ゆらめく陽炎に浮かぶ、失われた夏の記憶『NOSTALGIC TRAIN』

照りつける日差しに焼かれる肌の感覚や、川のせせらぎとともに届く風の心地よさ。命を燃やすように鳴き続けるセミの声に、線路を走る列車の響き……。

わずかなキャプチャ画像からあふれ出す情報が、触れたものを一瞬にして「あの日の夏」へと誘う。夏って現実ではあんなに過酷なのに、物語の舞台になるとどうしてこんなに魅力的なんでしょう。

この記事では、残暑を過ごす今だからこそプレイしてほしい、儚くも美しい「あの頃の夏」を感じられる『NOSTALGIC TRAIN』をご紹介します。

「記憶を失った主人公」と、「どこか懐かしい田舎町」

ふと気が付くと、見知らぬベンチに座っていた主人公。目の前には年季の入った列車が停車しており、振り返れば寂しげな木造駅舎が。

情報を求めて外へ出てみると駅前の看板から「夏霧」という町であることがわかりましたが、聞き覚えはありません。

ここはどこだろう、なぜ私はここにいるのかしら。
……どうして、この町には誰もいないの?

プレイヤーは記憶を失った主人公を操作し、町の各所に残された残留思念(住人たちの記憶)を辿りながら、夏霧と自分をつなぐ手がかりを探していきます。

やがて明らかになる、自分の過去と、この町の真実。鮮やかな青空と田園風景が広がる静かな田舎町を舞台に、ひと夏の不思議な冒険が幕を開けます。

懐かしいあの夏の記憶に出会える、緻密な風景描写

本作の魅力を語るうえで外せないのが、風景描写の圧倒的な豊かさです。足を踏み出したプレイヤーの眼前に広がるのは単なるマップではなく、まるで記憶の奥に沈んでいた「夏の日の断片」そのもの。

どこまでも澄み渡る青空。陽を受けてきらめく小川の水面。遮断機の向こう、線路に立ち上る陽炎……。
ありふれたはずの田舎町の光景が、ありふれているがゆえに胸を揺さぶります。

さらには、舗道のひびやガードレールの錆、線路際で生い茂る草の葉陰といった作り込みが、メインルートを外れた場所にまで注がれている点も見逃せません。

ストーリーとは無関係の空き地や、見過ごされる路地裏にすら作り手の息遣いが宿り、そこを歩くだけで胸の奥に懐かしさと郷愁が滲んでいくのです。

本作は「風景描写」という要素で物語を成立させることに徹した、作り手の美学の結晶といえるでしょう。

大人数で効率的に磨き上げられた大作タイトルとは違った着地点、一人の感性が突き詰められたからこそ生まれる鋭さ。その純度こそ、インディーゲームという存在が放つ唯一無二の魅力だと私は思っています。

夏の断片が一つの真実へ──叙情的なテキストで綴られる壮大なストーリー

記憶喪失の主人公がなぜここにいるのか、夏霧の町の人々はどこへ消えたのか……。

物語は謎だらけの状況から始まります。町に残された残留思念を辿るうち、関連のなさそうな記憶が少しずつ結びついていきます。やがてひとつの真実へと収束していく展開は、一本の映画を観ているかのよう。

また、詩のような叙情的なテキストも本作の魅力の一つです。繊細な心理描写や比喩表現が多く特徴的でありながら、決して雑音にはならない澄んだ読後感で主人公の感情や個性とプレイヤーを優しく繋ぎます。

詩のようなモノローグで綴られていく独自性のあるストーリーは、物語性を重視するプレイヤーの心に強く響く体験になるのではないでしょうか。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


傍観者でいることを許さない、胸を打つ物語の連なり

私が特に胸を打たれたのは、折り合いの悪かった親子の記憶に触れるイベントです。

絵の才能を認められ、海外留学のチャンスを得た娘。しかし、妻を亡くし、遅くにできた一人娘との向き合い方もわからない老いた父は、決してその道を受け入れられません。

長年のわだかまりが決裂する瞬間に立ち会う主人公。その後、事態は最悪の展開を迎えるのですが、絶句する結末に胸を痛めたのは親子をよく知る町の人々や主人公だけではありません。

その悲痛さは、画面の向こうにいる、ただの傍観者であるはずの私たちにまで波及します。いまの自分にできるのは、これで良かったと思うことだけ──胸を締め付けるような切実な現実感も本作の魅力です。

郷愁あふれる田舎町の風景描写と叙情的なテキストが、痛みと葛藤のひとつひとつを丁寧に彩ります。

夏霧の中にくゆる想いを追いかけて

少しずつ、しかし確実に夏が終わりに近づくこの季節。そんな今だからこそおすすめしたいのが、この『NOSTALGIC TRAIN』です。

涼しい部屋で、照りつける日差しや蝉の声、そよ風のぬくもりだけを感じながら、儚くも美しいひと夏の物語に身を委ねられます。

プレイ時間はおよそ3時間。長すぎず短すぎず、町の景色や人々の記憶を追いながら、静かに心を揺さぶられる心地よい時間を楽しめます。

PC(Steam)、Switch、PSと多彩なプラットフォームに対応しており、触れやすさも魅力のひとつ。ゲームを閉じた後、心に残るのは「今年の夏も、悪くなかった」と思える、甘く切ない余韻です。

〈詳細情報〉

ゲーム名NOSTALGIC TRAIN
ジャンルウォーキングシミュレーション
ストア価格1,200円
リリース日2018年6月13日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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