0階:なかまを集めて
赤のフリクションペンとExcelで作った方眼紙を持ってまずたどり着いたのは、中央にたき火のあるがらんとした拠点。
私をここに連れて来た者は「まずはそこで仲間を集めろ」と言った。
アイドルの握手会のごとく次から次へと現れる冒険者の中から、攻撃力の高そうなロードと槍使い、見た目が良かった王子、魔法が使える魔術師の4人をとりあえず勘で選ぶ。
拠点には他のNPCも数人いたが、キャラクターを除外してくれるヤツ以外は当たり障りのない会話をするだけだった。

装備品はおろか回復アイテムすらも存在しないこの世界では他にすることもなく、早々にダンジョンへと進むことにした。
地下1階:ようこそダンジョン
比較的硬派なゲームデザインの本作だが、数多のダンジョンをクリアしてきた私は「まぁ、いけるっしょ」と軽い気持ちで地下2階への階段の捜索を開始。
結果、ダンジョン突入数分後にゾンビの大群に襲われ、魔術師が帰らぬ人となった。

この時知ったのだが、このゲームにはダンジョンRPGでは当たり前とされる『前衛と後衛』という概念がないのだ。
「お前らこの狭い通路を横一列で歩いてるのか?」というツッコミをぐっと抑え、一時たき火へ戻る。
再び魔術師を加え、今度は戦闘を慎重に行いながら進むことにした。
最初は面倒かと思われた方眼紙マッピングはパズルを組み立てるような楽しさがあり、無意識にペンが走っている。
現在地の座標だけはゲーム中で教えてくれるので、自作マップも相まって迷うことなく順調に1階の探索を終わらせた。
地下2階:牙をむいたマップ
地下2階は1階とグラフィックの色味が違うくらいで、特に変化は見られなかった。
そう思ったのは最初だけで、扉一枚を開けて状況は一変。
振り返っても今通った扉が見当たらない、いわゆる一方通行というやつだ。

一方通行は思ったより厄介で、否が応でも前に進まないといけなくなる。
幸い回復はその場で休めばよく、店も無いので拠点に戻る必要がないのがせめてもの救いだった。
だがここで問題が発生。
我がパーティの紙装甲魔術師が、また帰らぬ人となってしまったのだ。まだ2階の半分も踏破していない状態で1人減ったのは非常にマズい。
一方通行のせいで帰り道が全く分からず、拠点で仲間を補充することもできない。このまま進めば3人で3階へ行ってしまう。いやそもそも3階に行けるのだろうか?
いっそ全滅して戻るか?いや、それでは今まで育てたスキルが失われてしまう。
そんなことを頭でループしながら探索していると、突然救いの手が差し伸べられた。特殊イベントが発生し、2階を探索していた王子を仲間にするチャンスが到来。
だがしかし、王子は既にパーティにいる。
王子が2人…。
少女漫画なら両目がハートになるようなシチュエーションなのだが、RPGにおいて同じ職業を2人そろえることはあまりない。
しかしこの苦しい現状を考えると、仲間は1人でも多い方がありがたいので申し出を受けた。
新王子の参加もあり、何とか敵と渡り合えるようになった我々は無事2階を踏破。
ついでに1階へ戻る階段もマップを書き間違えていただけで、無事発見できた。
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地下3階:お払い箱を考えてみる
3階になるとモンスターも強くなり、一方通行に加えて通り抜けられる壁や固定位置で現れる強敵が出現。ダンジョンの探索はかなり厳しくなってきた。
今まで戦闘はオートで行っていたのであまり気づかなったが、よく見ると敵によってダメージが少ないキャラと多いキャラがいることに気づく。
ここで説明書を読み返してみると、攻撃の種類には『斬撃、貫通、鈍器』の3種類があり、敵によって弱点があるとのこと。
我がパーティを振り返り、ロード以外は貫通攻撃ということが分かった。これでは勝てないと思い、構成を見直す。
まずは少女漫画の打ち切りを開始した。
このゲームにおける王子は能力が平均的な『器用貧乏』タイプだったため、2人とも除名。
魔法は欲しいが紙装甲はこりごりなので、魔法職でも耐久力の高い司祭、パーティにいなかった鈍器タイプの攻撃を持つ格闘家を加え、バランスの強化を図った。
<パーティの移り変わり>
キャラクター(職業) | 武器 | 攻撃属性 |
ロード | 剣 | 斬撃 |
王子(除名) →格闘家 | 突剣 →拳 | 貫通 →鈍器 |
槍使い | 槍 | 貫通 |
王子(除名) →司祭 | 突剣 →杖 | 貫通 →鈍器、魔法(回復、攻撃、補助) |

新たに加えた仲間は、能力こそ高いがスキルは覚えていない。
だが、敵が強いとそれだけスキルも早く覚えるらしく、3階を踏破する頃には十分戦力になっていた。
地下4階:快進撃
ダンジョンも後半に差し掛かり、他のダンジョンRPGではワープや自動で進む床などが登場してくるタイミング。
しかし手動で記入することを考慮したのか、特にそういうギミックはなく順調に足を進めることができた。
特に敵に困ることはなかったが、時折現れるサキュバスに執拗に陰部を蹴り上げられ、魔王を倒すころには全員女性になってるのではないかと心配になった。

仲間も順調に育ち、次々に強力なスキルを覚え、4階の敵も難なく葬れるようになる。
私は意気揚々と魔王の待つ5階へと足を勧めた。
地下5階:終わりと始まる終わり
いよいよ魔王のいる5階へと足を踏み入れたわけだが、早速魔王の洗礼を受けた。なんとこの階層、現在地の座標が確認できなくなっていたのだ。
これでは迷った時に自分の位置や方角が分からず戻れなくなる。ヘンゼルとグレーテルのようにパンくずを撒きながら進むわけにもいかず、とにかく慎重にマッピングを続けた。

慎重にマッピングをしていたつもりだったのだが、早速問題が発生。マップは縦横20マスで座標は0〜19の数値で表されるのだが、このままでは座標がマイナスになってしまうのだ。
泣く泣く5分の1くらい記入していたマップを全て消し、再度はじめからマップを見直し。階段から降りた直後の方角が、最初から間違っていたようだ。
ものの見事に罠にハマり、魔王、いや開発者の思惑どおりになってしまった。道中、魔王に敗れ眷属と化した英雄に襲われたりしながらも、何とか魔王の前までたどり着く。
負けるとまた1から仲間を集め、スキルを上げないといけないと思うと、他のゲームと違ってかなり緊張感を感じた。
魔王は単体で1回行動なのだが耐久値と攻撃力が非常に高く、戦いはまさに総力戦。激戦の末、なんとか魔王を倒すことができたが、魔法で大いに活躍してくれた司祭を失ってしまった。
勝利した彼らは、なんと40日間も世界中の酒場で勝利を祝っていたらしい。少しは司祭の事を思い出してやれ。

彼らはその後、夢に現れた大天使に「魔王は復活する。ヤツの呪いで眷属になる前に私のもとへ来るのだ」と誘われて、大天使と共に去っていった。
世界に平和が戻ったのだ。
エピローグ
世界に平和が戻り数十年、スタッフスクロールもないまま目覚めた私は、気が付けば魔王レイナードとなり甦っていた。
どうやら今度は地下5階から地上へ出る必要があるようだ。
地上に出るのに何も困ることはない、私にはこのマップがあるのだから。