『HARF-WAY』というメディアの方向性に悩んでいたある日、とある開発者さんの作品に出会いました。「薙沢ムニン」さん。もしかしたら、知ってる人もいるかもしれません。この人と出会わなかったら、今の自分は居ないだろうなぁと、つくづく思うのです。
この記事は、ムニンさんの作品を好き勝手に語る記事です。各作品の概要には触れていますが、ネタバレ等はございません。他人の日記を覗き見する感覚で、ごゆるりと見て頂ければ幸いです。
機械仕掛けのマーセネリア
機械人形『マーセネリア』が佇む城を探索する作品。誰もいない廃墟のような古城を調査しつつ、過去に何が起きたのか、マーセネリアは一体何者なのかを探っていく。早々に脱出するも良し。いきなり破壊するも良し。無害な彼女に対して破壊の選択肢がある理由は遊んでいるとわかります。
ムニンさんの記念すべき一作目であり、続く作品の根幹になる要素が詰め込まれている印象。今作に限らず、ムニンさんの作品はプレイヤーが最後に何かを決断してエンディングを迎えます。どちらを選んでも報われる終わり方で、弱きものの視点で選択の余地が残されていることに優しさを感じました。
全てを知る痛みに苦しむくらいなら、何も知らず舞台から降りる方が良いのかもしれない。これは外部の人間が決めることではなく、当事者にだけ決める権利がある。『機械仕掛けのマーセネリア』は、どっちに転んでも彼女が救われるやさしいお話です。
【ゲームリンク】
機械仕掛けのマーセネリア
サーカスとキミとカイブツ~Restage~
片目からキレイな角が生えたカイブツ『ハル』と、花売りの少女『ハナ』がサーカスで出会う作品。ハルに生えた角を不気味がる人もいれば、キレイでカッコいいと見惚れる人もいる。コンプレックスを褒める何気ないシーンが素直で素敵だなって。
ちゃんと見てくれる人がいる。それがどれだけ心の支えになるのか。人の内面を淡く、柔らかく、ぼかしてくれる。清らかで誠実な恋路と異国情緒あふれるBGMが盛り立てる中、演劇のような世界観が楽しめます。でも、非情な現実にキュッとする場面も…
最後は他人を笑わせるサーカスらしいENDになっており、ハル君がにこにこしながら終わってくれるのである意味ハッピーエンドです。終始笑うことが強調されており、見世物小屋で働く青年という設定と相まって良い展開も悪い展開も綺麗な着地でした。
【ゲームリンク】
サーカスとキミとカイブツ~Restage~
▼スライム娘は人間と友達になりたいようだ
無垢なスライム『アウラ』と人間の話。アウラが遭遇するであろう世界の残酷な可能性を次々とぶつけられ、最終的にアウラが人間とどう接したいのか決めるシンプルな物語。人間を憎んでも、ヒトを愛しても良い。すべては遊び手次第。
可哀想って感情には相手を大切にするって動詞が入ってないから、結局誰も救わないんですよね。スラともは、全作品のなかで一番の慈愛を感じる。最後まで遊ぶと分かるんですが、盲目にニンゲンが大好きってわけではありません。そこがまた良いのよ。
今作には他作品のキャラも出てくるので、全部を知ったうえで遊ぶとニヤニヤする部分も。主人公のアウラが天真爛漫で明るく、比較的触りやすいので最初に遊んでもらうのが良いかなと思います。筆者はスライム娘好きなので、見た目の部分でも刺さりましたね…
【ゲームリンク】
▼スライム娘は人間と友達になりたいようだ
グリモワール・ヘヴン-Remnant of Dream-
様々な種族が暮らす都市『グリモワーレ』を舞台にした作品。小説を読んでいるような濃い生い立ちを持つキャラクターが大量に出てくるので、物語だけではなく世界観を丸ごと楽しめます。アイキャッチに描かれる夢魔の『ジズリ』を筆頭に、様々なキャラと交流する群像劇の展開が素敵。
もちろん、本編シナリオも骨太に作られており遊びごたえ十分。人間の愚かさ全開で最高に薙沢ムニンって感じ。餓えや渇きは愛をぼかしてしまうけど、真摯に向き合えば愛の存在を強く認知できる。弱さとか、痛みとか、他人のやさしさとか。善い人がちゃんと作ったんだなと感じられる読後感が好き。
シンプルな感想ですが、16名もキャラがいるのに全員が印象深くて普通にスゴイ。話がこのまま広がっても違和感ないくらい作りこまれていて、眼前に世界そのものが映っている。ムニンさんのグリモアに掛ける想い。遊んだ人は受け取っていますよと伝えたい。
【ゲームリンク】
グリモワール・ヘヴン-Remnant of Dream-
ままごとのショーティカ
喋る人形『ショーティカ』と隔離された空間でおままごとする作品。ショーティカちゃんは可愛いだけに留まらず、プレイヤーをゴリゴリに監禁して「あなたは一生出られない」とか言ってきます。これも一種の愛ですね。遊んでいると元凶とかも分かってくるので、一概にやばい子とは言い切れません。
エンディング分岐は結構多め。慣れていない方はパラメータ管理に苦戦するかもですが、ムニンさんが攻略ページを残しているので粘れば全END到達可能です。思う存分に傷ついて、傷つけて、善きも悪きも差分をお楽しみください。
