夜明けを待つ列車のなかで『What Comes After』

生きる理由を聞かれて、あなたはなんと答えますか？

日々の忙しさに追われ、積み重なってゆく不安に押しつぶされそうになったとき、なんで生きているんだろうと思うことは誰にでもあるのではないでしょうか。

ちょっと疲れてしまった人に、ぜひ手に取ってほしいゲームをご紹介します。

『コーヒートーク』の作者、モハメド・ファーミ氏が手がけた短編アドベンチャー『What Comes After』は、主人公・ビビが、あの世とこの世を結ぶ列車の中で生きる意味を見つめなおす物語。

頑張りすぎてささくれた心を、ほんの少し軽くする──そんな“夜明けまでの短い旅”へ、さあ出発です。

本記事は日本語対応しているswitch版を元に執筆されています

死者とのやりとりで見えてくる「生きる意味」

多忙な日々に追われ、心身ともに疲れ果てたビビ。仕事帰りの終電でうとうとするうちに、死者をあの世へと運ぶ列車に迷い込んでしまいます。車掌いわく、彼女は死んでいる訳ではないとのこと。

夜明けには現世へ折り返すという列車の中、ただ待つことしかできない彼女。乗り合わせた死者たちと言葉を交わしていく中でとあることに気づきます。ここにあるのは「死の悲劇」ではなく、「生の名残」だと。

未練を抱えた者、死を受け入れた者、愛する人を残してきた者……。彼らの言葉を聞くうちに、ビビは「生きる意味」を見つめなおしていきます。

選択肢による分岐やバッドエンドはなく、一本道の物語が静かに進む本作は、短編映画を観るように穏やかな時間をゆっくりと味わえるゲームです。

優しい筆致で描かれる死生観

この列車には老若男女さまざまな人々が乗っています。長い人生を全うして穏やかに旅立つ老人もいれば、オムツのとれていない赤ん坊も。

悔恨を口にする人、すべてを受け入れて微笑む人。残された家族を案じ、愛する人の無事を祈る者や、現世の人間に対して恨みを抱く者など、語り口も多様。

「迎えた死」を語る彼ら。悲壮感だけでなく、生者では辿り着けない独特の強さと優しさを感じさせます。

死者たちのエピソードは、他人の死を遠くに感じてしまいがちな私たちに、人の数だけ生と死があることはもちろん、そのすべてが本人にとってかけがえのないものであったことを伝えてくれます。

人間だけでなく、すべての命に光を

この列車にいるのは、人間だけではありません。

子猫のエサを探す途中で車に撥ねられた猫、家族に見守られながら静かに息を引き取った老犬。さらには、長い年月を生き抜いた樹木や、人間の都合で手折られた草花たちとも出会います。

猫には猫の後悔があり、老犬には老犬の満足があり、草花にも草花の願いがある。それぞれが、自分なりの思い出と痛み、安らぎを抱いて旅立っていくのです。

彼らの言葉は、「生きているのは人間だけではない」という当たり前の事実を、私たちの胸に静かに突きつけてきます。

死を悲しむことも、受け入れることも、人間だけの特権ではない。多様な命の営みに触れることで、自分の命もまたそのひとつにすぎないのだと、私たちは改めて理解するのでしょう。

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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

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死者との出会いが教えてくれる“生きる理由”

食堂車で“懐かしくてあたたかい料理”を味わい、過去の幸せな記憶を思い出すビビ。そして一匹の猫との交流を通じて、生きることを諦めかけていた彼女の心は静かに動き出します。

「もう一度生きてみよう」と思えたきっかけは、劇的な出来事ではありません。食堂でのひととき、猫が語った切実な願い、死者たちからの言葉。生きる理由は小さなことの積み重ねなのです。

壮大な目的でなくてもいい。日常に散らばっているささやかな幸福や他者との繋がりこそ、「生きる理由」になりうる。徐々に変化していくビビの姿が、私たちに優しい勇気を与えてくれます。

もう一度、生きたいと思えた夜

物語の終盤で列車が現世へと引き返す頃、 プレイヤーの胸には”それぞれの答え”が残るはずです。ビビが見つけた「生きる理由」は彼女だけのもので、あなたが見つけた「生きる理由」もあなただけのもの。

生きる意味を他人にわかってもらえなくてもいい。立派な目標がなくても構わない。人の数だけ生があり、死があり、そして「理由」がある。

生きる理由を聞かれたら、あなたは何と答えますか？

『What Comes After』は、たった一晩の短い旅路でありながら、それぞれの答えを胸に抱いて一歩踏み出す背中を優しく押してくれる、そんな作品です。

〈詳細情報〉

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