非ゲーマーに捧げる全人類向けオカルトミステリADV『都市伝説解体センター』紹介〈ネタバレ無し〉

人生とは不思議なもので、一人の何気ない一言や行動で始まったり終わったりする。たぶん遊ばないだろうなと思っていたゲームだとしても、何かの拍子に遊んでハマったりするから何が起こるか分からない。

今回紹介する「都市伝説解体センター」の制作チームと色々あって記事を書かせて頂き今に至る。時の人と関われたことがいまだに信じられず、自分の中では都市伝説に遭遇したも同然の出来事だった。

先に伝えておくと、この記事はちょっと長いです。ネタバレなしの紹介記事ですが、主観強めの日記的なテイストなので好みが分かれるかもしれません。お茶とお菓子を用意してまったりご覧ください。

『都市伝説』と『SNS』を軸にしたミステリーADV

▲依頼を受けて解決する流れなので大枠はシンプル

『都市伝説解体センター』は怪奇現象を引き起こす都市伝説とミステリーを融合させたADV作品です。ドラマのように1話仕立てで話が展開され、区切りの良いボリュームで粒度を揃えている点も特色の一つ。

捜査の中に『SNS調査』が組み込まれており、現場検証+ネット上のセリフから謎に迫るシステムが特徴。ひとたび事件が起きるとSNSが蠢き出し、あることないこと叩き合ういつものインターネットが爆誕します。

▲現場検証&SNS調査の2軸で進行

ゲームの大まかな流れは下記の形式を取ります。

  1. SNS調査(エゴサみたいなシステム)
  2. 現地調査(フィールドワーク)
  3. 都市伝説の『特定』(怪異の正体を見極める)
  4. 調査を再開する(事件に戻る)
  5. 都市伝説の『解体』(真実の解明)

『特定』と『解体』には豪華演出が用意されており、作中屈指の目玉システムとなっています。章ごとに怪異の名を呈する特徴的な事象が発生するため、予測する楽しみもあって良いシステムだなと思いました。

▲怪異を見極める『特定』(ピラミッドも登場)
▲怪異の実態を暴く『解体』(字体が欠けてて好き)

ゲームの導入剤として都市伝説を使っているため、オカルトマニアが絶賛する深掘った話は展開されません。活字慣れした人向けの作品というよりも、世界観や物語を楽しみたい人におすすめしたい作品です。

またホラー作品のような雰囲気を醸していますが、突飛な驚かせや生理的な嫌悪感を放つキャラはいません。そのかわりSNS特有の陰湿な描写が溢れているので、精神的な嫌悪感は強めです。人が一番怖い。

フレーバーテキストにも伏線が散りばめられており、匂わせ以外の仕込みが多いのも魅力。複雑なトリックを使わず、一人でも多くの人がゲームを通じて物語を楽しめる工夫が施されています。

善意を蝕む陰鬱なSNSを描く

▲SNSが鍵を握る

SNS調査は都市伝説の存在を特定する鍵を握っており、今作を語る上で外せない存在です。登場するSNSは『Tiktok』や『Instagram』よりも、テキスト主体の『X』が色濃く反映されているように感じました。

インターネットが発達した現代社会。誰しもが発言権を得る一方、個人が社会に影響力を与える『全国民メディア時代』に突入しています。たった1人の発言が呼び水となって争いが起こることも珍しくありません。

▲人間の善悪が交錯するSNS

今作はSNSを取り巻く善意と悪意にスポットが当たっており、心がささくれるネット社会の闇にいくつも遭遇します。誹謗中傷された人を庇えば蔑まれ、真偽不明の事件には魔女狩りが執行される場面も。

陰湿な世界観を可視化するのが物量にモノを言わせるテキスト量。顔なき無数の人格を作り上げ、シナリオ担当者さんが真心込めてセリフを打ち込んだんでしょう。調査がゲンナリするくらいミチミチです。

▲理詰めだけじゃなくてユーモアも忘れない

さらに投稿を読んだ際のセリフまで用意されており、テキストに余程のこだわりを感じさせます。調べられない場合もあるはずなのに、細部までサボらない姿勢が作品に磨きを掛けるんだなとしみじみ。

顔も知らない人同士がおこなうレスバトルが毎日飛び込むSNSにおいて、どこか人事ではない部分も感じました。空想ではなく「当事者だけしか知り得ない痛み」の混ざった生々しさにも要注目です。

