「あなた」と「私」って何だろう?『存在しない/あなた、と私』

「あなた」とは、「私」とは、何だろうか。
「私」の主観によって「あなた」は客体になる。
「私」にとっての「あなた」は他者であり、だからこそ触れあったり、言葉を交わすことができる。

そんな「私」と「あなた」が交流する中には、どんな関係性だって生まれ得る。
恋人や友人になるかもしれない。
はたまた勇者とお姫様だったり、患者とナースだったりする可能性もある。
このゲームのヒロイン、『リリス』ならそのすべてを満たし、叶えてくれるだろう。

存在しないあなた、と私』は、自己と他者について考えたくなるビジュアルノベルゲームだった。

突如目の前に現れたヒロインは、果たして実在するのか?

『存在/しないあなた、と私』は一見すると、一人のヒロインを攻略していく一般的な恋愛ノベルゲームに見える。しかし、実際にプレイしてみるとライトな第一印象は打ち砕かれることになるだろう。

家具や家電が自我を持って話してきたかと思えば、人型の登場人物とはロクな言語コミュニケーションが取れなかったり。

そんな世界で、窓辺の少女が主人公に問いかける。
「私が本当に実在していると思う?」

主人公は、リリスと名乗る彼女と、その答えを探していくことになる。王道の遊園地デートをしたり、RPGの世界を冒険したりしながら。

しゃべる家電や家具たち

ノートだってオーブンだって主人公に話しかけてくる。何なら主人公の視点であるはずの『地の文』も、彼らの家具や家電達から描写されたりする。

いわゆる恋愛ADVとして括るにはあまりにも破天荒な描写や演出の数々に、初見のプレイヤーは驚かされることだろう。

「果たして意味があるのか」、と考えてしまうような意味不明な選択肢に翻弄され、唐突にQTEじみた操作を求められて混乱する。

シナリオとシステムの両面からあの手この手で揺さぶられるうちに、プレイヤーはこのゲームにのめり込んでしまう。

かなり無茶苦茶だけど、愛のあるヒロイン

▲リリスにかかればバックログも書き換え放題。『話者1』『話者2』という雑な割り振りが潔い。

『リリス』は、最初から最後まで主人公を愛して、尽くしてくれるタイプのヒロインだ。しかも日本語ローカライズ版では、声優の『ここのえゆかり』さんがフルボイスを担当。一緒にケーキを作ったり、遊園地デートだってしてくれる。

想像もつかないような手段で主人公の無理難題に応えることもあれば、主人公を自作RPGの世界にダイブさせたりもする。

その表現方法に何度も驚かされ、時にはあきれてしまうこともあるかもしれない。でも、その根底にはいつもまっすぐな愛がある。

どうしてこんなに想ってくれるのか、どうしてそんな手段を取るのか。
その答えと、最終的には向き合うことになる。

「他者」とのコミュニケーション

画像の通り、人語かどうかすら怪しい言葉でしかコミュニケーションをとってくれない「あの人」。

『存在/しないあなた、と私』では他者と自己の在り方や、双方の関係性も深く掘り下げられる。しかし、二者が必ずしも相互に理解しあう必要はない。すれちがったまま成立している関係性もある。相手のすべてを知れば絶対に仲良くなれるわけでもない。

「あの人」の言っていることはわからないし、主人公やリリスの言葉が通じているかも不明だが、それでもお互いの声で応酬できないわけでもない。
果たしてそれは健全な関係性だろうか……?

まとめ:存在/しないあなた、と彼女

ゲームの中のキャラクターである彼女は画面の向こうにいるが、私たちは現実世界の知らない人よりもこの少女を身近に感じるだろう。一緒に過ごした時間や歴史、築いてきた関係性がそこにあるから。

時間や関係性を認知・定義するのが「自我」である。
そして、他者と自己の「自我」がぶつかり合う時に関係性は生まれる。
プレイヤーとゲーム内キャラクターとの間においても、その原則は適用されるのだろうか。
あなたがどのように考えたとしても、きっとリリスはピュアな愛を表現してくれる。

彼女は、あなたや私のために存在する/しないから。

〈詳細情報〉

ゲーム名存在/しないあなた、と私
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格235円
リリース日2024年12月16日
最新情報をチェックしよう!
NO IMAGE

お試しスポンサー

面白そうなゲームを見つけたい!
ゲーム探究者『門野まもり』

CTR IMG