サイケデリック×文学的哲学アドベンチャー『ケイブフィクション』

ケイブフィクション』は、プラトンの「洞窟の寓話」を題材にした哲学的テキストアドベンチャーだ。夢と現実を行き来する4つの章で構成され、主人公は自分が見ている世界が本物なのか疑い始める。恋愛や裏切りを含む物語は、プレイヤーの選択によって複数のエンディングへと分岐していく。

しかし物語を進めるうちに、画面の出来事がゲームなのか何か別の意味を持つのか、分からなくなってくる。フルスクリーン非対応の仕様さえも「仮想と現実の関係を尊重するため」という開発者の意図が込められている。夢と現実の狭間を彷徨う哲学的冒険、サイケデリックな色彩と文学的な語りによって、あなたは未知の思考世界へと誘われるだろう。

文学的でありながら難解な物語世界

最初にこのゲームを起動した時、まず目を奪われたのは幻影のような極彩色とオシャレなキャラクターデザインだった。レトロな雰囲気を残しながらも、独特の美的センスが光る。そして始まった物語は、予想以上に文学的で哲学的だった。

今作は全編を通して良い意味で難解な文章構成になっている。単純に物語を追うだけでなく行間を読み、メタファーを解釈し、哲学的な問いかけと向き合う必要がある。決して万人向けではないかもしれない。でも文学や哲学が好きな人には理想的な体験だろう。

会話の一つ一つが哲学に沿っていて、直感的に「好きだな」と感じた。キャラクター同士の対話は、表面的には日常会話のようでいて、その裏には深い意味が込められている。プラトンの思想を知らなくても楽しめるが、知識があればより深く味わえる。この絶妙なバランスこそが、本作の大きな魅力となっている。

いつが夢で、いつが現実なのか

正直に告白すると、プレイし終わった今でも作中のどこまでが現実でどこからが夢なのか、完璧には理解できていない。むしろそれが魅力なのだろう。

今作は4つの章を通じて、1つの出来事が異なる視点から語られる。ある章では主人公が恋人と幸せに付き合っているのに、別の章では浮気をしていたり、裏切られていたり。これらすべてが並行世界なのか、それとも誰かの妄想なのか。答えは提示されない。

特に混乱したのは、夢の中で「これは夢だ」と気づいた主人公が目覚めた先が、また別の夢だった場面。入れ子構造になった夢の層を行き来するうちに、私自身も何が本当なのか分からなくなってくる。この不安定な感覚こそ、開発者の意図した体験なのだろう。

視覚的にも楽しめる恋路が絡んでいるのも面白い。哲学的なテーマを扱いながら、恋愛ゲームとしての要素も入っている。重いテーマの中に軽やかさも感じられる不思議なバランスだった。

サイケデリックな色合いと哲学の融合

このゲームの美術面は本当に素晴らしい。サイケデリックな色使いは、夢と現実の境界が曖昧な世界観を完璧に表現している。原色が混ざり合い、形が歪み、現実離れした空間が広がる。

キャラクターデザインも独特だ。シンプルな背景とは別のタッチで描き込まれており、よく見ると細部にこだわりが感じられる。特に「天使ちゃん」のデザインはアニメ調で非常に自分好みだ。

フルスクリーン非対応仕様も不便に感じたが、steamストアの説明を見て意図が理解できた。ウィンドウの外側に現実世界が見えることで、「これはゲームだ」という意識を保ちつつ物語に没入する。この矛盾した感覚が、洞窟の寓話のテーマとぴったり重なる。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


現代社会への警鐘としての洞窟の寓話

恥ずかしながら、プラトンの洞窟の寓話については今作で初めて知った。調べてみると、紀元前の哲学が現代の情報社会の問題にも当てはまることに驚いた。

SNSのエコーチェンバーやフェイクニュース。私たちは自分が見たい情報だけを見て、それを真実だと信じている。まさに洞窟の中で影を見ている囚人たちと同じではないか。このゲームをプレイして新たな知見と価値観を得られた。

ゲーム内で主人公が経験する混乱は、現代を生きる私たちの混乱でもある。何が真実で何が嘘なのか、誰を信じればいいのか。答えのない問いに向き合い続けることの大切さを、このゲームは教えてくれる。

哲学書を読んだようなプレイ後感

『ケイブフィクション』は、ゲームの形を取った哲学書だ。プレイヤーに答えを与えるのではなく、問いを投げかけ続ける。その問いは、ゲームを終えた後も心の中で響き続ける。

文学や哲学が好きな人には強くお勧めしたい。難解さを楽しめる人、答えのない問いと向き合える人にとって、これは忘れられない体験になるだろう。もしくは、キャラデザインやビビッドな色を使った世界観が気に入った人にもおすすめしたい。

このゲームが投げかける「あなたが見ている世界は本物か?」という問いは、画面を閉じた後も消えることはない。洞窟の外に出たと思った瞬間、それがまた別の洞窟だったことに気づく。その繰り返しの中で、私たちは少しずつ真実に近づいていくのかもしれない。

〈詳細情報〉

ゲーム名ケイブフィクション
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格620円
リリース日2023年7月16日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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