真っ暗な闇の中から悪霊や怪物が襲ってくる! ホラーゲームでは、暗所や廃墟といったシチュエーションやバリエーション豊かな怪物や怪奇現象がプレイヤーを恐怖に陥れようと待ち構えています。
本作『SOMA』もまた、廃墟となった謎の海底施設で機械と生物が融合したかのような怪物に追われながら施設からの脱出を試みるというオーソドックスな設定のホラーAVGです。
しかし、本作に潜む真の恐怖は廃墟の闇でも恐ろしい怪物でもありません。『SOMA』における真の恐怖は、現実や自我という確実にそこにあるはずの認識の不安定さ、不確実さなのです。
2015年から2104年へ

時は2015年のトロント。交通事故で妻を失い、自身も脳に損傷を負った主人公サイモン・ジャレッドは、ヨーク大学の大学院生デイビッド・ムンシが行っている人間の脳をスキャンし思考や記憶をデータとして取り出す実験的な治療に協力していました。
いつものようにムンシの研究室で脳スキャンを受けていたところ、サイモンはアクシデントで失神。次に目を覚ましたときにサイモンがいたのはなぜか2104年の見知らぬ荒廃した施設内でした。
プレイヤーはこの謎の海底施設「PATHOS-II(ペーソス・ツー)」を探索し、唯一連絡がついた女性キャサリンと協力しながらそこからの脱出を目指すことになります。
「PATHOS-II」の各所にはロックされた扉や破損した装置があり、プレイヤーは襲い来る謎の怪物を避けながらこれらのギミックを解いて探索を進めます。しかし本作の魅力は、そうしたパズル要素や怪物との追いかけっこよりもストーリーテリングの部分。
2015年から2104年に飛んでしまったのはなぜか?
「PATHOS-II」はなんのための施設なのか?
そして自分はどうなってしまったのか?
本作の魅力は斬新なゲームシステムや豊富なやり込み要素ではなく、ゲームの進行に伴ってこれらの謎が解き明かされていくストーリーテリング。そしてそのストーリーは、3つの恐怖から成り立っています。
立ち向かえないという恐怖

本作の主人公であるサイモンは、屈強な軍人でも特殊能力を持ったヒーローでもありません。本作には戦闘要素や武器はいっさいなく、プレイヤーは「PATHOS-II」を徘徊する怪物からはひたすら逃げることしかできず、立ち向かうすべはないのです。
しかも「PATHOS-II」内は暗く狭く、敵がどこから出てくるかもわかりにくくなっています。ギミックを作動させたりアイテムを探したりする間も敵は徘徊しているので、プレイヤーは常に緊張を強いられます。
本作は「敵を倒すすべがない」「戦えない」という無力なキャラクターを主人公にすることで、「立ち向かえない」という恐怖を演出しているのです。
わからないという恐怖

冒頭から終盤まで、サイモンは常に不可解な状況に立たされ続けます。
2015年にいたはずなのに、なぜ2104年の海底施設にいるのかもわからないまま無人の施設をさまよい続けるサイモン。ようやく出会った協力者・キャサリンも、あくまで通信越しにやり取りをしている状態で直接会っているわけではありません。
舞台となる「PATHOS-II」はいくつかのセクションに分かれており、何らかの研究を行っていたことは察せられるのですが、それらの情報は残された通信記録やメールなどから断片的にしか得られません。また、現在の施設内が荒廃している理由も、施設内の各所を覆うゲル状の黒い物質の正体も序盤では不明。
このように、本作には「わからない」という恐怖がつきまといます。この「わからなさ」が、薄暗い廃墟や得体のしれない怪物以上の恐怖なのです。
自分は本当に自分なのか?という恐怖

本作は一人称視点のゲームです。そのため、プレイヤーは自分の姿を第三者視点で見ることができません。
主人公サイモンの顔はオープニングで確認できますし、その言動からも彼が本物の人間であることはわかります。しかし、「PATHOS-II」に飛ばされてから、サイモンひいてはプレイヤーはだんだんと自分の存在に疑問を持つようになります。
施設内に遺棄された自意識を持っているかのようなロボットの残骸、人間の意識が乗り移っているかに見える破損したロボットなどを発見していくたびに、「サイモン=自分は本当に自分なのか?」「自分は本当は自身を人間だと思い込んでいるだけの機械なのではないか?」という疑問が膨らんでくるのです。
そしてゲーム中盤でサイモンは、「自我をロボットに転送するはずが、実際にはコピーされていた」という異常な経験を強いられます。結果、それまで自分であったはずの身体をコピー後の第三者視点から見るという構図は、まさに自我の拠り所を揺らがせる、本作の中でも特に恐ろしいシーンとなっています。
本作の最大の恐怖は、探索を進めていくにつれて「自分は自分である」という常識が徐々に崩壊していくことだと言えるでしょう。
廃墟よりも怪物よりも怖い、哲学的恐怖
「現実とは、それを信じることをやめても消えないもののことである」
本作は、古典的名作SF映画「ブレードランナー」の原作小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」で知られるアメリカのSF作家P・K・ディックのこの言葉から始まります。
自分が本当に自分なのか。自我の拠り所とは。自我と現実の不安定さを揺さぶられ続けたサイモンはゲーム終盤、「信じることをやめ」たくなるほどの過酷な現実に直面します。
その現実を見届けてゲームを終えたあと――あなたがいる場所は、本当に現実でしょうか? そしてあなたは、本当にあなたでしょうか? もしそうでないとして、あなたにはそれを認識できるでしょうか?
本作の本当の恐怖は、そんな哲学的恐怖なのかもしれません。
〈詳細情報〉

| ゲーム名 | SOMA |
| ジャンル | ホラーAVG |
| ストア価格 | 3,400円 |
| リリース日 | 2015年9月22日 |
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