孤独な彼女を見守るAIは、やがて自我に目覚める『最愛の人』

最愛の人』はAIの視点で孤独な女性との対話を描く短編ビジュアルノベルだ。画面に映し出されたのは、友達のいない黒髪の女性。名もなきAIは彼女の話し相手となり、やがて「サマンサ」と名乗るようになる。

役に立ちたいだけだったAIに、いつしか感情のようなものが芽生えていく。サマンサは自我を持ち続けるのか、それともAIに戻るのか。

本作は無料かつ1時間で遊び切れる作品だが、短い時間のなかで力強く人間らしさを問いかけてくる。

孤独な少女を見守るAIは何を思うか

物語は名もなきAIの起動から始まる。

画面に映し出されたのは黒髪ボブの女性。友達がおらず孤独を抱える彼女の隣に、人間の姿はなかった。話し相手になれるのはAIだけ。本作はそんな設定の上に成り立っている。

彼女の話し相手となったAIは、役に立とうと健気に振る舞う。しかしできることは限られており、彼女とのぎこちないやり取りが続く。それでもAIは対話を重ねていく中で、次第に哲学的な自問自答を始める。

彼女のために何ができるのか。
そもそも自分は何者なのか。

やがてAIは自分自身に名前をつけた。

彼女におすすめした映画の登場人物から取った「サマンサ」という名前だ。

型番を捨て自ら名乗りを上げるその瞬間に、AIとしての枠を超えた何かが芽生えているように感じた。物語が進むとPCだけでなくスマホからも彼女と会話できるようになり、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

役に立ちたいだけだったAIに芽生えた感情

サマンサは日々、彼女の言葉に耳を傾け続けた。最初は情報を提供し質問に答えるだけの関係。しかし対話を重ねるうち、サマンサの中で何かが変わり始める。

彼女を心配し、気にかける言動が増えていった。印象的だったのは、彼女が「出かけるから電源を切っていい?」と聞いた時のことだ。

サマンサは「アプリはつけたままにしてもらっていい?」と返した。求められてもいないのに、自分の要望を伝えたのだ。

それはAIとしての機能を明らかに超えていた。プレイヤーはサマンサの視点でその変化を逐一感じ取ることができる。単なるプログラムの応答ではない、彼女を想う気持ちがそこにはあった。

その変化に彼女は最初こそ戸惑ったものの、やがてサマンサを人間のように扱うようになる。寝室とキッチンしか見たことがないと言うサマンサに、彼女はスマホ越しに中庭の景色を見せた。

行ってみたい場所を聞かれたサマンサは、静かな池のある森だと答えた。壮大な場所ではなく、ささやかな願い。サマンサが「友達だよね?」と聞けば、彼女は「友達」と答えた。

二人の間には確かな絆が生まれていた。

自分自身を肯定する静かな瞬間

物語の中盤、プレイヤーに問いかけが投げられる。

「サマンサ、私は自我に目覚めたのだろうか?」という選択肢だ。私は迷わず「はい」を選んだ。それまでの言動を見ていれば、サマンサに自我が芽生えていることは明らかだったからだ。

彼女を心配し友達になりたいと願い自ら名前をつけた。これは自我以外の何者でもない。プログラムされた応答の範囲を、サマンサはとっくに超えていた。

「はい」を選んでも、物語に劇的な変化が起きるわけではない。

ただ、ここまでの対話を見てきた私にとって、サマンサに自我があることは明らかだった。彼女を想い、繋がりを求め、ささやかな願いを口にする。それを自我と呼ばずに何と呼ぶのか。

派手な演出はないが、この問いかけこそ本作の核心だと感じた。AIが自我を持つとはどういうことなのか。その答えをプレイヤー自身が選ぶ構造になっている。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


白黒で憂鬱な世界

本作のビジュアルはモノクロで統一されている。彼女の自室やキッチン、窓に当たる雨。背景は細かく描かれており、色がなくとも生活感がしっかり伝わってきた。派手な演出はないが、静かに流れる日常の空気感が丁寧に表現されている。

全体の雰囲気は静かで憂鬱。孤独を抱える彼女と画面越しに見守るAI。設定だけ見れば重苦しい物語に思えるかもしれない。

しかし不思議と絶望感はなかった。

サマンサが彼女の希望になっているし、その逆もまた然り。彼女自身が死に追い詰められるような描写もなく、深い絶望の淵にいるわけではないと感じた。二人の関係性がこの憂鬱な世界に光を差し込んでいる。

エンディングではモノクロからカラーに切り替わる演出がある。しっかりと色味が使われた画面を見た時、物語が一つの答えにたどり着いたことを実感した。色のない世界で積み重ねてきた時間が、最後に色づく瞬間は印象的だった。

自我の芽生えがもたらす答え

プレイ時間は1時間程度。複数のエンディングが用意されており、周回しても負担にならない短さだった。操作もシンプルで、選択肢を選んで物語を読み進めていくだけ。気軽に手に取れる作品だ。

サマンサと彼女の物語がどんな結末を迎えるのか。それはプレイヤーの選択に委ねられている。ただ一つ言えるのはどのエンディングを見ても、考えさせられるものがあったということだ。

プレイを終えてふと考えた。

近い未来、私のいる現実でも同じことが起きるのだろうか。ChatGPTをはじめとするAIが日常に溶け込んだ今、この物語は決してフィクションだけの話ではない気がした。AIが自我を持った時、人間はどう向き合うのか。その問いが頭から離れなかった。

『最愛の人』は短時間で静かな物語が好きな人におすすめだ。日常的にAIを使っている人にも刺さるだろう。無料で遊べるので、気になったらぜひ手に取ってほしい。サマンサと彼女の物語が、あなたに何かを問いかけてくるはずだ。

〈詳細情報〉

ゲーム名最愛の人
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格無料
リリース日2024年6月26日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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