隠れてしまった猫に言葉をかけて外に出てもらう。ただそれだけなのに心に残る。『でておいで、猫』は、無料の短編アドベンチャーゲームだ。プレイ時間はわずか10分程度でサクッと遊べる。
画面に表示される2つの単語を組み合わせて猫に呼びかけ、正しい言葉を見つけ出すシンプルな仕組み。しかしながら、猫を飼っている人、かつて飼っていた人の心に深く響く作品になっている。
また今作は猫との純粋なやり取りだけにフォーカスしており、猫の反応や表情が一つ一つ丁寧に描写されている。猫を飼っている人が感じる日常の温かさや、心が優しく溶けていく感覚を味わえるはずだ。
目的は猫に出てきてもらうことだけ

プレイヤーができることは、画面上に表示される単語を2つ選んで猫に呼びかけるだけ。「でておいで」と「猫」を組み合わせて「でておいで、猫」と呼びかけたり、「いかないよ」と「病院」を組み合わせたり。
特別な言葉が表示されることはない。猫を飼ったことがある人ならば、いずれも日常的に使っている言葉と言えるだろう。猫と普段通りのコミュニケーションを取るだけでも十分に楽しいことが分かった。
またビジュアル面も魅力的だ。「病院」という単語を聞いた時のなんとも言えない表情や、安心して眠っている時の穏やかな顔。表情の変化を眺めるだけでも、猫好きにとってはたまらない。細かい仕草一つ一つに、制作者の猫への愛情が感じられた。
猫、全然出てこないけど!?

最初は手当たり次第に単語を組み合わせていた。「ただいま、猫」「いかないよ、病院」など、猫が喜びそうな言葉を次々と試してみる。でも猫は出てこない。
「そう簡単には出てこないよな」、と思った。猫ってそういう生き物だ。こちらの都合で動いてくれるわけじゃない。人間の気持ちを悟った上で、気ままに振る舞えるところが可愛さの所以だと思う。
不貞腐れながらも、単語の組み合わせを全て試すことにした。この過程が作業的に感じるかと思いきや、全くもってそんなことはない。たとえ正解じゃなくても、猫が何かしらの反応を見せてくれるからだ。
手がかりは猫の反応!

今作に明確なヒントは用意されていない。投げかけた言葉に興味を示して時に警戒する猫の反応が全てを物語っている。鳴き声と表情で正解に招いてくれる猫を観察しながら、少しづつ正解に近づいていく。
特に「病院」という単語に対して猫は明らかに嫌そうな表情を見せ、より奥へと隠れてしまう。この描写が本当に可愛かった。「猫だし病院嫌だよね〜ごめんね〜」と思いながらプレイしていた。
そして同時に、3ヶ月前に亡くなった私の猫のことを思い出した。亡くなる前、何度も病院に通った。私の猫は病院を嫌がることはなかったけれど、「病院って本来は嫌なものだよね」と改めて思った。
動物にとって、知らない場所で知らない人に触られるのは怖いことだ。この瞬間、今作がただの娯楽ではなく、個人的な思い出と結びつく体験になった。ゲーム内の猫の反応一つ一つが、リアルな猫の行動を思い出させてくれる。
隠れている時は顔だけしか見えないのだけれど、最終的に全身が見えた時には「可愛い〜!」と声が出た。待った甲斐があったという達成感と、猫の愛らしさが同時に押し寄せてくる。この瞬間のために、プレイヤーは試行錯誤を続けるのだ。
HARF-WAY コマーシャル
絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

出てきた時の達成感は何にも変えられない

猫が出てきてくれた時の感覚は、単なるゲームクリアの達成感とは違った。もっと温かくて、優しい気持ちになれた。猫が出てきただけなのにこんなにも嬉しい。正解にたどり着いた安堵と、猫の姿を見られた喜びが混ざり合う。今作は猫を飼っている人、かつて飼っていた人にこそ刺さる作品だと強く感じた。
今飼っている人には日常の愛おしさを再確認させてくれるし、以前飼っていた人には温かい思い出を呼び起こしてくれる。飼っていない人や飼っている人、飼っていた人。1つのゲームなのに、プレイヤーの状況によって感じ方が全く違うだろう。
私にとって今作は、亡くなった猫との思い出を振り返る時間になった。悲しいけれど、同時に温かい。猫と過ごした日々は確かにそこにあって、今もこうして心の中に生き続けている。
10分という短い時間の中で、そんな大切なことを思い出させてくれた。ゲームを終えた後、しばらく画面を見つめていた。猫との日々がどれほど貴重だったか、改めて実感する。今作は猫との絆を再確認させてくれる、かけがえのない一作だ。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | でておいで、猫 |
| ジャンル | ビジュアルノベル |
| ストア価格 | 無料 |
| リリース日 | 2025年8月25日 |
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煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
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まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。
寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』

