無為を楽しむ怠惰な人間に捧げるパチンコ賛歌『Nubby’s Number Factory』

 ゲーセンで果てしなく無駄だと分かっているのにスロットを打ってしまう。どれだけ勝ってもお金は増えないのに。数百円で射幸心をぶっ壊せるトンデモナイない機械に100円玉が次々と吸い込まれ、人間をダメにするクッションに埋もれるかのように堕ちていく。

 缶コーヒーを飲みながら友達とノリ打ちするのが好きで、バイト生活を送っていたときは近所のゲーセンに入り浸っていた。当たった時はメダルコーナーに移動してアホみたいに溶かすまでがルーティン。メダルを預ける習慣はない。根っからのダメ人間である。

 小さい頃、将来は当たり前のようにギャンブルの海で溺死すると思っていた。家ではパチンコ/パチスロの実践番組が垂れ流され、謎に置かれたPS2のパチスロ専用コントローラーで中押しに没頭していた。筆者は吉宗の爺BIGで育ったといっても過言ではない。

 思い返せば、正月にお年玉を掛けて親子で花札を遊ぶのも通例だった。点差×倍率で数百円が動き、何戦もくり返せばお婆ちゃん1人分くらいのお金が溶けていく。笑いながら870円を奪ってガマ口財布に入れる母親の楽しそうな表情はもう見れない。


 大人になった今、パチンコ店にはトイレを借りる時しか入らない。とんだ腑抜けに育ったものだ。親に初めて連れて行かれた時に爆音で鼓膜を破壊され、タバコの煙でヤニクラした経験がトラウマになっている。結局、5,000円で引いた確変大当たりが最初で最後の勝利になった。ビギナーズラックをありがとう、神様。

 ギャンブル一家に育ったものの、賭け事に興味はない。だからといってギャンブルを悪だとも思わない。運良くギャンブル中毒者じゃない家庭に生まれたからだと思うけど、ゆったりとした苦痛よりもすっかんぴんで気持ちよく散った方が本望だと思う。

 ギャンブラーの血が騒ぐのか、ペグ(釘)の打たれたパチンコ風ゲームを見ると胸が高鳴る。ポーカーのような頭脳戦では満たされなくて、運に比重を置いたバカっぽいゲームを見つけると無条件で発情する。なんだかんだ血は争えないらしい。

 この手の有名ゲームでまっ先に思いつくのが「Peglin」だと思う。ペグ×ゴブリンのローグライク作品。上からボールを落としてペグに当てながら戦うオーソドックスな作品といえるだろう。ちなみに、上品過ぎるので遊んだことはない。

 もっと地味であって欲しいのだ。ロジカルに誘導して楽しませてくれとは思わない。刺激がそこにあるだけで良い。派手な演出で誤魔化さないで、射幸心だけに届けて欲しい。質素なのに脳汁が湧き出るゲームなんてあったら理想的。

 造語だけど裏無印良品みたいな感じ。プリミティブな非合法感を味合わせて欲しい。チープなSEと地味なグラフィックでトリップさせて欲しい。「そんなものは存在しない!」と諦めないのがHARF-WAY。キュレータースキルを総動員して見つけたのが、今回紹介する『Nubby’s Number Factory』である。


 『Nubby’s Number Factory』は、画面上に出現するペグ状のターゲットを破壊するパチンコっぽい作品。やけに跳ね回るボールを投げ込んで、ペグと壁を使ってごりごりと破壊していく。お祭りの屋台で見かけるスーパーボールをぶん投げる感覚に近い。
 
 地味。とても。脳汁を促すけったいな演出もなく、的に当たった時の「ぷいん」とか「ぽこ」みたいな音だけが鳴る。古のPCに最初から入ってる標準ゲームを彷彿とさせるチープさに胸がときめいた。たぶん恋。

 貧相なプリセットと思いきや、弾が隙間に入って激しくぶつかりあうとバグったように点数が上昇する。獲得スコアに応じて画面内のターゲットが肥大化し、良い成績を収めると点数もどんどん増えてインフレに近づくのが気持ちよい。

 ゲーム性がない訳でもなく、獲得したコインと特殊能力を持ったアイテムを交換できる。「ボールが壁に当たるとランダムなペグがHITする」や「規定回数HITするとビームが照射される」など、テキトーに遊んでても面白い。技術は全くいらない。

 なんとかなれ~と呟きながらボールをぶっぱなし、予想以上のスコアを叩き出したときの気持ち良さたるや。人は予想できない快楽の前では無力だ。パンチラと一緒。見えそうで見えなくて見えるのが一番良い。って高卒で入った工場の同期も言ってた。

 道中で入手できる本を集めると、特定の条件下でアイテム効果が発動するスキルも手に入る。そんなつもりはなかったはずなのに、気づいたらペグが全滅していることも。まさに『異世界転生したらパチンコ神になっていたんだが?』状態である。はっ????

 なんだかんだいって、面白さに演技は要らないのかもしれない。映える仕掛けを設計することも大切だけど、そこに囚われると飽きられてしまう。そして何より、嘘や偽りは遊び手にバレてしまう。我々は快楽の奴隷と見せかけて機微に厳しい。

 パチンコのほんとうに駄目な部分は、金銭を賭ける部分ではなく、射幸心を煽る演出でもなく、音の鳴る成功体験を与える部分だと思う。今作はギャンブルのイケない部分を凝縮したドモホルンリンクルみたいな作品だ。ドーパミン職人が監修しているに違いない。


 「おっ、光った!目押しよろしく!」。横で打っていた友人に話しかけると誰もいない。みすぼらしいドル箱と缶コーヒーを残して出掛けたようだ。声を掛けてから消えたんだろうけど、ぼーっとしていたのか記憶にない。仕方なく店員を呼んで揃えてもらった。

 ゲーセンでどれだけ大当たりを引いても1円にすらならない。でもそれで良い。現実を忘れて怠惰な時間を過ごすために来ているのであって、ここで金銭に換えることができてしまったら息苦しいから。

 いつの間にか世間の持っていたゲームへの風当たりも弱まり、高尚な存在になった気がする。ドラマを見ないでゲームばかりしてきた結果、見事に蚊帳の外へと追い出された過去を持っているので感慨深い。

 筆者は今後も自慰みたいにゲームを遊ぶと思う。頭を空っぽにしてドーパミンで満たして、生産性の欠片もない時間を送りたい。そっちの方が人間くさくて好きだから。真面目に取り組んでも良いし、不誠実に流し込んでも良い。それで人生が生きやすくなれば何でも良いんじゃないかなと思っている。

 トイレから帰ってきた友人にスロット台が吐き出したメダルを鷲づかんで手渡す。べったり香る金属臭を嗅ぎながら、鼻の前で拳を繋げあわせて天狗のマネをした。アホかもしれないけど、こういう何も生まない時間が一番幸せだと思った。

〈詳細情報〉

ゲーム名Nubby’s Number Factory
ジャンルパチンコ
ストア価格580円
リリース日2025年3月8日
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