何も覚えていなくても、モニターの向こうには誰かがいる。画面越しのSFノベルアドベンチャー 『WATCH▷』

気がつくと見知らぬ部屋にいた。記憶がない。自分が何者でなぜここにいるのかも分からない。

目の前にあるのは一台のモニターだけだ。画面の向こうには世界のどこかで暮らす人物が映し出されている。出口はなく、できるのは画面越しに誰かと話すことだけだった。

WATCH▷』は記憶のない主人公が密室から世界を「見る」SFアドベンチャーだ。

1つのモニターが僕の世界のすべてだった

本作は記憶を失った状態で目覚めた主人公のシロが、部屋の中を探索するところから始まる。

宇宙船の内部を思わせる無機質な空間。どれだけ探しても出口は見つからず、彼はここが完全な密室であることを自分の足で確かめてようやく気づく。

そこで見つけた謎のモニターには、世界各地の住人たちが映し出されており、外の世界と繋がる唯一の通信手段となっていた。この密室空間でシロが唯一できることは、彼らとの会話だけだった。

他人の話が僕自身の手がかりになる

謎の空間に閉じ込められたシロは、モニターに映る住人たちと会話しながら30日間を過ごすことになる。しかし、その目的は脱出の手がかりを探すことだけではない。

本作に登場するキャラクターは何らかの悩みを抱えており、問題の解決を手伝うことも物語の軸となっている。誰と話すかはプレイヤーの自由。会話を重ねるうちに相手の事情が浮き彫りになっていく。

彼ら彼女らの事情は、どれも一筋縄ではいかない。13歳のシャルロッテは、学校に通いながら仕事もこなしている。そうして稼いだお金を母親の病気と、自身の日光アレルギーの治療費に充てているようだ。

太陽の光を避けながら懸命に生きる彼女の話を聞いていると、遠い未来の話とは思えないほど心が動いた。

ほかにも、菓子づくりが盛んな国で製菓学校に通うショウや、脳を電脳化し機械越しに会話するプロデューサー、そのプロデューサーが手がけるサイボーグアイドルユニット「Pixel」など、現実の延長線上にも非日常の外にもいる人物たちが画面を賑わせる。

物語の道先案内役として「魔女」と名乗る人物もいる。ゲームの序盤から定期的に語りかけてくる彼女は、世界のすべてを見通しているようだった。物語を進めるヒントをくれることもあり、その存在が密室の孤独な物語に独特の空気を生んでいる。

自分のことを知るためにまず他者と向き合う。その構造が本作をただの謎解きアドベンチャーにとどまらせない。

二人を繋げば世界が動く

物語が進むと「デュアルモード」が解放される。通常の会話はシロと相手の一対一だが、デュアルモードでは2つのモニターを同時に選択し、キャラクター同士を直接つなぐことができる。シロは会話の相手ではなく、会話の仕掛け人となる。

戦争を愛し、戦いに誇りを持つ犬獣人の戦士ウルリク。製菓学校に通い、スイーツ作りに情熱を注ぐショウ。二人の間には接点など何もないように見えた。

しかしモニターを繋いでみると、そこには思いがけない糸が走っていた。じつはショウには兄がいたのだ。その兄は、戦争で命を落としている。ウルリクとショウの兄が、同じ戦場にいた可能性があった。

戦争を称え戦いを讃えてきたウルリクが、戦争に悲しみや憎しみを抱える人間の存在を知る。画面の向こうで、何かが確かに動いた気がした。

二人を繋いだのはシロだ。その選択がなければ、この会話は生まれなかった。誰と誰を繋ぐか。そこにプレイヤーの意思が宿る。

選んだらもう戻れない

1日は午前と午後のふたつに分かれており、それぞれ1回ずつしか会話はできない。30日間で合計60回。この限られた機会を誰に使うかが常に問われる。

本作はオートセーブを採用しており、一度選んだ相手も話した内容も取り消せない。セーブデータを読み込んでやり直す逃げ道はない。

特に頭を悩ませたのがノアだ。翼と義手を持つ女性の自警団員である彼女には、シロとよく似た知り合いがいるという。その一言が引っかかって、次の会話枠をノアに使うべきか迷い続けた。しかし話したいキャラクターは他にも何人もいる。60回では足りない。

会話の積み重ねは物語の結末にも影響を与える。与えられた時間は全員に平等に有限。それでも重苦しいだけではなく、文化の違いを越えた会話が思わぬ方向へ盛り上がることもある。みんなで宴会をすることになった時は、密室にいる自分をしばらく忘れた。

1日の終わりには、「フードピル」と呼ばれるガチャポンのような仕組みが待っている。

カプセルから食べ物が出てくるのだが、何が出るかはその日のお楽しみ。重い選択を積み重ねた1日の締めくくりとして、このささやかな楽しみがちょうどいい息抜きになっていた。全種類集めたくなるのは、きっと私だけではないはずだ。

モニターを閉じた後も世界は続いていた

物語が終わった後、頭に浮かぶのはキャラクターたちのその後だ。シャルロッテの治療費は集まっただろうか。ウルリクは今日も戦い続けているだろうか。そして、ノアが話していたシロに似た人物とは一体何者だったのか。

それらの答えは、エンディングで明かされる。本作はマルチエンディングを採用しており、30日間の会話の積み重ねによって彼らの結末が変わっていく。ひとつの結末を見た後でも、まだ見ていない彼らの未来が頭をちらつく。

『WATCH▷』は会話だけで成立するゲームだ。派手な演出も激しいアクションもない。それでも、密室の中で交わした言葉の数々は確かに記憶に残り続けた。SF設定と濃い会話劇が好きな人にも、キャラクターの事情に深く入り込みたい人にも届く作品だ。

どの結末に辿り着くかは、あなたの30日間が決める。

〈詳細情報〉

ゲーム名WATCH▷
ジャンル画面越しのSFノベルアドベンチャー
ストア価格350円
リリース日2026年1月9日
こうゆうの編集後記
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