人に寄り添う瞬間って、ありますよね。
でもそれ、人に寄り添わせてるかもしれません。
今作は、そんな気持ちにさせるゲームです。
うつ病は想像以上に質素なもの
「うつ病の部屋」はうつ病が題材のゲームです。
うつ病をテーマにしているので、精神的につらいと感じる人は無理せず閉じてくださいね…
主人公「ムーン」の何気ない日常を追体験しつつ、うつ病患者の視点でゲームが進行。
精神病をサイケデリックな描写で表現する作品が多い中、「うつ病の部屋」は質素で何も変わらない日々をテーマにしています。
だだっ広いトンネルが無限に広がる。
そこに出口は存在しない。
気を抜くと、意味を追いたくなる。
嫌悪感や恐怖で身動きが取れないのではなく、何もないという不安や焦燥感が延々と続く。
うつ病の部屋では、何もできない痛みが忠実に再現されています。
うつ病は、人を変えてくれません。
当たり前がすり抜けて、不甲斐なさだけが残る。
ちょっとづつ、人を弱らせるんです。
ささいな絶望が表現されている
できることができないとき、私は自分に失望します。
簡単だって分かるからこそ、ささいな絶望を感じるんです。
今作は簡単な作業に対して、主人公の視点に立って追体験するシーンがあります。
- 数字を入力する
- ラインの返事をする
- ハンバーガーを食べる
作業と呼べるほど大袈裟なものでもなく、無意識にできる簡単な動作です。
うつ病は関係ない、と思ってしまう。
できない理由にできないからこそ、うつ病って怖いんです。
うつ病の表現に必要なものは、精神的な描写ではありません。
できることが、できなくなるだけでいいんです。
例えば、骨折すると体が自由に動きませんよね。
でも、うつ病って体は動くんです。
動くからこそ、できない自分を認識せざる得ないんです。
小雨って、嫌ですよね。
そのまま無視して歩いてもいいけど、地味にストレスが溜まると思います。
うつ病って、心の中で常に小雨が降ってるんです。
耐えられないストレスって、逃げるべき正当な理由になるじゃないですか。
うつ病のストレスって耐えれちゃうんですよ。
声を出して騒ぐほどでもない、ちょっとした不快感が、ずっと続くんです。
鬱を理解するのではなく撫でる
うつ病は掴みどころのない病です。
知識として鬱を理解することに大した意味はない。
辛いとか苦しいとか、そういう部分ばかり注目されるけど、当事者と他者との認識にズレが起きる。
たぶん、お互いが感じている痛みは違っていて、これがもし同じだったら、鬱はそれほど辛い物ではないと思う。
鬱はつまらないものだ。
じめっとしてて、感情を殺せば耐えれてしまって、再現がむずかしい。
我慢できるストレスがずっと続いて、耐えることに慣れて、これが普通なんだって錯覚して、脱出しようともがいて、気づかぬうちに疲弊して。
今作は、うつ病を理解するものではないと思う。
鬱そのものを、撫でてあげる作品。
そんな気がしました。
他人の痛みに触れたい方は是非
「うつ病の部屋」は約1時間で終わるゲームです。
今作は刺激のないゲームです。
でも、遊ぶ価値はあると思います。
わたしは、とっても好きです。
太鼓判を押すわけではありません。
ですが、遊んでほしいなって思える作品でした。