懐かしさは台所からやってくる〜インド家庭料理がつなぐ家族のストーリー〜『Venba』

食べ物の匂いで、昔を思い出すことってありますか?

「実家の味」と言われるような素朴な家庭料理から、旅行の道中で分け合いながら食べたお菓子や夜食のカップ麺まで。誰しも一つは思い出と紐づいた食べ物があると思います。

ふと漂ってきた香りに、心が一瞬だけあの頃に戻る。そんな経験は、誰にとっても特別なもの。『Venba』では、彩豊かなスパイスをふんだんに使った南インドの家庭料理を作り、食べることを通して、ひとつの家族の記憶や歴史がゆっくりと語られていきます。

移民の家族と母のレシピ本

▲ベンバの母から受け継がれたレシピブック

今作は、南インドの家庭料理のレシピと調理を通してある家族の半生を描くアドベンチャーゲームです。舞台はインド…ではなく、カナダ。

ベンバとその夫は異国の地で移民として暮らす中で、言語の壁や現地での就職の難しさ、息子とのすれ違いなど人生における障壁に幾度となくぶつかります。

しかしその中でも生活を営み、食卓を囲み、それでもご飯を食べて生きていく。そんな主人公ベンバたち家族の葛藤と温かみを感じるストーリーです。

日々の暮らしに沁み込んだ名前のない葛藤

寝る前に今日の出来事を語り合いながら、眠りに落ちるときの安らぎ。その一方では、思うように進まないキャリアへの焦り、悲しむパートナーにかける言葉が見つからないもどかしさ、理由もなく家族に苛立ってしまう思春期の感情が渦巻いています。

それぞれが行き場のない苦しみを抱えつつも、家族として一緒に生活しなければなりません。今作ではこれから生きていく上で起こる感情の起伏や葛藤を、ベンバの家族を通して追体験することになります。

まるで本当に料理しているかのような試行錯誤感

▲ビリヤニの材料を入れる順番は…?

皆さんは「南インド料理」と聞いてどんなものが思い浮かびますか?

筆者は恥ずかしながらカレーやナン、ビリヤニしか知らず、ましてや調理過程など全く分かりませんでした。作中、ベンバは母から受け継いだレシピ本を参考に南インドの家庭料理を調理していきます。しかし、レシピは滲んだり破れていたりと虫食い状態。

見たことも使ったこともない調理器具も多く、材料やベンバのアドバイスを元に試行錯誤して作るので一緒にキッチンに立っている感覚でした。油とスパイスがパチパチと弾ける音、ミキサーで撹拌する音など効果音も臨場感を引き立てるいい仕事をしています。

なんとオプションでは実際のレシピも読めるので是非現実でも作ってみて、本格的なインド料理を味わってみるのもいいかもしれません!

料理を彩る音楽も魅力的!

要所要所で掛かるインドミュージックも、この作品を語る上で欠かせません。料理シーンの冒頭では毎回、ベンバがカナダに引っ越してくる時に持ってきたのであろう年季の入ったラジオで音楽を流します。

そんな場面で掛かる思わず踊りたくなるようなノリノリなサウンドも、登場人物に寄り添うように流れる落ち着いたBGMも、聞き応えのあるものばかり。ストーリーに溶け込むように流れる音楽は、プレイヤーに作品の空気感をしっかり届けてくれることでしょう。

誰かのためにご飯を作るということ

この作品の見所として「どんな人でも共感できる人間模様の描写」があります。例えば、ベンバがビリヤニを作った後、息子のケビンへ「大学のお友達の分も持っていきなさい」と提案して断られる場面。

少し口論になるこのシーンに自身の学生時代を思い出して、ほろ苦い気持ちになる人も多いのではないでしょうか。こういったシチュエーションはいつの時代でも万国共通なんですね……。

また、後半では反抗していたケビンもレシピを片手にキッチンに立つシーンがあります。母の味を自分なりに再現し、当時の母の苦労に思いを馳せる様子にはケビンの成長を感じずにはいられません。

誰かを想いながら料理をして食べる。普遍的な日常を丁寧に切り取って、改めてその意味を考えさせてくれるゲームです。

食と記憶が交差する、静かな余韻が残る物語

暖かくどこか懐かしい雰囲気のアートワークの本作は、祖母から母、母から子へ受け継がれるレシピを通して紡がれる家族の絆が描かれています。

日本語未対応ではありますが、難しい表現などはないので翻訳等を駆使すればプレイに支障はありません。パズル要素も程よい難易度で、ヒントも設定されているためサクサク解き進められる構成です。

この夏の長期休暇、帰省の予定がある方も少なくないでしょう。その前に、このゲームをプレイして故郷や家族との懐かしい思い出に浸ってみるのもいいかもしれません。

〈詳細情報〉

ゲーム名Venba
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格1,750円
リリース日2023年7月31日
最新情報をチェックしよう!
NO IMAGE

お試しスポンサー

面白そうなゲームを見つけたい!
ゲーム探究者『門野まもり』

CTR IMG