巨大な女子学生と小人の奇抜で歪な物語『SAEKO: Giantess Dating Sim』紹介

「身長の大きい人が好きっすね~」と言った瞬間、笑いながらブチギレられた経験がある。身長を後天的に変えることはできない。男性諸君、努力で変えれない部分に触れるときは注意しよう。

ところで、「巨大な女性とデートが出来るゲーム」があると言ったらどうだろうか。ちょっと興味が湧きませんか。自分だったらそそられる。しかも、女性は人間を丸呑みにできるらしい。こんなの絶対に面白い。

SAEKO』は人間の大きさを操れる女性『冴子』と、彼女が小人にした記憶喪失の主人公『リン』を中心としたビジュアルノベルです。もしも小人達が彼女に逆らった場合、キュッとされます。「どういうこと!?」となった方は続きをご覧ください。

もちろん、ネタバレはありません。

人を丸呑みにする巨大で顔の良い女子学生『冴子』

▲もうコレ見たら買いですよね

SAEKO』は人間の大きさを変えられる女子学生『冴子』との共同生活を楽しむデートシム系のADV作品です。主人公の『リン』も彼女が連れてきた人間の一人で、どうやら記憶を失っている様子。もうこの時点で面白いから間違いなく遊んだ方が良い。

冴子が人を誘拐する理由。それは食べるためです。空腹を満たすための食事ではなく、気分晴らしに食べるケーキのような感覚。彼女は拉致して勉強机の中に貯め込んで、決まった時間に人間をつまみ食いするサイコパスです。あんたの倫理観はどこに行ったの??

▲人を喰ってます
▲上品な人を食べたときの感想

冴子が連れてきた人間は不安を感じると不味くなるらしく、メンタルケア&治安を維持するための『管理人』として主人公を抜擢。でっけぇ女の子とイチャつくだけでなく、いきなり連れて来られた人間を管理して冴子に差し出す狂った作品でもあります。

住民の困りごとを解消しつつ食事を与え、魅力的な人間を用意するのが主人公の仕事。そして食べ頃の人間を冴子に渡す。注文のない料理屋みたいですね。何も知らない人間に安心と希望を与えた後、一瞬で丸吞みされるシーンは最高でした。

▲まぁ察してくれ

食事シーンは残酷というより捕食に近くて、さも当たり前のように味の感想が語られます。食べられる前の感情や人間性によって味が変わるらしく、暴れる人間には『元気が良くて美味しい』と賞賛することも。最初は「うわぁ…」だったのが、「今回はどんな味がするんだろう…」に変わってて自分が怖かったです。

ちなみに、冴子に反抗したり住民の管理に失敗すると、呆気なく握りつぶされて死にます。生物としての圧倒的な差。ライオンとハムスター。食うも嬲るも彼女次第。まさにサイコホラーですね。

食事の次はお待ちかねのイチャつきタイム

▲他愛もない会話

今作は冴子に誘拐された人間を躾ける『管理パート』と、冴子とのコミュニケーションを図る『会話パート』で構成されています。頑張ったご褒美的な扱いでイチャイチャお喋りタイムに突入する訳です。

ざっくりとした概要には触れましたが、肝心のゲーム性については紹介していないので、上記の2パートについてそれぞれ解説しますね。

【管理&食事パート】
冴子のいない昼の時間

▲優しいお姉さんもいるぞぉ

管理パートでは、勉強机に収納されたものを使って住民の悩みを解決します。良く言えば不安を和らげるメンタリング、悪く言えば殺人への加担ともいえます。冴子の機嫌を損ねると全滅なので、上手く懐柔して人間を見繕いましょう。

住民の話を聞いて勉強机にある道具をドラッグ&ドロップして手渡すとイベントが発生。物語が進展して時間が進み、学校から帰ってきた冴子が人間を食べる食事パートに移行する流れです。

食事パートでは机に設置された食事を任意の人物に与えて『魅力度』を無理やり引き上げ、生贄として冴子に差し出さなければなりません。対象者がいない場合は全員が死んじゃうのでご注意を。

▲選べるのは主人公だけ

後半に掛けてキャラへの愛着も湧いた頃、死んで欲しくないキャラが重なった時の圧力は相当なもの。ドーナツみたいに呆気なく食べられるので、絶対的な捕食者の存在感が感じられて良かったです。

冴子は食べた人物の人柄によって味や風味も変わると公言しており、プロファイリングのように性格を言い当てながら人間を美味しそうに丸呑みにします。好き嫌いがなくて清々しい。

【会話パート】
冴子とイチャつく夜の時間

▲イエローカードっ!!

