種と共に歩む不条理な植物の国『Slay the Alice』

Slay the Alice』は植物たちの国に迷い込んだアリスが、体内に宿った「種」と共に脱出を目指す短編ビジュアルノベルだ。草花に水をあげている彼女の前に、突如として「うさぎ」が飛び出す。まるで童話のようなその姿を追いかけ、穴に落ちた瞬間、彼女は謎の種を飲み込んでしまう。

気がつけば、絵本のようにポップで不穏な世界が広がっていた。体の中から語りかけてくる種は時に頼もしく、時に不気味な相棒となる。マウス一つで進む30分の冒険が、静かにプレイヤーを待っている。

穴に落ちて始まる奇妙な共生関係

物語は穏やかな日常から始まる。アリスが家で草花に水をあげていると、その中から突然白いうさぎが飛び出してきた。驚くアリスの前でうさぎは穴へと消えていく。慌てて追いかけた先で足を滑らせ、アリスもまた穴の中へ。落下の最中、偶然口に入ってしまった種が、この物語のもう一人の主人公となる。

誰もが知る『不思議の国のアリス』を彷彿とさせる導入だが、たどり着いた先は原作とは異なる独自の世界だ。植物たちの国と呼ばれるその場所で、アリスは体内の種と対話しながら帰り道を探すことになる。

種には意識があり、アリスの体の中から語りかけてくる。姿形はないが会話を通じてその存在感は確かに感じられる。右も左もわからない異世界で、種はアリスを引っ張ってくれるような頼もしい存在だ。しかし完全に信用していいのか、その疑念も拭えない。

目指すは女王が住む城

最初に目を引いたのは、ドット絵の美しさだった。アリスの表情が豊かで、驚いたり困ったりする様子が細やかに描かれている。静止画ではなく、常に息づいているような印象を受けた。この丁寧な描写が、30分という短い時間でも没入感を高めてくれる。

またゲームシステムもシンプルだ。樹形図のようなマップ上を進んで女王の城を目指す。操作はマウスのみで完結し、複雑な謎解きやアクション要素は一切ない。クリックで選択肢を選び、物語を読み進めていく。まるで絵本をめくる感覚でプレイできた。

各マスにはイベントが配置されており、そこでは花を回収できる。5つ集めると花束にもなり、この花束の扱いが物語の分岐に関わってくる。どのマスを進み花を集めるのか、プレイヤーの選択が結末を左右する。

ハートの女王がもたらす不条理

ハートの女王は、本作における最大の脅威だ。生首を好み大きなハサミを手にした彼女は、話の通じる相手ではなかった。花束を渡しても助けてくれず、渡さなくても結局アリスは殺されてしまう。この不条理さが、植物の国の恐ろしさを象徴している。

結果的にアリスが取れる選択は、花束を投げて女王の気をそらし逃げることだけ。理不尽な暴力の前では、知恵と機転で生き延びるしかない。箱を開けたら生首がこちらを見つめてくるシーンには、思わずぎょっとさせられた。

ビジュアルは絵本のようなポップなタッチで仕上がっているが、その可愛らしさの中に不穏な要素が潜んでいる。画面が赤く染まる演出もあるが、グロテスクな表現は控えめで、直接的すぎない絶妙なバランスだった。色使いも巧みで、危険な森に入る場面ではパステルな紫色が画面を覆い、不気味さを演出していた。


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4つの結末が示す種との関係性

本作には4種類のエンディングと、おまけが1つ用意されている。それぞれの結末は、アリスと種の関係性を異なる角度から描き出していた。

「本能」と名付けられたエンディングは、その名の通り生き物としての本能的な選択が描かれる。種にとってもアリスにとっても、それぞれの生存本能がぶつかり合う結末だ。タイトルにもなっている「Slay」の意味が明らかになる瞬間は、プレイヤーに衝撃を与えるだろう。

周回プレイを重ねて全てのエンディングを見たが、どのルートもどこか切なさが残った。明確なハッピーエンドは限られており、基本的には悲しい結末が待ち受けている。アリスと種が互いに依存しながらも、願った通りにならない二人の関係が物語の核心にある。

物語の鍵を握るのはハートの女王によって針を取られた時計の存在だ。この時計のせいでアリスは殺されても時が巻き戻り、同じ運命を繰り返すことになっていた。ループ構造が、複数のエンディングを体験できる理由にもなっている。

30分で体験する密度の濃い悪夢

1周のプレイ時間は約15〜30分。全エンディングを回収しても1時間程度だが、その短さが逆に印象を強くしている。周回も苦にならず別のエリアが解放されるなど新鮮さが続いた。

プレイを終えて最も印象に残ったのは、共生関係の難しさだった。種はアリスを助けてくれる存在でありながら、状況によっては脅威にもなりうる。この微妙な距離感が、物語全体に緊張感を与えていた。

夢と現実の境界の恐ろしさも心に残った。植物の世界での出来事が現実にも影響を及ぼし、夢だと思っていたことが現実を侵食する。その不気味さがプレイ後も頭から離れない。

『Slay the Alice』は、絵本のような可愛らしさと不穏な空気感が同居する、記憶に残る一作だった。短編ながらも密度が濃く、風呂敷を広げすぎずに30分という時間の中で描ける物語を丁寧に紡いでいる。ドット絵の雰囲気が気に入った人や、ちょっとした隙間時間に濃密な体験を求める人には、ぜひ手に取ってほしい。植物の国のハートの女王は、今も静かに手招きしている。

〈詳細情報〉

ゲーム名Slay the Alice
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格980円
リリース日2025年1月17日

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