深夜の歓楽街を歩いたことはありますか?
気さくに話しかけてくるキャッチのお兄さんや、きっちりとスーツを着こなす黒服。
どこまでも続くネオンの看板や、グラフィティアートの描かれた仄暗い路地裏。
ビルを見上げ、艶やかに光る高級店が見えたかと思えば、隣には喫煙スペースとなった錆びれた非常階段がある。
―そこはどこか妖しくて、日常からかけ離れた風景が広がっている。
筆者は怖くてその街を一人では歩けません。
なぜなら、私のような昼職の人間には知り得ない世界がその街には広がっているからです。
『ストッカーの中の死体っていくら?』は、そんな夜の街で生きる少女たちの日常を描いた短編ビジュアルノベル。制作者Renka氏の突き刺すような文章と、儚い美しいスチルが光る本作を紹介します。
ストッカーの中の死体


ここでいう「ストッカー」とは食材をマイナス20℃以下で保存する保管庫のことで、飲食店などで大量の食品を効率的に管理するために使われます。
本作では、そのストッカーに死体が入っており、それをめぐる物語が展開されるのです。
「ストッカーの中の死体っていくら?」の問いかけにはいったいどのような想いが込められているのでしょうか。そして、そこに至るまでにどのような出来事が起こるのでしょうか。
薄暗い夜の街で、彼女たちの日常とも非日常とも言える物語が展開されます。
今にも崩れそうな少女たちの日常


物語の舞台は作中の描写から察するに、誰もが知っている繁華街。
主人公はその一角に佇むコンビニの夜勤店長です。
当たり前のことですが、あの眠らない街にも私たちの住む街のようにコンビニはあるのですよね。
そのバックヤードに隠されているのです。
「死体の入ったストッカー」が。
死体を隠しているのは主人公の少女ともう一人、「コイ」と呼ばれる女の子。
2人で秘密の罪を抱えて死体入りのストッカーを監視します。
マイナス20℃の、今にも崩れそうな「日常」を守るために。
2人の関係性を表すなら「共犯者」と言えるでしょう。
作中、彼女らの関係性を象徴する一文があります。
「アンモニアと嘘にまみれたこの世界で、私たちは共に、この秘密を守っている」
なぜ2人は人を殺してしまったのでしょうか?死体の正体は何なのでしょう?
2人が抱える罪の真相は?
その秘密は物語の最後に、思いも寄らない「非日常」をキッカケに明かされていきます。
眠らない街、寒空の下で


どうやら彼女も今夜、自分の笑顔に金を払ってくれる相手を無事に見つけたらしい。
今夜もあんたは、生き残ったんだね。
本作に登場する少女たちは、みんな訳アリな生き方をしています。
コンカフェで働きながら裏仕事もしている子。
”パトロン”や”彼氏”をアクセサリーのように纏い、夜を生き抜こうとしている少女。
時には法に触れるような仕事に手を染めることもあります。
彼女たちは狡猾に生きているのです。
いつ呑み込んでくるかも分からない、喧騒と欲望にまみれたあの街で。
利己的で残酷。それでもあの世界で、生きる為に強くあろうとする彼女たちの姿が美しい。
本作の物語は、そんなバックボーンを持ったキャラクターたちを主軸に展開されていきます。
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HARF-WAYのTOPへプレイヤーの感性を突き刺す文章表現


本作の物語は選択肢も無ければ分岐点もなく、文章とスチル、BGMだけで描写されていきます。
そして作者であるRenka氏が綴る文章は、プレイヤーの感性を突き刺す刺激的な筆致が特徴的。
筆者は特に「毒舌とレースの制服を鎧みたいにまとって、この街に食われないようにしているのだ」で始まる一連の文章が好きです。気を抜けば呑み込まれてしまう怪物のような街で生きる、彼女たちの強さと儚さを鮮烈に描写した表現でした。

Renka氏の文章表現には筆者自身かなり惹き込まれましたし、文章だけでも短編小説として成り立つと思っています。そのくらい刺激的な表現力でした。
加えて、猥雑な歓楽街を淡く描いたスチルや、深夜の静けさと緊張感を丁寧に表現したBGMが合わさり、ビジュアルノベルとしてしっかりと成立しています。
おかげで、筆者は本作が描写する夜の世界に深くのめり込むことが出来ました。
もし本作をプレイする際は、Renka氏の突き刺すような文章表現にも注目してほしいです。
日常と非日常、本作が描く”ありふれた日々”の価値


『ストッカーの中の死体っていくら?』と銘打たれた本作のタイトルは、そのビジュアルも相まってアンニュイで猟奇的な印象を与えるのではないでしょうか?
―なぜ死体の値段を気にしているのか?
―死体の正体は何なのか?
―人を殺したのは誰?
多くのプレイヤーは無意識にそういった疑問を思い浮かべるかもしれません。筆者もそうでした。
しかし、Steamストアページには下記のようにも書かれています。
「ありふれた目的を胸に、ありふれた街で起こる、ありふれた物語」
「これは、どこにでもある物語です。誰かに好きになってほしい。そんな物語です。」
実際に本作に触れてみると、アンニュイではあるが決して猟奇的ではない「彼女たちにとってのありふれた日常」と「急に襲い来る非日常」が描かれています。
あくまで一つの解釈ですが、その「非日常」は彼女たちにとっての「日常」の大切さを再認識させる重要な契機となったのではないでしょうか?
実際に、主人公はその「急に襲い来る非日常」をきっかけに人生を前に進ませます。
ありふれていると思った日常の中で巻き起こる、ふとした非日常。それを契機に何気ない日々の尊さや価値を再認識する。
本作で作者が描こうとしたものはそんな物語なのかもしれません。
〈詳細情報〉

| ゲーム名 | ストッカーの中の死体っていくら? |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 198円 |
| リリース日 | 2026年5月28日 |