2025年12月27日(土)、大阪・堺筋本町のマイドームおおさかにて、100を超えるインディーゲームが集結する展示会「大阪ゲームダンジョン」が開催された。
東京会場でもおなじみの作品が大阪で体験できる喜びとともに、大阪会場ならではの個性が光るタイトルも並び、地域を越えてインディーゲームの広がりを感じさせる一日となった。

本記事で紹介する『クワイエット急行909号』は、7日間かけて大陸を横断する列車の中、“存在しない909号室”の真相に迫るADVだ。
シリアスな場面こそあれど、車窓を眺めてのんびりしたり、様々な乗客と言葉を交わしたり、旅の趣きを満喫できるのも魅力といえるだろう。
大阪ゲームダンジョンの現地ブースで実際に試遊して感じた手触りとともに、今回の展示で見えてきた本作の新たな一面、そして開発者へのインタビューを通して語られた制作の背景をお届けする。
静かな車窓の旅が、いつの間にか謎に満ちてゆく――試遊で見えた、旅情とミステリーの絶妙な距離感

今回の大阪ゲームダンジョンでは、ループする7日間のうちDAY5からDAY7までを体験できた。
新たに「食堂車」や「キャラクターとの会話機能」、「シナリオの一部」が実装され、寝台列車で乗客たちと時間をともにする7日間の旅情が、より色濃く感じられる内容となっていた。
なかでも印象的だったのが「車両の組み換えシステム」だ。
ひとつの車両を探索し終え、次の車両へと続くドアを開ける際、その先にある車両候補が3つランダムで提示され、その中から好きな車両を選んで物語を進めることができる。列車という一本の線路を進みながらも、選択の積み重ねが体験を少しずつ変えていくのだ。

『クワイエット急行909号室』の魅力は、「旅情」をゲーム体験として丁寧に再構築している点にある。
次の車両に何が待っているのかは、実際に扉を開けてみるまで分からない。この“一期一会”の設計は、見知らぬ土地を巡る旅そのものの感覚に近く、計画通りに進まないからこそ生まれる発見や偶然を、自然な形で味合わせてくれる。
また今回の試遊で初お披露目となる「食堂車」も、この流れで探索できた。

スイーツやドリンクが並ぶショーケース、テーブル、カウンター席が配された食堂車は、まさに旅情の象徴とも呼べる空間だ。流れる車窓の景色と走行音に包まれながら、この場所を自由に歩き回れる体験は、列車好きでなくとも心が躍る。
なお、車両探索中に拾得したコインを使って、ショーケース内の食べ物を購入することもできた。


さて、食堂車で購入した食べ物にはどういった用途があるのだろう。本作に体力ゲージは存在しないため、いわゆる回復アイテムではない。
他にもピッケルや電池など、「何に使うのだろう?」と想像を掻き立てるアイテムを拾い集める。車窓の景色や車内のインテリアなどを楽しみながら徘徊していると、キービジュアルでもお馴染みの女性がいる客車へ辿り着いた。

客室では彼女の向かいに腰かけて会話を交わすことができるのだが、この時の景色がとても良い。流れゆく風景、たまたま乗り合わせた乗客。そして、こちらにあまり視線を向けない彼女との絶妙な距離感。そのすべてに、静かな旅情を感じるのである。
重要人物と思われる彼女だが、最初は当たり障りのない会話しかできない。しかし、車内探索で取得したアイテムによって話題が増えたり、プレゼントすることで好感度を上げたりできるのである!
例えば、列車内に飾られたレコードをチェックした状態で話しかけると、彼女からレコードにまつわるエピソードを聞き出せる。その中で彼女が親し気に口にした「お姉さん」の存在。さらに踏み込んで聞くためには、一定の親密度が必要な様子。


今回の試遊では、食堂車で購入したチーズケーキをプレゼントすることで親密度を上げ、彼女との会話を続けることができた。このように、車内を探索して集めた様々な情報やアイテムをキーにして、乗客たちと静かにゆったりと交流を深めていけるのである。


登場キャラクターは、今後さらに実装予定とのこと。出会える乗客たちはそれぞれに理由や事情を抱えてクワイエット急行に乗り込んでおり、誰と、どのように過ごすのかもプレイヤーに委ねられている。
そして、この穏やかな旅情に絶妙なスパイスを与えているのが、「909号室」というミステリー要素だ。
列車にそのような部屋はなく、車掌でさえも存在を把握していないという。旅情に満ちた列車という舞台に、不可視の“空白”として差し込まれたこの存在は強烈なフックとなり、本作全体に独特の緊張感と奥行きを与えている。
しかし今回の試遊では、残念ながら909号室を見つけることはできなかった。
それどころか、列車が落石事故に巻き込まれてしまうという、さらに先の読めない事態に発展した。
幸い、筆者は手持ちのアイテムと乗客との会話から得た情報を頼りに事故を回避することができたが、行動次第ではそのまま巻き込まれてしまう展開も用意されているようだ。


