筆者のお気に入りは、真央と対比となる”死”を望む「目代恵美(もくだい めぐみ)」だ。彼女は死を全く恐れず、別に死んでも良いとあっけらかんとした態度を取っている。平凡な人生よりも刺激に満ちた世界を好む彼女に、筆者は憧れにも近い感情を持った。

筆者は冒頭にて「生きようと願わなくても生きてしまう」と述べた。しかし、恵美は「生を実感するために死を感じたい」という思想を持っている。ある意味、筆者より真面目に生きている人間だと思った。
彼女に限った話ではないが、真央以外の登場キャラクターはほぼ死にたがりである。しかし、なかには環境のせいで人生を棒に振ってしまったキャラもおり、受け取り方によっては鬱ゲーと感じるかもしれない。

ネタバレに触れない範囲で伝えると、ルートによって彼女たちは全員救われる。しかし、必ずしもそうなるとは限らない。なぜなら、彼女たちが現世に戻ることを拒否する場合があるからだ。
全員が必ず生きて帰れるとは限らない

実は彼女たちが必ずしも現世に戻れるとは限らない。選択肢によっては死後の世界に旅立ち、二度とパーティに戻らないケースも存在する。生存者や親密度によってエンディングも分岐するため、周回プレイで物語を深掘りできる点も『ぎるぐる GiLGuL』の魅力だ。
魑魅魍魎を倒して必死の思いで現世に戻っても、待ち受けているのは死を願った以前と変わらぬ現実。生まれ変わって人生をリセットする都合の良い展開にはならない。いっそのこと、死んでやり直したいと思う気持ちも自然なのかもしれない。

本作は彼女たちの質問に対する返答で結末が分岐するマルチエンディングを採用しており、選択肢によってはサブストーリーも閲覧できる。しかし、選択を誤れば現世に戻らずキャラロストするケースも。

セーブスロットを複数管理すれば脱退ルートを避けられるため、マップを見ながら調整するのがおすすめだ。とはいえ、大変だと感じる人は周回プレイで回収する方向に割り切るのも一つの手かもしれない。
アドベンチャーパートのほかに戦闘要素も

また本作は「アドベンチャーパート」と「タクティカルパート」を往復する形で進行し、キャラとの交流を楽しむ一方で程よい緊張感も味わえる。戦闘は拠点を奪い合う陣取り合戦に近いシステムを採用しており、味方に指示を出しながら敵を制圧できる戦略性も売りといえるだろう。

戦闘中に奪った拠点は全体にバフを与える重要な役目を担っており、いきなり本陣に切り込んでも押し返される難易度に設定されている。とはいえ、経験値を稼いでキャラクターを強化すれば力押しもできるため、ゲームに慣れていない人も安心してほしい。

各キャラクターはそれぞれ異なる性能を持っており、妨害や魔法攻撃に特化しているアグレッシブなキャラもいれば、味方や拠点を回復できるサポート性能を持つキャラなどさまざま。操作していないキャラはオート操作になるため、安心して好きなキャラに集中できる点もポイントだ。

彼女たちを育てることで新しい技も解放されるので、じっくり育成して自分好みのキャラにカスタマイズしていく面白さもある。例えば、サポートが得意な「巽 美玖(たつみ みく)」で回復中心の構成を組み、味方を守る指示を出せば盤石な布陣で魑魅魍魎と立ち向かえるだろう。


豪華声優を起用したフルボイスのシナリオが目玉であることは間違いないとして、独自性のある「タクティカルパート」があることも覚えておいてほしい。なお、1周目をクリアすると戦闘をスキップできるアイテムが使えるため、エンド回収時にはこのバトルを省くことも可能だ。
全員生存エンドが泣ける
(それ以外も泣ける)

ドラマツルギーをうたう本作では、各キャラが「ありのままの自分と、何らかの役目を演じる自分」として描かれている。彼女たちは現世に戻るために苦心する人間であり、間世に登場する演者でもある。この言葉の意味は物語を最後まで進めると分かるはずだ。
序盤の展開にヤキモキするかもしれないが、最後には綺麗に収束して腑に落ちる結末を迎えるので心配はいらない。願わくば、登場人物がみんなで現世に戻れるエンドを見届けて涙を流してくれたらうれしい。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | ぎるぐる GiLGuL |
| ジャンル | アドベンチャー |
| ストア価格 | 2,980円 |
| リリース日 | 2025年6月18日 |