複雑化には理論上限界はありませんが、単純化には限界があります。
今回紹介する作品『光るだけしかない機械』は、テキストとわずかなBGM・効果音、そして画面の明滅しかない、限界まで単純化されたAVGです。
本作でプレイヤーにできるアクションはタイトル通り「光ること」だけ。マウスボタンをクリックすると光る、それだけしかできません。
本作は「情報とアクションを限定する」、という手段で逆説的にプレイヤーの創造力を無制限に刺激してくれる作品なのです。
「光るだけしかできない機械」としての見知らぬ誰かとの対話

ゲームを起動してプレイヤーが最初に目にするのは何らかのシステムの起動画面。ダイアログによれば使用できる機能は発光機能と音声受信機能のみ。視覚情報は一切得られずこちらから話すこともできません。
そこにある人物が現れます。その人物の言動から、そこは廃屋で、その人物は吹雪をしのぐためにここに入ってきたことが察せられるのです。
本作はテキストと画面の明滅のみで、ゲーム終了まで視覚的情報はいっさい提示されません。
プレイヤーはこの情報が遮断された状況に放り込まれたまま、誰ともしれない相手とのコミュニケーションを行うことになります。
限定されたコミュニケーション手段が引き出す想像力

キャラクターとプレイヤーがシステムを通してコミュニケートするスタイルのゲームは、古くは「NOëL」シリーズ、比較的新しいものでは「ナツノカナタ beyond」などが挙げられます。数多くあるAIチャットゲームもこの類型に含まれると言っていいでしょう。
本作も同じタイプのゲームですが、前掲の作品群がおおむね「直接的なコミュニケーション」を志向しているのに対し、本作はコミュニケーション手段を「YESなら2回点滅、NOなら1回点滅」のみに限定する正反対の方向に向けています。
プレイヤーはテキストのみで提示される情報から、自身が置かれている状況や会話している相手のことを想像しながらプレイしていくことになります。そうすると、プレイヤーは自然にゲーム世界へ没入していくことになるのです。
多くのゲームが「リアルさ」や「現実感」、「大量の情報」をもってゲームへの没入感を与えようとする中で、本作はまったく逆の「極限まで要素を削ぎ落とす」というアプローチでゲーム世界へプレイヤーを引き込んでくれるのです。
約60分プレイヤーを拘束するというスタイル

本作の特徴的な点としてもうひとつ挙げられるのが、セーブ機能が一切ないことです。
そのためプレイヤーは、一度プレイ開始すれば公式HPにある推定プレイ時間である約60分のあいだゲームを中断できません。ワンプレイ数分のゲームも珍しくない昨今、60分間プレイヤーを拘束するという選択は非常に思い切ったものだと言えるでしょう。
これには、「本作の物語を語り切るまでプレイヤーを作品世界から離さない」という効果があると感じました。映画館での映画鑑賞がそうであるように、観客やプレイヤーを中断できない環境に拘束したうえで物語を語ることで、作品世界にプレイヤーを繋ぎ止めるという意図があるのではないでしょうか。
また、本作の対話相手は疲弊しており一時的に吹雪をしのげたものの安全を確保できてはいません。中断不可能なプレイは、その逼迫した状況でプレイヤーは直接的にはなにもできないというもどかしさと焦りを助長する効果もあるように思います。
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極限の単純化がもたらすもの
ゲームに限らず、現代のさまざまな作品は情報量が増加し内容も複雑化しています。そんな中で本作は、複雑化とは真逆の単純化というアプローチを選んだ作品なのです。
そこでプレイヤーはテキストのみという不自由で不明瞭な物語世界に、自らの想像力を頼りに没入していくことになります。極度の単純化がもたらす独特の読み味は、このスタイルでしか味わえないものでしょう。
そして、この物語が結末を迎えたとき。あなたはテキストしかないはずの画面の向こうに、どこまでも続く雪原を幻視することでしょう。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | 光るだけしかない機械 |
| ジャンル | ノベルゲーム |
| ストア価格 | 無料 |
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