粒度の異なるドット絵と色使いに職人芸が光る

▲めちゃくちゃ怪しいお隣さん

今作を象徴するといっても過言にならないのが、解像度の異なるドット絵。探索時は最小限のドットでキャラが表示され、話しかけると粒度の細かい立ち絵が表示される。ちなみに筆者は前者が好き。

ゲームのデータ容量を絞るために誕生したドット絵が芸術へと昇華し、『ピクセルアート』として見る機会も増えました。鮮やかさに磨きが掛かる反面、ちょっとだけ侘しさも感じるんですよね。

▲窓枠を薄い色で囲って淡い光を再現しているシーン

筆者の一番好きなシーンは『夜の公園の景色』。色味を絞ってビルから漏れる光を表現し、夜空に一抹の不穏さを添える。誰も気にしない部分かもしれないけど、ドッターさんの性分を感じて良かった。

もし今作がキャラクター性を前面に押し出して背景も高解像度で表現していたら、きっと筆者はここまで好きになれなかったと思う。低解像と高解像を往復できるのが今作の隠れた醍醐味ではないだろうか。

▲この色合いと質感は今作ならでは

色味を絞ることで想像の余白が残され、姿形を自分で補填する必要が生まれる。可愛いキャラクターをまじまじ眺めるだけではなく、遊び手自身がゲームのキャラを完成させて独り立ちさせるイメージ。

ここまでぐだぐだ書きましたが、結局はグラフィッカーの書いた絵がただただ好きなのである。可愛いだけじゃ終わらない。だからこそ都市伝説解体センターが好きなんだろうな~と書きながら腑に落ちた。


HARF-WAY コマーシャル


物語の根幹を支える練りに練られたキャラクター

▲主要キャラ以外の人物もええで

ドット絵から話題を変えて魅力的なキャラについて触れていきます。余すことなく片っ端から解説したいところなんでが、ネタバレに繋がる危険もあるので主要3キャラについて軽く紹介しますね。

福来あざみ

▲この寂し気な表情良いよね

不思議な眼鏡を掛けることで『過去』を念視できる女の子。話題を集めたネットニュースやSNSで発信される時事ネタに疎く、いい意味で世間を知らない綺麗な心を持った箱入り娘みたいなキャラですね。

道行く人に取り付く謎の幽霊が見えるようになり悩んでいたところ、交番の張り紙で怪奇現象を取り扱う『都市伝説解体センター』を発見。偶然が重なって足を運んだことから事件に巻き込まれることに。

いろいろあってあざみちゃんが貴重な椅子をぶっ壊しちゃったので、弁償するために不思議な力を使って事件解決の手伝いをする流れ。ビビりなのに幽霊が見えちゃって大変そうですが、健気に働く良い子です。

廻屋渉

▲イケメン性癖ブレイカー

主題にもなっている『都市伝説解体センター』を取り仕切るセンター長。大のオカルト好きで部屋には怪奇現象に関する書籍のほか、怪異の出生に関わる民俗学や精神心理学の難しそうな本も並んでいます。

不思議な力『千里眼』で未来予知ができるらしく、あざみの行動をすべて監視。「もし逃げても取り立てるからね」と諭すように脅す姿はインテリヤクザそのものでした。こんなんもう絶対モテる。

調査が進むとあざみに電話を掛けてきて、怪異の特定や解体をサポート。身体が不自由で思うように動けず現場に来れませんが、主人公と一心同体となって二人で事件に望むって感じですかね。

止木休美(ジャスミン)

▲筆者はジャスミン派です

だる~と言いながらも仕事をしっかりこなす運転係。武闘派かつ交渉力に秀でたあざみのバディです。「止木だからジャスミンね~」と謎の理由でコードネーム付き。あざジャスを嫌いな人は一人もいない。

主人公のあざみを「あざみー」と呼ぶなど、ギャルっ気も強くて最高です。現場への運転や中編調査役を担当しており、SNS調査であざみがSNSの闇に落ちないようさり気なくサポートするお姉さん気質も。

オタクに優しいギャルが好きな人いると思うんですけど、なんだかんだで仕事をキッチリこなすギャルも良いですよね。余談ですが、あざみとの関係性が尊すぎて現実世界のSNSでファンアートも飛び交ってます。

名脇役となりシーンを締める細やかな音作り

▲場面ごとにBGMも変わる

ネタバレを伏せてキャラ愛を語った訳ですが、音作りのこだわりも凄い。シーンが切り替わるたびに場面に沿った専用BGMが流れ込み、文脈やビジュアルを彩りを与えて更に盛り立てます。

