「ゲームは文化」と聞いたことがある。確かにそうかもしれない。でも文化ってなんだろう。なんとなく分かるけど、ちゃんと分かっていない気がする。

「文化庁メディア芸術祭アート賞」の受賞歴を持つ『マキビシコミック』のリマスター版が、17年の時を経て発表された。なんか良く分からないけど、なんとなくクリエイティブ的なものを感じる作品だった。

筆者はリアルタイムで遊んだ人間ではない。語るに足りない人間かもしれない。でも一目惚れしてしまった。この記事では、筆者の感じた『マキビシコミック』の魅力を紹介させて欲しい。

※この記事は製品リリース前のプロト版を試遊して執筆しています

仕掛けを楽しむ粋なクリック&アドベンチャー

▲シノビは基本的に戦わないのだ

今作は5人の忍者を探すクリック&アドベンチャー作品だ。ゲーム性は至ってシンプル。仕掛けに触れてギミックを起動させ、コミカルな挙動を楽しみながら忍者を探していく。ストーリー動かすためにクリックするのではなく、仕掛けを眺めるために起動させたくなる肌触りが魅力だ。

▼これがウワサの瞬獄猿▼

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ポイント&クリックのゲーム性がストーリーの駆動装置ではなく、まるで動く絵本のように機能している。例えるならピタゴラスイッチ。好奇心に身を任せてギミックに触れる一連の手さぐり感がなんとも心地よい。

今作は理不尽だと思う。隠れた忍者を探したいけどノーヒント。でもそこが良い。ゲームを進めたいんじゃなくて、予想も付かない仕掛けを見たいから。理不尽だからこそ、怒って、笑えて、楽しめる。

マキビシコミックは発売当時の時代を感じる空気感が残っている。理不尽だけど茶目っ気があって、コンテンツに対する敬意があって、肝の据わった作品ならではの胆力に見惚れてしまった。

なんだかんだでデザインがやっぱり凄い

▲ケツから兵士を生み出すガスマスクベイビー

ギミックの挙動が面白いのはもちろん、根底を支えているのは画力だと思う。グラフィック担当者の「コレ面白ぇ…」がそのまま描かれている。頭の中どうなってるのか知りたい。

そもそも、世の中に存在しないキャラなのに解像度が高い。絵の上手さはもちろん、絵が強い。実は遥か昔から存在していたようなオーパーツ味がある。まぁこれは遊べば分かると思う。

▲圧が凄くて世界観が完成されている

自分の心が惹かれる概念をハッキリ言語化しないと存在感を放つキャラは作れない。グラフィック担当の方は芸術に対する感度が高いだけでなく、ニンジャと愚直に向き合ったんだろうなと感じた。

マキビシコミックのアートワークは『面白い』がハッキリしている。他人の美的感覚に触れつつも、キャラクターの筆圧を感じ取れる作品はそう多くはない。古い作品だろうがなんだろうが、良いものは時代を耐え抜くと教えてくれるだろう。

芸術って何なんだろうか

独創的な作品に触ると、芸術やアートといったそれっぽい言葉を使いたくなる。自分自身、創作畑の人間ではないし、何かを作れる人を常に羨んでいる。何だよ芸術って。何だよクリエイティブって。

先日、友人にこんなことを言われた。

「私は絵を書いて表現できるけど言葉にするのが苦手。アナタは絵を描くのが苦手かもしれないけど、言葉を使って表現できる。結局、同じですよ。」

そこで気付いた。他人が思い付かない創作をするのが芸術やアートではない。自分の頭ですくすく育った妄想を、他人の目に晒すのがアートなんだと。

▲勢いが凄い

マキビシコミックはやりたいことの解像度が高くて、作り手が持つ脳内の再現性も高い。だからこそ芸術性も高い。何が好きでどんな人柄なのか、作品を通じて人そのものが伝わってくる。このゲームは名作のオマージュだけではない。

個性と文化が混ざり合って、見たことのない新しい作品が完成している。芸術という言葉を正しく捉えられているか分からないけど、今作はアートのど真ん中を歩いているように見えた。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


クリエイティブは生きた証の積み重ね

▲これはマキ・ロボだから…

創造そのものに善意や悪意はない。面白そうと思ったから作る。マキビシコミック開発者の『熊沢氏』は、「ウケそうだからドラえもんパクったろ」なんて微塵も思ってないだろう。自分を育ててくれた文化に敬意を払い、貪り食って自分の血肉にしている。

常識の服を破り捨てて、柔い部分が剥き出しになったとき、ビビらず堂々としている作品には一本の芯が通る。マキビシコミックってなんか凄いんだけど良く分からなくて、表現がデコボコしてるのに潔くて、あの感じが格好良いんだよね。

冒頭で軽く触れたとおり、マキビシコミックは第11回文化庁メディア芸術祭のアート部門にて『審査員推薦賞』を受賞している。とはいえ、見た目が独創的で心が突き動いたから賞を取ったわけでもないだろう。

文化は他人と自分を繋ぐ接着剤だ。私たちは、誰かの文化に自分を組み込むことで自分を継承している。本作には「あの時の俺たちが好きだったもの」が残っていて、遊んでいて当時の残り香を微かに感じた。

盲目的に楽しめる作品ではないかも知れない。でも間違いなく、熊沢氏が心から面白いと感じた作品がそこにある。アートってそういうものなんだと思う。というか、そうであって欲しい。

嘘をつかない創作は美しい

マキビシコミックは開発者の妄想した面白いが詰まっている。嘘を付かずに走り抜いたからこそ、媚びや打算の淀みがない。だから美しい。

遊ぶ理由は何でも良いんです。ゲーム内容が面白そうとか、見た目が独創的で触ってみたいとか、それこそ何となくでも良い。難しい理屈とかそういうの抜きにして、気になったら触って欲しい。

そして願わくば、第二、第三のマキビシコミックが作られて、この世界観を文化として引き継いでくれる人が登場してくれたら嬉しい。そんなことを思いながら、本稿を締めさせて頂きます。

▼公式トレーラー▼

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