拝啓、各停しか降りれない駅に住んでいたあなたへ『One Night Stand』

「どうする?泊まっていっても良いよ。」
「いやいや、悪いから今日は帰るよ。」

 いやいや、悪いからじゃねぇだろテメェ、何カッコつけて断ってんだよダボが。もし過去に戻れるなら、あの時の自分の脳天を全力で殴りたい。

 社会人になりたての頃、中学生時代に初恋した人に「一人暮らしを始めたから遊びに来ない?」と声を掛けられ、チンパンジー状態でアパートを尋ねたことがあった。結果はポンコツ極まりなかったけど、女性に免疫のない自分にしては善戦だったかもしれない。

 お酒の吞みすぎで終電を逃して、思いがけず女性と一夜を過ごした日もあった。お互いトイレから出れなくて何も起きなかった。この馬鹿野郎と今でも思う。
 「気がついたら知らない女性が真横にいる…!?」なんてシチュエーションはまるで起きなくて、「気がついたら知らない場所(野外)で寝てる…!?」というエピソードばかり増える。ついでにいうと、自分の家で知らないモフモフの服を着てることもあった。
 
 酔った勢いのワンナイト。
 まぁまぁ無縁だなと思う。

 紛いなりにもゲームメディアを運営していると、大量のゲームを漁ることが一種のライフワークになってくる。当然ながら男女の恋仲を描く物語に出会うことも珍しくない。面白さと嫉妬心を反復横跳びする不健全な遊び方だなと我ながら思う。

 柔らかくて甘い恋。大人っぽくて切ない恋。依存に近いドロドロの恋。世の中には色々な恋愛ゲームが溢れている。好みの作品を探すのが難しくなった反面、多様性に富んだ恋の末路を追える面白い時代になったのかもしれない。良いのか悪いのか分からないけど。

 ある日、偶然にもワンナイトに関わる作品を見つけた。1周5分も掛からないマルチエンドのビジュアルノベル。「俺だって記憶にない裸の女性と邂逅してヒリつきたい…!」。その一心でカートにぶち込んだ。

 『One Night Stand』は知らない女性と裸で一緒に寝ているシーンから始まる。ほら、あの、ドラマとかで見るような気まずい感じあるじゃないですか。「もしかしてこの女性と…!?」みたいに探りを入れて、良かれ悪かれ何らかの形でお別れするまでを描いたゲームです。「ここから恋が始まる…!」とかではない。

 今作はマルチエンディングを採用しており、彼女との関係値によってエンディングは分岐。この辺は一般的な恋愛ゲームと同じかな~といった感じ。最後にどういう『お別れ』をするかが変わる。笑ってお別れもあれば、クズ男としてブチ切れられる終わり方もある。まぁそりゃそうだよね。

 何があったかは置いといて、記憶にない女性と一夜を供に過ごしたわけで、何もないなんてことはない。自分だけ覚えてないことを隠しつつ、彼女についての手がかりを集めます。「ごめん、誰だっけ?」なんて失礼な発言は、口がドリルでこじ開けられても言えません。寝たんなら偽りであろうが紳士であれ。

 女性と男性が映った写真。床に放置されたチケット。財布に入った彼女の身分証明書。世界を救うループモノの主人公が如く、彼女の怒りを買ってビンタされたり裸で放り出される結末を辿りながら情報を集めていきます。記憶のないワンナイトを上手く切り抜ける確率は宝くじ当選並に難しいことかもしれません。

 幸せかどうかは置いといて、一緒に寝たことが痛み止めになったと感じる終わり方も存在する。独りよがりな人間同士の慰め合い。なんとなくだけど、こういう一夜だったら別に間違った選択肢を選んでも良いんじゃないかなと思ったりした。

 人生をそれなりに生きていると「うわしんどいな~」と心の下振れを引く日もある。食パン加えた女性とぶつかりたい訳ではない。同じ境遇下にある人間と慰め合って「お互い様だよね」とウヤムヤにしたいだけの日もある。そんな一日を体験できて良かった。

 『ワンナイト』の響きに『過ち』を感じる人も多いかもしれない。確かに不純だとは思う。でもなんというか、ある意味で誠実な気もする。他人の人生に責任を持たず、なるべく干渉しないで互いが1日を乗り切れるんだったら、自分は割と肯定派かもしれない。まぁそういう場面を経験したことがないから実際は分からんけど、人間はそこまで強くないからさ。

 バスパン(たぶんバスケットパンツだと思う)まで借りたのに帰っちゃったあの日。あれは完全に若気の至りというか、そういうものを経験してみたい好奇心と野心がお互いに満ち溢れていた。でもビビってしまった。仮にやり直しても同じ選択を取る気がする。あの日から今日まで彼女と連絡を取った日はない。

 あの時の自分(確か二十歳だったと思う)はコレといって人生に絶望を感じることもなく、心の何処かで自分の人生は清らかなものだと思っていて、真っ当に生きたいと願っていたのかもしれない。
 大人になったいま。もう終わっても良いかなとそれなりに思う日もあって、かといって自分だけ悲劇のヒロインになるのはプライドが許せなくて、似たような境遇の人と励まし合うことで擬似的にカンフル剤を打つ機会も増えた。ちなみに、一人で居酒屋に行くと意外に実現する。行きつけの飲み屋だと尚良し。

 慰めの延長線上にワンナイトがあるのだったら、低俗だと言われようと生きていくのに必要な行為だと思う。かといって、どんな理由があったにせよ正当化するのは筋違いで、一緒に寝た時点でそこに善悪もクソない。残るのは事実だけ。もし大切な人がいるならば、一ミリも反論できる立場にいない。

 一夜の関係を毛嫌いする純潔な人間になれると思ってたけど、そんなに出来た人間ではなかったんだなと最近になって思い知らされた。性欲モリモリで誰でもウェルカムって感じでもないし、ほんとにどっちつかずの人生。なんか色々と枯れている。

 今作のエンディングの一つに、スッキリ別れて二度と連絡を取らない別れ方が存在する。もの寂しくて、大人だなと感じた。もし自分が主人公と同じ立場だったら、絵の具を重ねて色彩をぼかすような、曖昧な選択を受容できる人間になりたいと思った。

【ストアリンク】
https://store.steampowered.com/app/549860/One_Night_Stand/

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