ここでさらに気になるのが、“繰り返す7日間”というループ要素だ。
プレイヤーはランダムに構築される車両編成やアイテム収集を重ねながら、時には命にかかわる事故に巻き込まれ、同じ旅路を何度も辿ることになる。しかし、そのループは単なるやり直しではない。
乗客との会話や旅の途中で重ねた小さな選択が、繰り返される旅の展開に変化をもたらしていく。そうした試行錯誤の果てに待つ“909号室”は、この終わらない旅に意味を与える場所なのか、それとも——。プレイヤーは答えを求め、再び列車に乗り込むことになるのだ。

『クワイエット急行909号室』は、旅情を楽しむゲームでありながら、その奥に確かな物語の推進力を秘めた作品だ。静かな列車の旅に身を委ねつつ、気づけば謎の核心へと近づいていく——その独特な感覚こそが、本作ならではの体験と言えるだろう。
そして本作を手がけているのが、『ナツノカナタ』や『ムーンレスムーン』、『ガールズメイドプディング』など、緻密に編まれたテキストで情緒を揺さぶる作風が魅力のKazuhide Oka氏(STUDIO 909)だ。
本作で感じられる余白のある時間の流れや、どこか切なさを帯びた旅の風景には、Oka氏の作品に通底する繊細な世界観づくりが確かに息づいている。
これまでOka氏の作品に触れてきた人にとってはもちろん、本作が初めての出会いになる人にとっても、この列車の旅はきっと心に残る時間になるだろう。
クワイエット急行の旅は、まだ始まったばかり――開発者Kazuhide Oka氏インタビュー
今回のゲームダンジョン大阪では、開発を手がけるKazuhide Oka氏から話を伺うことができた。
現時点での完成度はベースこそ出来上がっているものの全体の約10%ほどで、シナリオやキャラクター、車両の種類などはこれから本格的に拡充されていく段階にあるとのこと。今回の展示は完成形を提示するものというより、本作が目指す体験の方向性を示す試作ビルドとしての位置づけだ。
またOka氏は「新幹線での移動時間から着想を得ました」とも教えてくれた。目的地へ向かうまでのあいだ、流れゆく景色をぼんやりと眺めたり、考えごとにふけったりする、あの独特の時間。「移動している途中」だからこそ味わえる感覚が、『クワイエット急行909号室』の出発点になったそうだ。
そうした旅情をしっかりと体験できること。車窓を流れる風景、列車の走行音、旅の先で何が待っているのかわからない偶発性など、プレイヤーが肩の力を抜いて過ごせる時間の演出を本作の開発において最も大切にしていると教えてくれた。
すでに試遊の段階でも旅情を感じさせる演出やシステムは随所に盛り込まれているが、特に車窓の景色については、今後さらに作り込んでいきたい重要な要素だという。外の景色がより豊かになることで、旅そのものの密度を一層高めていくことを目指しているとのこと。

一方で、Oka氏は「7日間の旅情を、より深く、より豊かに味わってもらうためには、プレイヤーの意識を自然に引きつけ続ける仕掛けも必要」だと語る。
その役割を担うのが、本作のミステリー要素だ。
存在しないはずの「909号室」を巡る謎は、解かなければならない義務としてプレイヤーに緊張感を強いるものではなく、むしろ、静かな旅の風景の中に違和感として溶け込み、気づけば意識が向いてしまう――そんな“引力”として設計されている。
ゲームは1周7日間を繰り返すループ構造を採用し、大方の周回要素を回収するためのプレイ時間は6〜10時間程度を想定。車両編成やアイテム配置にはランダム要素が取り入れられており、計画通りに進まない旅ならではの“一期一会”の感覚をゲーム体験に落とし込んでいるようだった。
ランダム要素についても、プレイヤーがストレスを感じることなく物語に没入できるよう、バランスや出現条件を含めた調整を進めていくとのこと。
また本作は、国が支援するプロジェクト“創風”に採択された作品でもある。進捗度はまだ初期段階にあるものの、その独自性や目指す体験性が評価され、日本のゲーム文化を未来へとつなぐ試みの一端として期待を寄せられている点にも注目したい。
Oka氏は、展示会やXを通じて寄せられるユーザーの声を取り入れながら、約1年をかけて本格的な開発を進めていく予定だという。なお、創風への採択にあたっては、プロデューサーを務める木戸祥也氏の強い後押しがあったとのこと。
作品を信じ、次の舞台へと導いたその存在もまた、『クワイエット急行909号室』がより力強く、より遠くへ走り続けるための確かな推進力となっている。
『クワイエット急行909号室』はいま、制作という旅の途中にある作品だ。完成へ向かうその旅路を、ともに乗り合わせた乗客のひとりとして、これからも楽しみに見守っていきたい。
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