寂しい少女を寝かせてあげるだけの短編フリーゲーム『孤独なアルファ』

全世界一億人。「あの頃」のフリーゲーム好きの皆さん、こんにちは。

PC向けフリーゲーム勃興期の00年代。何本もの名作を生み出した老舗フリーゲームサークル『ステッパーズステップ』より、2009年に公開されたRPG『孤独なアルファ』の好きなところをひたすらご紹介します。

制作者は一人用カードゲームとして有名な『シェフィ』のゲームデザイナー『ポーン』氏です。

ノンセーブRPG『孤独なアルファ』とは

配布ファイル同梱のReadmeから引用させていただくと、以下のようなゲームです。

【操作方法】
クリックのみです。

【遊び方】
プレイすれば分かっていくようになっています。

【ジャンル】
ノンセーブRPG

配布ファイル同梱のReadmeから引用

この時点では、セーブ不要のRPGであることしかわかりません。

つまり、これがどんなゲームなのかを理解するためには、実際にプレイして確かめるほかありません。

進行方法はクリックのみ。
落ちてくる選択肢を「押す」か、「押さない」か

左上から落下してくるボタン。クリックしそびれると消えてしまう

ゲームを開始すると、ドア越しに覗いたような画面に。陰鬱な様子の少女「アルファ」がこちらを覗いています。文字通り、かなりブルーな表情。

落下してくる【★情報】をクリックすると、以下のようなテキストが表示されました。

プレイヤーは『HP』と『理力』と呼ばれる2つのゲージを持っています。落ちてくるボタンを押した際、理力を消費して「様々なことが実現できる」ようです。

さて、ここでようやくゲームの説明らしいものが出てきました。でも、ちょっと妙な文章です。


◇あなたは北の果てで女の子と対話しています。
◆あなたは南の果てで冒険しています。

◇気が滅入ったらあなたは去ります。
◆HPが0以下になったらあなたは死にます。

◇女の子を寝かせてあげられたらクリアです。
◆ラスボスを倒したらクリアです。


なぜか、情報が二重に重なっています。

気が滅入るようなことを言われると
敵が襲い掛かってくる

アルファのネガティブな拒絶と同時に、画面下部から襲ってくる水牛

画面中央でアルファと会話している最中、下からオレンジ色の文字で敵が襲ってきます。

アルファとの会話と冒険は別の場所で行われており、それぞれ白文字とオレンジ文字で表示されます。

・白文字:北の果てで行われるアルファとの会話
・オレンジ文字:南の果てで行われる冒険テキスト

【★斬撃】は、水牛に対する攻撃のようです

クリックせずに見送ると、突進を受けてHPが減ってしまいました。

直後に【★癒し】が降りてきます

だんだんわかってきた。【★癒し】をクリックするとHPが全回復。先ほど言われた棘のある言葉で滅入った気持ちを、なんとか入れ替えることに成功したのでしょうか。

ツキノワグマの突進とチクチク言葉で死亡

なお、HPが0以下になると、冒険している自分は死亡し、少女と会話していた自分はその場を去ってしまいます。ゲームオーバーになるとタイトル画面に戻り、やり直しに。

このゲームはただのRPGではありません。何もわからない中で遊び方を模索し、目の前の少女と会話するため四苦八苦し、ゲームと少女と距離を縮めていくゲームなんです。

どのボタンをクリックし、どれをスルーするか。スピーディに選択を繰り返し、できるだけアルファとお喋りしましょう。

孤独なアルファと対話を繰り返し、彼女の本心を探る。
ついでにラスボスも倒す

ここで素直に【★退出】を押してしまうと……?

最初はつれない態度で、頑なにこちらを追い返そうとしてくるアルファ。

とはいえ、彼女にもこちらを容易に信用できない理由がありそうです。

対話や、襲ってくるモンスターとの戦闘を繰り返すと、だんだんとこの世界の治安が、あまりよくないといった発言を聞けるようになります。

どうにか会話を続けていくと、やがてアルファのほうも少しずつ、こちらに歩み寄ってくれるように。

飲み物を出してくれたり。

会いに来た理由を考察してくれたり。

花壇のようなものを見せてくれたり。

そして、冒険が佳境に差し掛かると「寝れていない」事情が語られるようになり……

こんな提案まで。

初対面の瞬間とはまるで別人。

……しかし。

こうしてアルファと交友を深めていくうちに。

分からなくなっていきます。

果たして、繰り返される冒険の果てで、孤独な少女アルファが抱える本心にたどり着き、彼女を寝かせてあげることはできるのでしょうか?