物語後半になって伏線を回収し始める頃になると、新しい楽曲が追加されてクライマックスが近いことを暗に示してくれます。BGMが一人勝ちするのではなく、ほかの要素と調和しているのが印象的でした。

▲ここぞって場面の盛り上がりが凄いのよ…

細かいSE(俗にいう効果音)も丁寧に設定されており、キャラと連動して小気味よく鳴動。動きの少ない読み物作品にメリハリを与えており、ゲームとしての音作りが上手いなと感じました。

音を使い分けることで場面展開が補助され、遊び手にストレスを与えることなく情報がサラリと脳みそに入ってきます。面白さや楽しさといった感情面はもちろん、負荷軽減の役目も一役買っているんだなと。

▲主題歌の『奇々解体(作曲者リミックスVer)』

また今作に外せないのが主題歌の「奇々解体」。各話の最後に流れる挿入歌であり、ドラマでいうところのED曲みたいな存在なんですが、これがまた歌詞含めて超カッコ良くて最高なんですよ。

事件が一段落して一件落着と思いきや、事件とは異なる視点で別軸の物語が動き出す刑事物とかあるじゃないですか。あの空気感でゆっくり主題歌がフェードインしてきて、含みのある発言で次回予告しちゃってさ~~~ヤバくないですか!!嫌いな人いるんですか!!○○見たぁ!??と話題をかっ攫う大人気ドラマですか!!!となります。やりましょう。

構成要素が何もかも分厚いのに全て均等

全然関係ないんですけど、『クロノトリガー』という作品をご存じでしょうか。筆者が生きてきた中で一番好きなRPGでして、ジャンルは全く被ってないんですけど似ている感じがしたんですよね。

ゲームは箱みたいなもの。文脈を形作る『シナリオ』や『キャラクター』。文脈を強固にして膨らませる『ビジュアル』『サウンド』で構成されています。改めて色々なものが絡み合ったエンタメですよね。

▲つまりブリリアントです

今作はゲームを形作るもの全てに厚みがあるにも関わらず、何かが一人勝ちすることもなく相乗効果を生んでいるんです。それぞれの要素が見せ場を持っているので、衝突しあって喧嘩することもない。

各要素が拮抗しているとでも言うべきでしょうか。都市伝説のオカルトや陰鬱なSNS描写で尖りを魅せているにも関わらず角がない。構成要素が綺麗な五角形チャートを描いてゲームそのものを丸くしている。

▲俗にいう謎解き部分はゴリ押し可能です

あと地味に良いなと思ったのが、お決まりの体験設計を無視している点。後半に進むほど高度なトリックが用いられて謎解きの難易度も上がっていく、ということにはならずに同程度のボリュームが続いていく。

きっと読み物系の作品に慣れていない人に向けて首尾一貫して作ったんだと思う。最後まで遊び手目線で土俵が完全にコチラにある状態。矢印がこんなにも私たちに向いているゲームは早々ないですよ。

物書きが思わず嫉妬する無駄のないテキスト

▲過去作の「和階堂真の事件簿」シリーズも凄い

今作は贅肉になる冗長テキストがホントに少ない。込み入った展開にして話を盛ったりせず、最短距離で進んでいるのに奥行きを感じさせます。これは『墓場文庫』さんの過去作『和階堂真の事件簿』も同様です。

フレーバーテキストの伏線も多くて、脱線していると思いきや点と点が繋がることも。またSNS調査で条件を満たすと見れるデータベースも充実しており、読み物として楽しませる姿勢も強く感じられます。

▲「ぽぽぽ」で有名なあの方も

今作のテキストは細いけど強度があって、誰でも理解できる言葉まで噛み砕かれていることが分かります。慣れている人には物足りないかもしれませんが、文脈を一口サイズに切ってくれるのは良心的。

これは筆者の師匠からの請け負いなんですが、「誰しもが使う言葉で人を感動させるのがプロ」だと鼓膜が破けるほど言われており、このゲームもそうだよなって思ったんですよね。正直、嫉妬してます。

▲セリフ作りも上手くてグッとくる

オカルトを題材にした今作が浸透している理由。それは決してキャラの可愛さだけではありません。怪奇現象やミステリーに知見を持たない人が楽しめる言葉まで咀嚼してくれたからだと筆者は考えます。

