高島屋と思ってビビりつつ入ってみたら超キレイな無印良品だった。みたいなパズルゲーム『Öoo』

『知識アンロック型ゲーム』と呼ばれるジャンルがあるらしい。ざっくりいうと「スキルではなく知識によって行動範囲が広がっていく作品」を指すとのこと。必要なアクションは最初からアンロック済。解法さえ知っていれば進めるんだってさ。何それ。

ボスの撃破や寄り道でアクションを拡張していくのがメトロイドヴァニアの通例。初期スキルから最短距離でゴールインできるなんて、何処となくリアルタイムアタックみたいだ。ハマる人が多いのも頷ける。

「さぁやるか!」と意気込んだのは良いものの、この手のジャンルに敷居の高さを感じていた。なんか怖いじゃん。通の者が遊ぶイメージが先行してて、誰でも遊べるような雰囲気ではなさそうな。そこで目を付けたのが見た目の可愛い『Öoo』だった。

爆弾イモムシ
爆風で宙舞うってよ

▲カワイイ

Öoo』は、自分の身体を爆弾にしてギミックを突破するパズルプラットフォーム作品。主人公はイモムシなのでジャンプができません。マリオみたいにぴょこぴょこ進めない代わりに、爆弾を使ったアクションでステージを突破します。

爆弾は好きなタイミングで設置・起爆が可能。アワアワしてる間に爆発とかはしません。例えば、爆弾に背中を預けて爆発させると、爆風の勢いを受けてダッシュっぽい挙動に。のそのそ地を這うゲームかと思いきや、一工夫するだけで行動範囲がグッと広がります。

情報を整理すると、爆風を当てると反対方向に吹き飛ぶことが分かります。右から当てれば左へ、左から当てれば右へ。では下から当てるとどうなるか。答えは「上方向へのジャンプ」となります。今作はテクニックを学んで行動範囲を広げていくゲームなんです。

またÖooには敵が存在しません。てくてく歩いてくるキノコやカメなんてもってのほか。かといって、パズル特有の難問が続く訳でもない。新しいテクニックを覚えて使いこなす模擬問題を集めて、ステージの至るところに散りばめているような作品でした。

ステージ中盤になると爆弾の数が2個に増加。ギミックのレパートリーも必然的に増えていきます。これがまた楽しい。気づいてしまえば単純な仕掛けも多いので、閃いてから答えまでの距離が短い。燃え尽きる前に気持ちよくなれるのが素敵でした。

▲こんなこともできる

筆者はパズルゲーに対して「基本動作を覚えた前提で応用問題を解く」ことを楽しむと思ってました。でも今作は「基本動作に自分で気づいて楽しむ」なんです。出口じゃなくて入り口を楽しむゲームなので、一つでも閃けば答えに辿り着ける。

パズルゲームは知識や経験値等の資産を持っている人が楽しむもの、という偏った認識を正すきっかけになって良かったと心底思います。全体の概要について軽く触れたので、今度は何故そう感じたのかを紐解くことにしました。

個別指導チュートリアル

▲さっきのアレをやれば…!

チュートリアルって言葉ありますよね。例えば、「この足場はジャンプボタンを押すと越えられるよ!」的なものです。意識して読み込む人は少ないと思いますが、全く知らない人はいないはずです。ゲームを遊んでいる人なら必ず通る道なので。

あれ、つまらないですよね。少なからず面白くはないはず。言ってしまえば教則ビデオの垂れ流しに近いですし、それよりも実践で試したいのが本音ではないでしょうか。横で丁寧に解説してくれるお姉様がいるとかだったら話も変わりますけどね。

▲ココ、美しポイントです

Öooに皆さんの想像するチュートリアルはありません。代わりに公式YouTubeで模範解答が公開されており、ゲーム内に明確な助言はない状態。分かりやすい看板もなければ、立ち止まると再生されるデモプレイもありません。全てが手探りの状態で進みます。

従来のゲームがドアの開け方を教えるのに対して、今作はドアノブがあるとだけ教えてくれます。自分で答えに到達できるよう手の平で操ってくれる。補助輪にならないような絶妙な距離感もあって、プレイヤーを尊重している姿勢に好印象しか抱きません。

▲行き止まり…?

