『Dance by the River』発売直前の今だから語りたい『真昼の暗黒』

Summertimeのサイコサスペンス『Dance by the River』がいよいよ発売されるようで、その日をずっと心待ちにしている。

「Dance by the River」のメインビジュアルより引用

『Dance by the River』公式サイト
http://summertimeinblue.net/SOS/

【Steamストアページ】
https://store.steampowered.com/app/2102700/

Summertimeは隷蔵庫さん主催の同人ゲームサークルで、過去作にノベルゲーム『MINDCIRCUS』『真昼の暗黒』『CODA』『ベオグラードメトロの子供たち』など多数の作品が存在する。主に隷蔵庫さん一人でビジュアルやテキストなどの全てを制作されているが、前作『ベオグラードメトロの子供たち』と今作ではコンポーザーに「バーチャルねこ」氏を迎えている。

『Dance by the River』はもともと『Silence of Switchblade』として2022年8月に発表され、2023年末に現在のタイトルに改題。シナリオは以前よりもSF寄りの舞台設定を取り入れてリリースされるそうだ。(その数なんと30万字近く!)

本作は基本的に主人公「手越一誠」の一人称視点によって進行するが、時折ほかの登場人物の視点も挟まれる。このような複数視点を持つ作品と言えば、Summertimeの過去作である『真昼の暗黒』だろう。

今回はその『真昼の暗黒』について紹介したい。

『真昼の暗黒』について

『真昼の暗黒  / Darkness at Noon』公式サイト
http://summertimeinblue.net/mahiru/

【DLリンク】

フリーゲーム夢現https://freegame-mugen.jp/adventure/game_7376.html#google_vignette
ふりーむhttps://www.freem.ne.jp/win/game/18312
ノベルゲームコレクションhttps://novelgame.jp/games/show/1012
※フリーゲームだが、暴力や性表現があるので注意

『真昼の暗黒』は2018年にSummertimeが発表した「血で血を洗うノベルゲーム」。ティラノゲームフェス2018グランプリを受賞した本作は、現在でも「夢現」「ふりーむ」「ノベルゲームコレクション」で公開されている。

2028年の多摩ニュータウンで起こった「昼間うたげ」という女性の失踪事件(殺人事件)について、二つの視点から描かれるサイコサスペンスノベルゲームだ。

二つの視点で語られる内容はそれぞれ微妙に異なり、矛盾を孕んでいる。この作品に「神の視点」は存在しない為、二つの証言のうちどちらが本当で、どちらが嘘。または勘違い、妄想、願望、作られた記憶を語っているのかは永遠にわからない。いわゆる『信頼できない語り手』が二人いるようなものだ。よって「何があったのか?」「犯人は?」「動機は?」などの事件の真相・真実は結局明かされないまま物語の幕は閉じる。「読後感がすっきりしない」という感想もあるだろうが、決して尻切れトンボで終わる訳ではない。

この物語は「事件の解明」ではなく、「その後の人生をどう生きるか・生き抜くか」という事件後の日々の方を主題としているからだ。

自分のプレイ後の感想としては、『真昼の暗黒』というタイトルは虐待や事故・事件をはじめ、平穏な日常に突然現れる悪夢のような不幸を意味しているように感じられた。

本作に登場する二人の主人公、うたげの妹である「昼間ミサ」と事件の担当カウンセラー「暮方計」。彼らは共に少年(少女)期に、突然降って湧いたような不幸の中へ突き落とされる。各々が何らかの形で折り合いを付けてそれを飲み込んだ結果、「異常」な人間が出来上がる。その過程の物語だ。ミサも計も元々は普通の人間だった。ミサについては事件後精神を病むが、普通の人間の範疇だろう。普通の人間だから耐えられずに病む。

人が亡くなった時にどう感じるか。多くの場合、最も早くに経験する身近な死は祖父母の死だと思われる。それに遭遇する年齢は未就学児から中高生まで様々だと思われるが、果たしてその時涙が出てきて大泣きしただろうか。そこで泣けなかった、あまり悲しいと感じられなかった場合、妙な戸惑いや罪悪感を抱いてしまい「自分はおかしいのではないか、冷たい人間なのか」という不安感に酷く支配される。自分含め、周りの友人の間でもそんな経験談が少なからずあった。

ミサの場合も、姉の死(または失踪)を悲しいと受け止められなかった自分にずっと罪悪感を抱き、「自分は異常だ」と思い込みながら生きているように見える。確かに大量の血痕を残して姉が失踪してしまったら、普通は嫌な想像が止まらず生きた心地がしないだろう。ただ、ミサはすぐ警察に通報して保護されたし、おそらくあの血痕を見たのはほんの短い時間で、やがて悪夢で見た光景のように曖昧な記憶になっていったのではないかと思う。

ネタバレを含む感想(クリックで開く)

その後水死体も発見されるが、ミサはそれでも姉の死を実感できていないように見える。加えて計によって姉妹間の不和がことさら強調されるが、思春期の妹と母親役の姉ならそういう局面を迎えるのも至極当然のことだろう。(然程大したこともない状況なのに、ミサ自身は「姉を大事にできなかった」とかなり後ろめたく思っているようだが)。

むしろ姉の死や不在を真正面から受け止めていたら、彼女の心は今以上に壊れてしまっていても不思議ではない。自分を守る為にも、あえて姉の死から目を背け続けて曖昧にしておいたように思える。

計の場合。人間は理不尽な暴力や虐待を受けた時に「自分の受けた行為はおかしくない、普通のことなんだ」と拒否せず受け入れることでなんとか自分を保って生きていけるそうだ(※「合理化」の防衛機制)。彼は生まれついての異常者だったのではなく、あれは虐待サバイバーとして生き抜くうちに身に付けざるを得なかった残酷な防衛反応なのだろうと思った。

※参考文献等を調べましたが、専門家ではなくあくまで素人の意見です

二人のサバイバーが必死に生きる過程を最後まで目を離さず見てほしい。

まとめ

とにかく文字通り「真昼」と「暗黒」を連想させるような暑苦しさと重く暗いストーリー、そして圧倒的なボリューム。最後まで解けない謎と考察合戦。おまけにこれがなんと無料で楽しめる。長編を読むことが苦でない方には、GWにぜひプレイしてほしい。そして『Dance by the River』の発売を待とう!

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