食事パート終了後、満足した冴子とコミュニケーションを図る『会話パート』に移行。楽しくお喋りすることに間違いないのですが、少しでも機嫌を損ねるとアッサリ殺されます。

相手を持ち上げる相槌を打てばウザがられ、かといって無口過ぎてもつまらない。頭上には怪訝な顔をする女性。気まぐれで殺される異常な環境下で相手の楽しめる会話を続ける必要があります。

▲レッドカードっ!!

会話はリアルタイム形式を採用しており、選択肢が表示されてから一定時間が経過すると消えてしまいます。考えている時間が長いと『無視した』扱いになるのも特徴かもしれません。

相槌を打たずに傾聴したい場合、選択肢を放置することで黙り込むことも可能です。なんてことはないシステムかと思いきや、キャラとの会話に丁度良い余白を生んでいるので良くできてるなと関心しました。

ちょっとしたQTEな仕組みで最初は戸惑いますが、会話の選択肢は固定されているので難しすぎることもありません。現実世界の会話同様、メリハリの効いた展開を楽しめるといえるでしょう。

平成の匂いが漂う『ガラケー』を使った自由時間

▲押し方めっちゃ可愛くない??

今作には1日の終わりに自由時間が設定されており、冴子の携帯を使って色々なサブコンテンツを楽しめます。巨大なガラケーに跨がり、主人公が全体重を乗せてボタンをぽちぽち押してて可愛いので必見です。

平成時代のオアシスこと『魔法のiらんど(小説が読めるサイト)』的なコンテンツも用意されており、学生を主人公にした恋愛小説が毎日更新されます。訳あって更新は途絶えますが、メインストーリー以外にも小ネタが仕込んであってエンタメ力の高さを感じます。

作中の恋愛小説はメインストーリーとも少しだけ関係もあって、冴子の人柄を補強する役目も担っていてグッドでした。あの独特な行間というか、フォントの感じが懐かしくて、全国のインターネットマンは涙を流したと思います。

▲ちょっとしたミニゲームも遊べる

ほかにも棒人間を操作して頂上を目指す『スケ棒』というアプリも遊べます。生きとったんかワレぇ!って感じ。ワンボタンだけの操作性ながらも、絶妙に難しいので簡単にクリアさせる気はなさそうです。

ケータイということもあり、メール履歴や着信履歴を覗いて冴子の人となりを知ることも可能。最初は冴子の妨害を受けますが、物語後半からいつの間にか覗けるように。重要な伏線が隠れているかどうかは、実際に見てからのお楽しみ。

このゲームの時代って令和じゃなくて平成なんですよね。別にスマホでも成立するのに、敢えて折りたたみ携帯にして当時の空気感を尊重している。個人の生き様を自然かつ意図的に反映させる姿勢が美しくてカルチャーだなと感じがしました。

徐々に壊れて受容していく鬱屈した住民たち

▲なかには勘に触る奴もいる

人間を間引いて冴子に渡す管理人となった主人公。正気でいられるはずがありません。何も知らない新入りに食事を与えて間接的に人を殺し、そのやり取りを多くの人間に目撃されています。それでも、冴子の絶対的な圧力で住民全員が現状を受け入れている状態。

主人公を筆頭に残った主要キャラが狂っていき、自暴自棄になる脆さの心理描写が良いんですよ。堕落への途中経過が生々しくて、ほぼ誰も止めることができない。倫理観の崩壊を現在進行形で眺めている感じ。