必要最低限の手がかりしか残っていない。こちらの選択肢は爆弾のみ。選択肢を極限まで絞り込むことで、できること以外のノイズが消えていく。なんというんか、究極に美味い中華そばみたいな感じ。

それとパズルへの信頼感がモチベーションに影響を与えることにも気づきました。理不尽な解法が一つでも存在すると、その後のギミックに不信感が高まって集中できない。Öooはシンプルなのに納得性があって、いずれも気持ち良く一本取られた感があるんです。

▲もしかして…

筆者は「もしかして…」と新しいことに挑戦する瞬間がパズル問わず好きなので、論理を積み重ねるギミックとバツの悪さを感じていました。その点、Öooは解法の切り口を大量に用意しており、パクっと食べられるアソート感覚で楽しめるのがドストライクでした。

謎は消える、知識は残る

▲ああいうブロックも実は壊せる

アクションの拡張ではなく、知識が拡張されることで謎が解ける。使えるスキルは一向に変わらない。ボスはいない。寄り道しても行き止まり。スキルは最初から解放されている。なのにゲームとして成立していて面白い。圧倒的好評なのも頷ける。

Öooは遊び手が作り手を信頼しているし、作り手も遊び手を信頼している。知識という不明瞭さを残しつつ、双方の意思疎通に溝が存在しない。「あれ(醤油)取って。はいどうぞ(ソース)」とはならず、気持ち良く受け答えできた印象だった。

▲難しいけど妙に納得できる

このゲームには専門知識を抜きにしたやり取りが確実にあって、会話の上手い人とコミュニケーションを取っているような気持ちよさがある。初めて会う人と浅い趣味の話をして打ち解けるみたいな感覚。

ギミックを解く工程と知識を得る工程は似てるようで異なる。謎は解いたら終わりだけど、知識は永続的に残る。システム据え置きで選択肢が増える気持ちよさがクセになる。言うなれば、初めて自転車に乗れた時みたいな全能感に近い。

▲ギミックの数がとにかくすごい

パズルを使って超高速で新しい技能を習得していく。どんなものであれ、できなかったことができるようになるのは嬉しい。おもちゃ屋のセールで興味半分に買ったけん玉ができるようになるのと同じ。そこに実用性があろうとなかろうと嬉しい。

このゲームには行き止まりが多い。隠しアイテムや通路を空けるスイッチがありそうだと勘ぐってしまうが、ほんとに行き止まり。これまで通ってきた場所に順路が隠れている。頑張って進んだのに行き止まりでがっくりすると思いきや、案外そうでもない。

▲行き止まりやないかーい

進む過程でいつの間にかギミックに対する知見が増えていき、さながら映画ベストキッドで少年に課せられるジャケット修行のようだった。無駄だと思える回り道を通ることで着実に成長していく。行き止まりなのに満足するゲームなんて早々ないと思う。

「パズルとして面白いからおすすめです!」とは言いたくない。パズルの皮を被ったおもてなしが一番好きだから。遊んでいる人が気持ちよくなれるか。必要最低限のギミックで面白くできるのか。突き詰めると、パズルに疎い人が玄人と同じ土俵に立てるらしい。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


深遠の浅瀬でいちゃつく

自分で解く気持ちよさはパズルの本懐だと思う。他人から横やりを入れられて解いても妙な敗北感が残る。Öooは方程式を使うのではなく見つけるゲームなので、知識量の差で優劣がつきにくい作品だと感じた。たぶん、パズル初学者にもやさしい。

▲案の定、緑の沼に触れるとOUT

あんまり言及するとネタバレになるので詳しくいえないのですが、特定の動きをしないと入れないワープホールが最高でした(言いたいだけ)。納得性があって学びもある。パズル好きが感じている気持ちよさをぽろっと落としてある設計に人柄の良さを感じました。

▲ここ好き

言うなれば、深淵の浅瀬を楽しむゲーム。方程式をひたすら覚えて代入するのではなくて、次々と方程式を習う感じ。向き合うことそのものが楽しい。解けなくて足掻いている時間込みで知的遊戯なんだと思った。

「有名だから遊んでみよう」と邪まな気持ちで触ってみたものの、思ったよりも肌身に馴染んで嬉しい。それと同時に考え方を再考すべきかもしれない。パズルは難しさを楽しむだけではなかった。見逃してきた知識アンロック系作品との邂逅が楽しみだ。

皆んなのパズル

難易度の高いパズルを楽しむ愛好家に嫉妬していた。自分もいくつかチャレンジしたものの、面白さを一向に見いだせない。素直に悔しかった。だからこそ、どうしてもÖooの記事は自分で書きたかった。

マニアでもなければ、フェチでもない。普通の自分でも心を打たれた。パズルに疎くても楽しめるのが嬉しかった。本物のパズル好きと同じ気持ちを共有できて認められた気がした。人に優しいゲームだと思った。

パズルを楽しんで欲しいわけじゃない。愛好家が感じている面白さを分かち合って欲しい。今作が皆んなのパズルであることだけは伝えたかった。知識を愛でる心地よさに触れたい人は是非手に取って欲しい。

〈詳細情報〉

ゲーム名Öoo
ジャンルパズルプラットフォーム
ストア価格1,200円
リリース日2025年8月8日
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