全作品を遊び終わって思ったのですが、他作品と別の魅せ方してるなぁ~という印象でした。『ままごとショーティカ』は自分で行動を起こさないとイベントが発生しないので、物語を俯瞰するというよりも操作するって感覚なんですよね。なんだかんだ言って、今作が一番心をえぐりそうな気がします。
【ゲームリンク】
ままごとのショーティカ
少女がひとり、生贄となる。
夜が明けたら神様の生贄に出される村娘『○○○○(最後に教えてくれる)』の話し相手になる作品。足掻いても運命は変わらず、何をやっても彼女は救えない。でも悲しい話でもない。他人にとっての幸せや価値観に対して、水を加えて薄める行為は野暮だよねってつくづく思う。
一本道で分岐もない。ホントに話すだけ。「生贄なんて間違っている!」みたいな正義感ぶんぶん振り回すわけでもなく、彼女の生い立ちを聞いて見送る。背景が徐々に明るくなってタイムリミットが近づいて、それでも意思は曲がらない。
透けていく命と、物質的な死の経過を同時に見つめている感じ。誰しもがいずれ死ぬ。当たり前すぎて通り過ぎそうになる。納得できる死なんて存在しないかもしれない。それでも、立ち止まって考えたくなる真摯な作品でした。
【ゲームリンク】
少女がひとり、生贄となる。
獣亡き夜のオリにて
半獣人が虐げられる世界。娼婦『ラァラ』とお客様である人間様が会話する作品。えっち。アラビアンテイストの娼婦って世界観、スゴイね。妖艶という言葉が似合いすぎるというか、関わったらダメ感をここまで出せるものなのかと感動した。
人を憐れむって善人っぽく見えるけど、ほんとに思い上がりだよなと思う。相手と同じ目線に立たずに労わることの愚かさ。自分は他の人とは違うと見せつける浅はかさ。立場の違う相手を慮るむつかしさ。心の底から他人ごとじゃないと思った。
全体的にダークテイストですが、ラァラの性格(くっそ根明)も相まって、からっとした読み物として楽しめます。脱線しますが、男だったら一度くらいは媚薬ガンガン焚いた部屋で誘惑されてみたいですよね。妖しいと分かっていても。
【ゲームリンク】
獣亡き夜のオリにて
マッチ売りの少女は聖夜に火を放った
幸せなクリスマスを眺めながらマッチに火をつける作品。マッチを擦って灯を灯すたび、幸せな映像が彼女の脳裏に投影される。火が付いてるときは満たされていても、火が消えた途端に幻は消えていく。絵に描いたような儚さ。最後にどうなるかはお楽しみ。
思い返すと、すべてはココから始まりました。今作はムニンさんのTwitter企画『24時間ゲ制』にて1日で作られており、興味を持って遊んだことをきっかけに『ノベルゲームコレクション』を知り、そこでHARF-WAYの根幹を担う「ゲーム紹介ポスト」が誕生しました。感慨深いものです。
また今作も例に漏れず、最後に二択が提示されます。「燃やす」か「燃やさないか」の問いかけが、めちゃくちゃムニンさんっぽくて好きでした。今まで作ってきた作品があるからこそ、今作が生まれたことが良く分かります。時間制限のある中で作られたことを贔屓目で見なくても、この人は明確な意図を込めて素敵なゲームを作っているんだなと感じられました。
【ゲームリンク】
マッチ売りの少女は聖夜に火を放った
人間は基本的に愚かで、別にそれでも良い
人間は愚かと認めたうえでどうするか。全作品を通してブレることのない問いを出している。勧善懲悪ではなくて、芯の通った愛でしか人は救われないよねって語りかけているようだった。ムニンさんは悪者を否定するのではなくて、誰だって悪意があるものだといっているし、最終的にどうなりたいかは自分で決めろと選択肢を突き出しているように感じた。
絶望して何もかもぶっ壊すこともできる。そのうえで愛を選ぶあなたは美しい。そう言われてる気がする。勘違いかもしれないけど、毎回そう感じる。遊ぶたび、この人はホントにやさしい人だなと思うのです。だからこそ、筆者は薙沢ムニンという人が好きで、この人が作る作品が好きだ。
「作品は人に見てもらって初めて完成する」。あなたがそう言ってくれて嬉しかったんです。この人は創作してないと死んじゃう人で、遊んでくれる人の気持ちも背負って作品を作っているんだなって。誰かを想う自己満足は人の心を動かします。あなたの作品は私に届いて、見事完成して、こうして記事が生まれました。あなたのおかげです。
作り手の皆様。
あなたの作品はきっと誰かに届いています。
遊び手の皆様。
あなたに届いて作品は完成します。
愛のある作品が愛のある人に届くこと祈って、結びの言葉とさせて頂きます。改めまして、敬愛なる薙沢ムニン様。素敵な作品をありがとうございました。
ちょっとだけムニンさんの宣伝
2024年5月4日(土)東京・浜松町で開催される『東京ゲームダンジョン5』にムニンさんがブース【4K-4】で出展します。HARF-WAYの中の人が骨抜きにされたゲーム開発者に会ってみたい方は奮って参加してください。新作の体験版もあるのでお楽しみに!
おしまい。