難しい話を持ち出さずに構成力で膨らみを持たせ、読みやすさと奥行きを両立させた胆力。筆者は文字を書いて飯食ってる人間なので、この凄さというかマメさに心底惚れました。ホントに無駄がないんですもん。

脱落者ゼロを図る端麗な語り口

▲誰しもに潜む心の闇をチクリと刺す

このゲームは文脈だけで全てを紡ぐミステリ小説ではありません。都市伝説とSNSを題材にして誰しもがミステリの美味しい部分を味わえるよう作られたアドベンチャーゲームです。今更ですけど。

1話区切りのエピソードの裏では、全話を通じて何かが動いている。気持ちよく見終わるドラマのような気持ちよさとドキドキ感を演出しています。ゲームなんだけどゲームっぽくない作りがまた良いんです。

▲チャプター画面で謎のカードが表示される

見飽きて離脱する人はそれでもいいけど、面白いと思ったプレイヤーに対しては絶対に見捨てない。来る者拒まず去る者追わずって感じ。なんというか脱落者ゼロを目指しているような印象を受けました。

そもそも『アドベンチャー』って話を追うのが難しいじゃないですか。物語を好きな人が作った作品なので必然的に好きな人向けになってしまうものですし、善悪の話ではなくて当然の流れですよね。

▲開始早々どんな話か想像しやすい

話の展開が分かりやすいので理解できず伝わらない部分が少ないんです。だからストレスを感じることなく面白さを素直に感じ取りやすい。名作と謳われているけど話について行けず脱落とかもありません。

面白ければ癖が強くて万人受けしなくても良いってものではなくて、面白さがロスなくしっかり伝わることを大切にしている気がしました。誰に向けて作っているのか明確なゲームって良いですよね。

売るのではなく届けること

▲ゲーム内容とは直接関係ありません

ゲームの詳細とは直接関係ないのですが、歴史的資料として残しておきたくて身勝手ながら書いてます。いずれ風化してしまう内容とはなりますが、どうかお付き合い願えればと思います。

ゲームを販売する場合、大きく2つの組織体制が生まれます。別に覚えておく必要はないのですが、これから先の内容に触れるために必要なのでざっくり触れさせてください。

  • ディベロッパー=ゲームを作る人
  • パブリッシャー=ゲームを売る人

今作はディベロッパーが『墓場文庫』。パブリッシャーが『集英社ゲームズ』で形成されています。集英社といえばジャンプのイメージが強いかもしれませんが、実はゲーム領域にも進出してるんです。

▲実は呼ばれたこともある(これはただの自慢)

基本的に販促行為はパブリッシャーが担当するので集英社ゲームズの領域。SNSのゴリゴリ宣伝をはじめ、漫画や謎解きイベントを開催などゲーム業界の打ち手とは毛色が違うことをやっていました。大真面目な話、今後のマーケ事例として教材になると思います。

集英社ゲームズが本職である宣伝で力を発揮するのは目に見えて分かっていたんですが、ディベロッパーである墓場文庫さんが宣伝チームに負けず劣らず活動していたことに筆者は感銘を受けました。

▲凄い通り越して怖い

発売が近づくにつれて制作陣とゆかりある絵描きさんがファンアートを描いて盛り上げ、昼夜問わず関連キーワードをエゴサして交流を図る。届けるところまでがゲーム開発といわんばかりのバイタリティで集英社ゲームズに全く引けを取りません。

プロの宣伝チームが揃っているのにSNSの最前線でコミュニケーションを図れますかって話です。これは技術じゃなくて熱量の話。作品のクオリティを支えているのはこういう姿勢なんじゃないかなと思うのです。

ここまで読んだならやれ

▲過去作の和階堂真の事件簿もええで

話題作に便乗して記事を書くとフリーライドしてるみたいで嫌だな~と思ったので、それっぽいことを書いて許してもらおうとエゴ出して長くなっちゃいました。疲れましたよね。ごめんなさい。

おかげさまで言いたいことはほぼ言えたかなと思います。ネタバレを伏せたので、物語の楽しみは未開封状態です。わざわざ言わなくてもって感じもしますが、ものは試しで買ってみてよ。

言い忘れたんですが、安すぎて市場破壊してます。何故か2,000円です。ここまで来ると執念でしかない。あなたが今作の真相にたどり着けることを祈って結びの言葉とさせて頂きます。

では、SNSでまた。

〈詳細情報〉

ゲーム名都市伝説解体センター
ジャンル探索型アドベンチャー
ストア価格1,980円
リリース日2025年2月13日
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