『上に天井がある。』は、医学生の自室を探索する短編心理ホラーアドベンチャーだ。勉強に追われる彼女を操作して、部屋の中のオブジェクトを調べていく。しかし探索を進めるうちに、完璧主義に追い詰められた彼女の本当の状態が明らかに……。
そしてDLC『The Relapse』では、一度は乗り越えたはずの悪夢が再び襲いかかる。
この記事はDLC「The Relapse」を含むネタバレ有の考察を含んでいます
違和感はいつも日常に潜む

ゲームを起動すると、優しい線で描かれた主人公が映し出される。一見普通の学生の部屋だが、食器洗いが済んでおらず、ポストには請求書や広告が詰まっている状態。どうやら彼女は整理整頓ができないほど追い詰められているようだ。
彼女の様子を探るべく、ポイント&クリックで部屋を探索していく。朝ご飯を食べ、歯を磨き、窓の外の景色に感想を述べる。普通の日常生活だからこそ、時折現れる幻覚のような映像に戸惑う。これは現実なのか、彼女の見ている幻なのか。
探索を進めると謎の男性が現れる。窓の外から手を振り、フレンドリーに接してくる。しかしバスルームで会った時は「もう時間がない」と時計を見せ、ループを壊すことを訴えかけてくる。そう残して彼が消えると、家は浸水して彼女は天井へ逃げるしかなくなる。
イマジナリーフレンドという守護者

主人公の下に度々現れる男性は『イマジナリーフレンド』である。実在せず、勉強のストレスが生み出した想像の産物。しかし彼の存在は単なる幻覚ではない。彼の素肌には傷があり、主人公の知らないところで彼女を守り続けている。セリフも仕草も常に肯定的で、彼女を決して否定しない。
本編のグッドエンドで彼に救われた主人公。しかしDLC『The Relapse』では立場が逆転する。今度は主人公が彼を守ろうと奮起するのだ。この関係性の変化が、主人公の成長を表している。
天井は限界を表すメタファー

探索を進めるうちに、本作のタイトル『上に天井がある。』の意味が見えてくる。医学という努力と優秀さが要求される道を選んだ彼女。常に上を目指し続けた結果、見えた限界点。それが『天井』だった。
私自身、受験期に似たような感情を抱いたことを思い出した。最初は小さなストレスだった。「今日の分を終わらせなきゃ」「明日はもっと頑張ろう」。しかし、その小さな重圧が積み重なり、いつしか巨大な壁となって立ちはだかる。
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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。

分岐するエンディングは全て起こり得る未来

彼女は本編のグッドエンドで洋服のまま浴槽で気絶する。ギリギリのところで踏みとどまった状態を表しているように私は感じた。その後、悪夢から覚めて試験に合格するが、それは一時的な解決に過ぎない。なぜなら次のテストがすぐにやってくるからだ。
DLCに存在する3つのエンディングは、現実にも起こり得る。主人公はシークレットエンドで助かったが、グッドエンドのように苦しみに耐えながら頑張っている人もいる。バッドエンドのように重荷に潰されて心が壊れてしまう人もいる。決して他人事ではない。
DLCは再発と成長の話

DLCでは試験を受けに大学へ向かう主人公に、再び精神的な危機が訪れる。『Relapse(再発)』というタイトルが示す通り、本編で経験した悪夢が形を変えて襲いかかる。
本編との大きな違いは、主人公とイマジナリーフレンドの関係性の変化だ。本編で彼に救われた主人公が、今度は彼を守ろうと奮起する。この立場の逆転が印象的だった。彼の体に刻まれた傷は、今まで主人公を守り続けてきた証。そんな彼を主人公が守る。
新たに追加された時間制限要素が、プレイヤーを主人公の世界に引き込む。テキストを読むだけなら他人事として見られるが、実際にカウントダウンに追われると心拍数も上がる。主人公の焦燥感が、画面を通して直接伝わってくる仕組みが秀逸だった。
希望と終わらない煉獄

DLCのシークレットエンドで描かれたのは、主人公の確かな成長だった。守られる側から守る側へ。この変化こそ彼女がこれからも、困難を乗り越えていけることを予感させる。
私はシークレットエンドの最後に現れる別の学生の姿が忘れられない。プレッシャーに押しつぶされそうになっている彼を見て、ゾッとした。主人公は乗り越えたが、同じ苦しみは今この瞬間も誰かを襲っている。明日は自分がまたその立場になるかもしれない。
今、自分の『天井』と向き合う

『上に天井がある。』は医学生の試験がテーマだが、頑張りすぎて燃え尽きるのは、誰の身にも起こり得ることだ。ゲームでイマジナリーフレンドが助けてくれたように、自分で自分を労って癒すしかない。
ときには頑張ることも必要だ。でも常に頑張って精神をすり減らしてまで頑張ることは世の中にない。自分自身は仕事や試験に代えられない存在である。
このゲームを終えた後、私は自分の『天井』について考えた。誰もが持っている限界を認めた上でどう生きるか。完璧でなくても生きていける。そして何度倒れても、また立ち上がれる。それがこのゲームが教えてくれた、小さくて大きな希望だった。
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | 上に天井がある。 |
| ジャンル | アドベンチャー |
| ストア価格 | 235円 |
| リリース日 | 2023年3月9日 |
〈詳細情報〉
| ゲーム名 | 上に天井がある。The Relapse. |
| ジャンル | アドベンチャー |
| ストア価格 | 120円 |
| リリース日 | 2024年9月27日 |
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