プレイ時間は1周1~3分、全エンド回収までは30分~1時間程度。さくっと遊べて、ほどほどに歯ごたえのあるRPG(?)です。

対話と理解/法則性と探索
ゲーム性と物語を絡めたプレイフィール

ここから先は、『孤独なアルファ』というゲームの、特に好きな部分(あるいは、筆者がプレイ中にイメージした妄想)の紹介です。

しばらくまるで関係なさそうな話が続きますが、何卒ご容赦ください。

コミュニケーションとは
試行錯誤である

初対面の人といきなり会話するのは、非常に難しいものです。たった一回会って話すならまだしも、そこから友達になって、何度も一緒に遊ぶような間柄になることは容易ではありません。

天気の話にしろ趣味にしろ、お互いの共通点を模索していく雑談が苦手。いわゆる「コミュ障」の筆者にとってはなおさらです……。

誰もが、初対面の相手に自分をさらけ出したりはしません。最初は、なんらかの一側面を見せあうことになるでしょう。同じコミュニティに居る人、友達の友達、その他もろもろ……。

そういった第一印象、良くも悪くも先入観から、コミュニケーションは始まります。もし、誰かと友達になろうとするならば、なんらかの繋がりを糸口にして、共通点や、お互いに理解し合えるポイント、その法則性を模索するはずです。

人間同士が相互理解するためには、コミュニケーションという名の試行錯誤を繰り返し、お互いの価値観を探り合うしかありません。

試行錯誤とは
ゲームプレイにおける冒険である

『孤独なアルファ』は、プレイヤーに遊び方を明かしてくれません。最初に教えてくれるのは、これが「クリックのみで遊ぶノンセーブRPG」であることだけ。今作に心を開いてもらうには、どうすればクリアできるのかを、自分で試行錯誤して探る必要があります。

南の果てでRPGをプレイし、冒険を進めるために行う「試行錯誤」は、北の果てでアルファと対話し、より深く彼女を知るという「コミュニケーション」と、はっきり連動しています。

つまり今作において、RPGで冒険することは、少女と対話することと同一なのです。故に、ゲームプレイそのものがコミュニケーションに例えられます(あるいは、逆かもしれません)。

ちょっとづつ歩み寄って、ひとつひとつ答え合わせしていく。知らない少女に絆された関係性を、丁寧にゆるめて、ゆっくりほどいて、相手のことを知ろうとする。誰かと意思疎通する過程そのものが、ゲームに落とし込まれているのです。

先入観から始まり、ゲームを知る。
その先に……

長々と書きましたが、これらは、あくまでゲームが見せてくれる表情の一側面に過ぎません。

ここまで読んでいただいた方は、もしかすると『孤独なアルファ』を陰鬱な少女と対話して仲良くなる好感度シミュレーションゲームのように感じたかもしれませんが、実際はそうではありません。

・飛び出してくるモンスターと戦うRPG
・不穏でちょっぴり心温まる少女との対話

この二つは、まったく嘘ではありませんが、まったく真実というわけでもありません。

ほとんどの攻略方法は作中でノーヒント。想像の埒外。だからこそ、地道にひとつずつ、選択肢を検証していくしか、真実にたどり着けない。ミステリーが、あらゆる不可能を潰した先に、唯一潰せなかったものを事実と認めるより他ないように……。

エンディングにたどり着いて、この物語を「良い」と感じたら、もう一回だけ本編を読み返してみることをオススメします。主人公が真実に至るまでに辿った(と思われる)ごくささやかな洞察が、様々なテキストの端々から読み取れるかもしれません。

眠れない夜のお供にしたい、秀作短編フリーゲーム

『孤独なアルファ』は2009年に公開された、かなり昔のフリーゲームです。

実行ファイル形式の配布であるため、セキュリティソフトの警告を受ける可能性があります。ダウンロード及びプレイの際、セキュリティを無効化などする場合は自己責任で。

タイトルで流れるMIDIも名曲です。繰り返しプレイしていると、子守歌のように耳に残ります。眠れない夜は、なかなか素直になれない捻くれ者の少女と一緒に過ごして、孤独な彼女を寝かせてあげましょう!

おしまエンド


◆孤独なアルファ
Copyright (C) 2009 ポーン
動作可能OS
Windowsのみ(Windows XPで動作確認済み)
https://www.vector.co.jp/soft/win95/game/se478754.html

◆サークル「ステッパーズストップ」ウェブサイト
https://stps.jp

◆ポーンさんの新作アナログゲーム(身勝手な宣伝)

最新情報をチェックしよう!