自分だけの物語を。「Lorelei and the Laser Eyes」

生まれた時から家にゲーム機はあったけれど、ゲームのおもしろさに気付けたのはだいぶ先のことだ。子どもの頃は身の回りにアクションゲームばかりが氾濫していて、どんくさい自分は全く付いていけなかった。

自分が初めてゲームに夢中になったのが、1990年代中盤に現れた「MYST」や「GADGET」などのアドベンチャーゲームだ。当時は「インタラクティブムービー」と呼称されていたが、概ね共通しているのはちょっと不気味で幻想的なビジュアルと高難度の謎解き。結末が気になってプレイしてしまう謎めいた物語…。

そういう作品に酷くのめり込み、今でも似たようなテイストのものばかり探している。これらと同じ匂いを感じるアドベンチャーゲームと言えば、須田剛一の作品だ。特に「シルバー事件」や「Killer7」、「花と太陽と雨と」などの印象に近い。ちなみに、前述した2作品はsteamからも購入できる。

今回紹介する「Lorelei and the Laser Eyes」の紹介映像を見た時、思わず「須田ゲーじゃん!」と叫んだ。須田剛一が絡んでいるか、そうでなくてもスタッフが須田剛一をとてもリスペクトしているか、そのどちらかだろう。そのくらい「Killer7」のカメラアングルや絵面が似ていると感じた。

蓋を開けてみると須田剛一は全く絡んでおらず(それどころか氏は全く別のインディーゲームを開発中だった)、けれど後者の説を自分は信じている。

のるん
公式によると、初代「バイオハザード」と映画「去年マリエンバートで」を題材にしているらしいけど、51にも影響されてるよね?ね?

何が言いたいかというと、このゲームは間違いなく「自分向け」の作品だとビンビンに感じられた。それは開始直後の一連の演出で、すぐ確信に変わった。

「Lorelei and the Laser Eyes」とは

本作「Lorelei and the Laser Eyes」はスウェーデンのインディーゲームスタジオ・Simogoが開発し、2024年5月16日にAnnapurna Interactiveから発売された正統派の探索型ミステリーアドベンチャーゲームだ。

【steamストア】
https://store.steampowered.com/app/2008920/Lorelei_and_the_Laser_Eye

【任天堂ストア】
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000054303.html

ドイツのホテル「Hotel Letztes Jahr (英:Hotel Last Year)」を舞台に、主人公ローレライの失われた記憶…1963年のとある事件を解き明かす旅が始まる。

登場する固有名詞はラテン語やイタリア語、ドイツ語が入り混じり、一読で意味を理解するのは難しい。辞書を引きつつ、登場人物たちの氏名の「RとL」や「黒と白」の対となる関係、そして「目(視力)」に気をつけて読んでみると、何か共通点が潜んでいることに気づく。また、それぞれが生きた年代や出身国なども見逃さないでほしい。

そして何より、ローレライの深層心理を象徴するような複雑なパズル。予想以上に圧倒的な量で攻めてくる謎解きは、プレイヤーによって答えが異なる徹底ぶり。詰まったらズルをして攻略サイト、という方法はほぼ通用しない。

のるん
解法そのものは同じですが、解き方を理解し自分の手がかりに当てはめて答えを導く必要があります

また、この作品では鍵のかかった扉が大量に現れるものの、解く順番はそこまで厳密に定められていない。自分が最初期に解いた暗号を、他の人は終盤にクリアしていることもある。

よって一部のフラグを除いて、そこまで厳密な「攻略チャート」も存在しない。かなり自由度が高い反面、どこから潰していくか、今の持ち物なら次に何ができるか、という計画を立てにくく混乱しやすい。

さらに、最初から最後まで何度も行き来するホテルの構造が複雑で、とても迷いやすく苦労した。救済措置も特に設けられていないため、途中で詰まってギブアップする可能性があるのも少し残念だ。
(もしかすると、筆者の空間認識能力が著しく乏しいからかもしれない……。)

▲迷路男、もとい頭QRコード男が現れる時はわかっていても怖い

この世界観はかなり人を選ぶので、本来ならば一人でじっくりと物語を考察しながら楽しむことがふさわしいだろう。が、いよいよ行き詰まった時は家族や友人などと一緒に攻略するのも一つの手段かもしれない。

「レーザーアイ」とはなんだったのか(※ネタバレ考察)

作中で、ローレライの目はサングラス越しに何度も赤く妖しく光る。特に現実ではありえないような空間や、超常的な現象に遭遇すると強く発光するようだ。
※ちなみに、ただ光るだけで何かが起こるわけではない。この光を使って解くトリックなども登場しない。

おそらく誰もがこの「レーザーアイ」とは何なのか憶測を巡らせるが、結局「レーザーアイ」について明確な説明はなされないまま物語は終わる。

ここからは筆者の考察、もとい本作から受け取ったメッセージだ。

ネタバレを含む考察(クリックで開く)

クライマックスの「私はすべてをレーザーの目で見届ける」、「レーザーの目なんていうものはむろん存在しない」という相反する台詞。その直後に続く「しかしそれが物語の効果です」という言葉で、この作品の印象が大きく変わった。

ローレライは1963年の事件後、その真相を記憶の奥深くに閉じ込めてきた。そんな人生を清算し決着をつけるため、彼女は「この世の真実を見通す力(=レーザーの目)」という虚構の力を得て、記憶の中の過去に飛び込む。

レンツォが創作した「この世の魔法が見える力(=第三の目)」とつい混同しそうになるが、これら二つは似て非なるもの。「レーザーの目」はローレライがローレライのためだけに考え、編み出したフィクションだからだ。

「レーザーの目」というファンタジーを信じることで彼女は強くなれた。フィクションは時に現実からの逃避にもなれば、現実と向き合うための力にもなれる。

多くの大衆に向けたスペクタクルロマンもあれば、大切な誰かに贈る作品もあるだろう。でも自分が前に進むために作る、自分だけの物語があったっていい。

このゲームは作中で何度も芸術について言及されているため、途中までは芸術論がテーマなのだろうか?と思っていたが、最終的に現れたのは物語やフィクションが持つ力・救いの話だった。

最後に残った謎

最後に、本作にはまだ誰にも見つけられていない秘密が眠っているらしいので、これからも謎解きが続くことがとても楽しみだ。

本作は視覚を取り扱っているにもかかわらず、象徴的な赤色(ピンク色)が色覚異常の人にとって見づらいのではないかとの指摘も見かけた。しかし、それすらも何か意味があるのでは?何か隠されているのでは?と思ってしまう。

「Lorelei and the Laser Eyes」は今後も多くの人にレビューされ、高く評価され続ける作品になるだろう。

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