▲心を折られる人間も

何が凄いって、集まった人は大罪を犯している訳じゃないんです。ミステリー作品でよく見掛ける贖罪のために集められたとかもなく、理不尽に集められ、不合理に圧迫され、理由なく壊される感じ。

記憶喪失の主人公についても物語を進めると分かります。流石にネタバレなので書きませんが、辻褄もあうのでシナリオそのものが太かったのも良かったです。ビジュアルだけのゲームでは決してありません。

▲この子、かわいいよね

自分の意志が全く反映されないとき、人は支配された方が楽だと感じるのかもしれない。絶望よりも鬱屈の描写が上手くて、過剰な残酷描写で話を盛る場面はなかった。距離感と温度感が心地良くて、ぬるま湯で溶かされている感じ。

時たま、人が壊れていくのを見たくなる感覚。なんなんでしょうね。安全地帯から眺める愉悦感とかじゃなくて。まともな自分と比較した優越感でもなくて。自分の代わりに壊れてくれる安堵感っていうんですかね。痛みを知っている人が作ったんだと思う。

結局、冴子が普通の感性だから面白いのだと思う

なんで面白かったのか。思い返してみると、結局は冴子も人間の枠組みから外れなかったからだと思った。どれだけ化け物じみていても、根っこにある動機はどうしようもなく平凡で、お前も大差ないじゃんって。

なんというか、この子の劣等感みたいな部分が好きで、ちょっとだけ同情している自分もいる。プレイヤーではなく主人公みたいに死の恐怖と同情を一手に引き受けたら、たちまち好きになる気がする。

俗に言う『ストックホルム症候群』。激やば吊り橋効果みたいな感じ。極度のストレスにさらされた人間が小さな親切に触れたとき、正当防衛として好意を感じるらしい。ナチュラルな命乞いみたいですね。

主人公と冴子の歪んだ信頼が主従関係から来るものなのか、それとも純愛から来るのか分からない。一つ言えるのは、冴子は他人を支配したいわけではなくて、普通の感覚を味わいたいだけの女子学生に過ぎない。

冴子本人も倫理観が死んでいる状態を理解している。コミュニケーション次第では、ストックホルム症候群の逆に位置する『リマ症候群(加害者が被害者に同情する状態)』を引き起こすだってある。ネタバレなので詳しくはいえないから自分で見てくれ。

筆者は冴子が特別な力を持った超人ではなく、一般人の延長線上にいるように感じた。プロットが面白いとか、キャラが可愛いとかもあるけど、心がいちばん惹かれた部分は悪役になり切れない鬱屈した人間達の悪あがきみたいな生々しさだったのかもしれない。

捻くれ者にとっての写し鏡みたいなアドベンチャーゲーム

SAEKOには後天的なサイコパスも登場する。まともだったはずなのに狂ってしまった人達。昨日会った人がイチゴみたいに食べられ、部屋に侵入した蚊のように誰かが潰される空間なんだから狂うのも無理ない。

突拍子もないことを言うと、自分はサイコパスっぽい人が好きかもしれない。平凡な部分もあるのに、決して追いつけない理外を持っているから。天才と持て囃されるより、痛みを忘れた化け物になりたいのかも。

狂うことでしか普通の感覚を得られず、著しく欠けた共感性と軽薄な罪悪感で理性を溶かす人生。当人からすれば毎日最悪な気分かもしれないけど、外野の自分から見ると浅ましくも羨ましいと思う時もある。

モラルハザードを起こした世界で安全地帯のぬるま湯に浸かり、常軌と狂気の境界線をぼかして漂う時間が心地良かった。どっちも感じられるから背徳感もあって、他人の不幸に付随する痛みも感じられる。

自分も冴子の机に居たとして、誰かに求められたら場を弁えずファックするのだろうか。嫌いな人間に親切をして食べ物を渡し、自分の意志で人を殺せるのだろうか。本音が建て前で覆われる世界。案外、悪くないのかもしれない。

〈詳細情報〉

ゲーム名SAEKO: Giantess Dating Sim
ジャンルADV
ストア価格1,790円
リリース日2025年5月30日
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