未来を描いた作品と聞いて、あなたはどんな世界を想像するだろうか。宇宙を駆ける大冒険、高性能なアンドロイドとの共同生活、空飛ぶ車にタイムマシン……。
日々加速する技術のおかげで、未来はきっと賑やかに発展していくだろう。しかし、人の手に負えないほど進歩してしまった技術は、いつか未来を食いつぶしてしまうかもしれない。
『地底調査船に響く孤独』は、発達した文明で栄華を極めたあとに残った焼け野が原のような未来を舞台にした短編ノベルゲームだ。無人の地底調査船内で目を覚ました記憶喪失の主人公を操作し、記憶を辿りながら事件の真相に迫っていく。
息が詰まる閉鎖空間で少しずつ明らかになる悲劇と、失われた日常。ディストピア的な設定を背景に、記憶を巡る物語が静かに展開していく構成となっている。本記事では、作品の概要や特徴に触れながら、その魅力を紹介していく。
静寂の船内、手がかりは残響だけ

舞台は、地底世界を探検するために造られた調査船。その船内で目を覚ました主人公は記憶を失っており、ここで何が起きたのか、なぜ誰もいないのか、ことの経緯をまったく思い出せない。残されているのは壊れた観測装置や端末、そして日常の痕跡だけ。
プレイヤーは船内を探索し、各所にあるオブジェクトを手掛かりに主人公の記憶を掘り起こしていく。その過程で、船に乗っていた仲間たちや、地底世界で続く危険な調査、そして乗員を襲った「地底病」と呼ばれる謎の病が引き起こした惨劇の輪郭が浮かび上がる。
1周およそ30分、分岐は1か所で探索ポイントも明快だ。迷うことなく進められるので、手軽にこの惨劇を追体験できるだろう。
文明が行き着いたのは光無き地底

本作の魅力は、衰退の気配が漂うディストピア的なSF描写だ。
地底に眠る高エネルギー鉱物を発掘するため、地底調査船という技術が当たり前に運用されている遥か未来。深度が増すほど鉱物の純度は上がるため、人類はより深部への到達を目指しているが、地底は深ければ深いほど人体に深刻な影響を及ぼすという。
過酷な環境に耐えられる体力を有した若者が乗員として選ばれるものの、それでも地底病は避けられず、後遺症を抱える者や命を落とす者も少なくない。
若者の未来を犠牲にして延命を図る社会像に鬱屈としてくるが、作中の若き乗員たちにとってはそんな社会でも大切な家族と生きられるという希望があるのだろう。地上で待つ母や弟のため、高給を稼ぐべく危険を承知で地底調査船での発掘作業に従事している。
発展した技術で未開の領域を切り拓いているにもかかわらず、そこにあるのは希望ではなく、ゆるやかに沈んでいく社会の気配。進歩の影で人々が削られていく悲壮感と諦観が、物語を支える骨格になっている。
穏やかな回想が映し出す絶望

本作は無人の船内を探索しながら、記憶のかけらを集めることで事件の真相に迫ってゆく。特定のオブジェクトに触れることで回想シーンに突入するのだが、この演出が心に刺さった。
静謐さと緊張感で満ちた無人の船内が、低彩度の赤と青を基調としたドット絵で描かれる。しかし回想の中では、明るい音楽とともに仲間たちとの軽やかな会話を通して日常が映し出されていく。
「地底携帯食がおいしくない」だの、「配管が多くて室内が冷えがちだからシャワーの後が寒い」だの、会話の内容はいたって日常的。しかしひとたび回想シーンが終わると、また温度感のない船内に漂う孤独と緊張感が押し寄せてくるのである。
現実と記憶のギャップにより、「もしかして、この何気ない日常は二度と戻らないのでは……?」という予感が、じわじわと恐怖とともに忍び寄ってくるのだ。
演出は派手ではないが、だからこそ静寂の中で自分の鼓動が聞こえるように、感情の揺れが際立つ。短いプレイ時間の中でも物語に強く引き付けられる理由は、この対比の巧みさにあるのではないだろうか。
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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

真相が近づくほど、遠のいていく希望

物語が進むにつれ、拾い集めた記憶のピースが繋がり、調査船で起きた出来事や仲間たちの想いが明らかになっていく。知れば知るほどに互いや家族を気遣う人間味あふれる乗員たちに情が湧くが、それと同時に彼らの平穏を脅かした地底病の恐ろしさもその全貌をあらわにする。真相に近づくほど、「この先に希望なんてないのでは……」という絶望も迫ってくるのだ。
それでも、真実を知らずにはいられないのがプレイヤーのサガである。我々はこの先に希望などないと気付きながらも、自ら終わりのない絶望に向かって駒を進めてしまう。物語は派手な演出に頼らず淡々と進む。終始徹底した穏やかさが、“抗いようのない完成された絶望”であると語りかけてくるのである。
結末は決して明るくないどころか、個人的に「自分の身に起こったらマジで気が狂うバッドエンドTOP3」に入るんじゃないかというくらいイヤな結末だったが、この救いのなさを作品としての美しさに昇華している点が本作の大きな魅力であることは間違いない。
聴け、地底で静かに木霊する孤独を

『地底調査船に響く孤独』は、回想と現在の対比による切なさ、淡い色調のイラストが描き出す静かな緊張感、そして記憶を巡る物語が調和した独特のSF体験が魅力の作品だ。
繰り返しになるが、この作品に救いはない。ただひたすら絶望に向かって一本道を進むしかなく、どう足搔いてもハッピーエンドには辿り着けない。
逆境に抗う姿は美しいが、相手が圧倒的であるほど足搔くことで心身は摩耗する。正直言って戦うことを諦めたい瞬間もあるだろう。そんな時、本作のような「抗いようのない結末」が逆説的に救いになることもあるのではないか、と個人的には思う。
ディストピア的な未来像に惹かれる人はもちろん、自身の矜持や世界の命運を守るために抗うことに疲れた人にもおすすめだ。1周約30分という短いプレイ時間でありながら、深く沈んだ地底で確かに聞いた孤独の残響がプレイ後も胸に残る作品である。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | 地底調査船に響く孤独 |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 無料 |
| リリース日 | 2025/09/12 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

