夜中、荷物をひとまとめにして住み慣れた街を旅立とうとする。たまたま出会う顔見知りの住民と軽く会話を交わすが、旅立つ理由は明かさない。『ライヒェは街灯の下で』は、様々な視点で物語が構成されるオムニバス形式のADV。
夜逃げでもするかのような行動を取る彼は、なぜ続けていたアルバイトを辞め、この街を出ることになるのか。そして執拗に連絡してくる彼女が出している指示は一体なんなのか。きちんと答え合わせが出来る今作の良さを伝えたい。
始まりは『宇宙』

steamのストアページを見ると、周りから好かれる善人の男が深夜に街を出ること、そこで遭遇する癖のある住民たちと話をすること、などがわかった。さて、気になる『ライヒェ』という単語を調べよう…なるほど、ドイツ語で『死体』だそうだ。じゃあ一体誰が死体に…とドキドキしながらゲームを起動すると、そこに出てきたのは『宇宙』。
おそらく地球を見下ろしながら、「あの惑星の生命体は、生命体同士で殺し合うらしい」などと通信をとりあっている。ストアページの雰囲気に惹かれてインストールしたこのゲームは、思ったよりも血生臭いのかもしれない。
あーあ、やっちゃったね主人公くん

画面は宇宙から、主人公である『彼』の部屋へとうつる。物の少ない簡素な部屋…と思いきや、どうやら荷物を片付けているようだ。壁のシミの汚れが何度拭いても取れないことを漏らしている。こいつ、絶対に『ライヒェ』を作り出してしまっただろ…。
部屋を綺麗に片付け、最低限の荷物を持ち、街を出ようと外へ出る。どうやら主人公には彼女がいるようで、割と頻繁に「まだ?」「準備できたの?」「今どこ?」と連絡が入る。今作の後半は彼女視点になるのだが、主人公と彼女の考え方がかなりすれ違っていてなんだかリアルだった。
街で出会う善人たち

steamのストアページでは主人公を『善人の男』と記載していたが、他の登場人物も『善人』だと思った。画像の彼、康二さんは、色々あってホームレスをしている男性。犯罪に手を染めたわけでもなく、ホームレスというには綺麗な格好をしている。何故こんなところで暮らしているのかは主人公との会話で明かされるが、本当にただの『善い人』だった。
そして街を出ようとする主人公へ、「辛い事があっても深く考え込まないように」と、まるで『ライヒェ』のことを知っているかのような達観した雰囲気。こうした、街で出会う顔見知りたちと軽い別れの挨拶を告げながら、主人公は『彼女』から届くメッセージを返しつつ、目的地へと向かっていく。
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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

イラストやテキストから滲み出る美しさ

まぁどう考えても、死体の処理をこれからするんだろうなぁ、と開始5分で誰もが気付くだろう。しかし、絵の雰囲気が良くて気になる!とプレイを開始した自分は、雰囲気だけじゃないことをきちんと思い知る。
『月が窓に捕まるのはこの時間だけだ。』このテキストに心を奪われた。主人公と住民との会話、彼女とのメッセージのやり取り、指示される行動…どれもスッと入ってきやすいテキストだったが、ここが一番のお気に入り。ちなみに彼女視点でのシーン。なんて詩的で、素敵な表現をする彼女なんだろう…とニコニコしてしまった。
疑問を残させない、やさしいスッキリ感

オープニングの会話から、どうやら地球外生命体が身近にいるんだろうな、ということがわかった。出会う住民たちを、「こいつか?いやこいつが宇宙人なのか?」と疑いの目で見てしまうが、ストーリー上できちんと答えをもらえるのが嬉しい。
そしてクリア後のコンテンツとして、住人の詳細プロフィールを見られるのも有難い。2時間弱で物語を終え、その中でうっすら抱いた疑問が「あ~やっぱりそういうことか!」と解決されて浸れる余韻の時間がとても心地良かった。
住民たちの深堀りされた背景を知ってからプレイする2周目も、また違った見方が出来て楽しめるような作品。『ライヒェ』という単語を人生で使うことはきっとないだろうけれど、なんとなく頭に残って賢くなった気分になれた。
少しの仄暗さとスッキリ感を求める方に、是非ライヒェの行方がどうなるか見届けてほしい。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | ライヒェは街灯の下で |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 400円 |
| リリース日 | 2025年4月25日 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

