真相までノンストップ!海底列車で起こる殺人事件を追うビジュアルノベル『マリンエクスプレス殺人事件』

マリンエクスプレス殺人事件』に“ゲームらしい手応え”を期待すると戸惑うかもしれない。本作はミステリーを主軸にしたゲームだが探索要素はない。選択肢もない。プレイヤーが事件を解決に導くこともない。

それでも、エンディングまで辿り着くと不思議な満足感が残る。一本のミステリー小説を読み切ったあとに感じる、あの少し重たい疲労と、「最後まで付き合ってよかった」という達成感のような、あの感覚。

本作は選択肢を選ぶよりも、事件を見届ける読書的な印象を受けた。この記事では、そんな『マリンエクスプレス殺人事件』がどのようなプレイフィールを持つ作品なのか、実際の体験をもとに紹介していく。

日本人とスウェーデン人の女子校生バディが名推理と軽快トークで事件に挑む

『マリンエクスプレス殺人事件』は、海底を走る豪華列車「マリンエクスプレス」を舞台にしたミステリーノベルゲームだ。

名門校に通う17歳の少女・東川乱子は修学旅行でこの列車に乗り込むが、道中で殺人事件が発生。友人のアストリッドと共に、逃げ場のない列車内で起こった事件の行方を追っていくことになる。

舞台設定はミステリーゲームとしておなじみの構図。

しかし、ADVという前提を踏まえたうえでの特徴として、プレイヤーが事件に介入しない点が挙げられる。選択肢による分岐はなく、探索パートも存在しない。遊び手に求められるのは、推理力でも判断力でもなく、テキストを読んで物語を見届けることだけだ。

本作は「ミステリーノベル」というより、推理小説の読書体験をゲームという形式で再構成した作品と捉えたほうが近いだろう。

なお、本作は2021年にリリースされ、のちに『The Seven Bad Apples』、『The Girl Who Wasn’t There』へと展開していく「東川乱子ミステリーシリーズ」の第1作にあたる。

操作から解放され、物語に集中するミステリー体験

本作の事件は淡々と進み、登場人物たちが交わす会話と行動をひたすら追っていく構造になっている。この設計だけを見ると、「それで退屈にならないのか?」と感じる人もいるだろう。

それでも本作を最後まで読み切れるのは、キャラクターと会話表現の強さがあるからだ。

デフォルメの効いた登場人物たちは、日本のアニメやネット文化を下敷きにした軽快なテンポでやり取りを交わす。事件の重さを引きずりすぎず、しかし軽くなりすぎることもない、そのバランスが絶妙だ。

操作や探索に気を取られない分、プレイヤーは純粋に「次の一文」を追いかけることに集中できる。自分が物語を動かすのではなく、物語の流れに身を委ねる感覚が本作の大きな魅力を支えている。

なんJ民から「犯人はヤス」まで、ネタ文脈満載で紡がれる陰鬱な真実

本作を手掛けた1564 Studioは、スペインを拠点とするデベロッパーである。

しかし「え? これ日本で作られたゲームじゃないんだ?」と、何度も1564 Studioの所在地を疑いたくなるほど、作中で展開される会話には馴染みのあるネタとテンションが多分に盛り込まれているのだ。

殺人事件に怯える生徒たちが犯人の正体について口々に言及するシーンで「犯人はヤス!」と往年のボケをかましてくる生徒がいたかと思えば(さらに「半世紀前のネタやめろ」と見事なツッコミまでセットなのだから驚きである)、なんJ語が紛れ込むシーンも見受けられる。鉄板のネタから「わかる人だけを確実に刺しにくる」ネタまで、とにかく手数が多いのだ。「

本章では、画像を交えながらその印象的な会話表現を紹介するとともに、本作ならではのテキストの魅力に触れていく。

突然のなんJ民。

ローカライズのセンスが光っている。

「ジュリ!!! on SKATES」は言わずもがな某フィギュアスケートアニメのことだろう。

本作と同じくスペインのデベロッパーが手がける『Yuppie Psycho』の主人公も同じアニメのキャラクターから影響を受けているという噂もあり、日本産アニメの世界的評価の高さが伺える一幕。

このゲームに興味を持つ人は大体知っているであろう『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』の名台詞。

こうした遊び心のあるテキストは、単なる雰囲気づくりに留まらない。「読むだけ」という構成において、会話そのものが読み進めるモチベーションとなり、物語に心地よいリズムを与えている。

操作や選択に頼らずとも退屈さを感じさせない点は、キャラクター表現とテキストの相性の良さによって支えられている部分が大きい。

ただし、本作のテキストが印象に残る理由は、軽やかさだけではない。物語の奥には、列車内で交わされる冗談や掛け合いとは対照的な、決して明るくは語られない核心が静かに沈んでいる。

詳細には触れないが、本作が描く事件には、生徒たちの間に広がる陰鬱な空気や、大人の振る舞いによって生まれた歪みが色濃く関わっている。軽快な会話が続くほど、その裏側にあるものの重さが、読者の胸にじわじわと滲んでくる構成だ。

この“読みやすさ”と“心の痛み”が同時に存在している点こそが、『マリンエクスプレス殺人事件』を単なる雰囲気ミステリーで終わらせていない。


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終着駅のその先へ――原点を知ることで加速する東川乱子の物語

画像は公式Xより。デフォルメの効いたビジュアルから一転、グッとリアルに!

『マリンエクスプレス殺人事件』はこの1作だけでも完結した読書体験として成立していると同時に、「この先も東川乱子の物語を追ってみたい」と思わせる余韻を残す作品でもある。

昨年末にはサイドストーリー作品『The Seven Bad Apples』がリリースされ、選択肢や行動による分岐が追加されるなど、インタラクティブ性が大きく強化された。現時点では英語版・スペイン語版のみだが、近々日本語対応版の発表も予定されているとのこと。

さらに、近日発売予定の続編『The Girl Who Wasn’t There』では、ビジュアルの刷新に加え、6種類のシナリオ展開と20種類のマルチエンディングが用意されるなど、ゲーム性は大きく変化している。(こちらは発売日より日本語版の提供も予定されている)

これらの情報だけを見ると、新作のほうが派手で、遊びやすそうに映るかもしれない。しかし東川乱子という人物と初めて出会う体験は、『マリンエクスプレス殺人事件』にしかないのである。

後続作品で描かれる進化や変化は、それだけでも魅力的だ。しかし本作を経ていると、その変化が単なる新要素ではなく、積み重ねとして胸に届く。体験の厚みは、確実に増すだろう。

そして何より、シリーズの入口は1度しか踏めない。2作目の日本語対応と3作目の発売を間近に控えた今こそ、原点となるこの1作をぜひ履修してみてはいかがだろうか。

〈詳細情報〉

ゲーム名マリンエクスプレス殺人事件
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格500円
リリース日2021年7月30日

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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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