表情豊かなドット絵で紡がれる、空白の過去と鮮やかな未来『S_ _E』

限られたピクセルと色数から生まれるドット絵という表現方法。描き込みすぎないからこそ、見る人の心には余白が生まれます。

その余白に想像が流れ込むとき、簡素な画面は風景となり、動きは感情として立ち上がるのです。

語りすぎず、それでいて確かに語りかけてくる。そんな「省略の美学」があるからこそ、ドット絵は魅力的だといえるでしょう。

今回ご紹介する短編ADV『S_ _E』は、そんなドット絵の力をあらためて感じさせてくれる作品です。

成人の儀に挑む二人の幼馴染

森に囲まれた小さな村に住む寡黙な青年セーレと、彼より一つ年上のレティ。ふたりの幼馴染が、村に伝わる「成人の儀」に挑むところから物語は始まります。

一年に一度だけ入口が開く洞窟の中で、自分自身や記憶、過去と向き合う。それが彼らに課せられた通過儀礼です。儀式といっても、激しい戦闘や奇抜な謎解きがあるわけではありません。

歩いて、探索して、発見を積み重ねていく。シンプルな操作で、ストレスなくドット絵の世界に浸れます。

プレイ時間は約20分でエンディングは2種類。短いながらも、キャラクターの想いや出来事がギュッと詰まっており、遊んだ人の胸に深い余韻を残すはずです。

ドット絵の余白が生む「かわいい」の奥行き

▲おっとりお姉さんのレティがとにかくかわいい

『S_ _E』の最大の魅力は、ひと目見て伝わるビジュアルの可愛さ。やわらかいシルエットのドット絵は、数枚のキャプチャ画像を見ただけで強く目を惹く魅力があります。

小さな体でちょこちょこと動くキャラクター。一瞬のまばたきや浅い首肯といったわずかな仕草も丁寧に作り込まれており、その表現の豊かさは「このサイズでここまで表情を描けるのか」と驚かされるほどです。

▲メニュー画面の頭身が高いキャラもかわいい

背景もまた印象的です。

灯火が揺れ、深い影が伸び縮みする洞窟。
水面が静かに震える湖。
幼い頃を過ごした部屋の柔らかな光。
小物が並ぶ魔法薬屋の温もりに満ちた空気。

そのすべてが、ドットで細かく描かれています。

表現の制約で削ぎ落とされ、研ぎ澄まされた情報だけが残る。描かれていないはずの音や匂いまで漂ってくる錯覚を味わえます。

二人で一つの物語

▲片っ端から探索したいプレイヤーvsクローゼットの開閉を拒むセーレ
▲レティの部屋のクローゼットだったことがわかり、彼女のプライバシーを守ったセーレの株が爆上がり

『S_ _E』の物語は、セーレとレティの視点を交互に辿る形で進みます。

まず操作するのは、感情を露わにしないセーレ。彼はまったく言葉を発しません。洞窟の中で何を見ても、ただ無言で受け止めるだけ。

プレイヤーは、彼を通じて「???」を抱えたまま進むことになります。

操作がレティに移ると、彼女は穏やかな口調で、景色や出来事、キャラクターや世界の背景を教えてくれます。レティを通して、セーレの沈黙の理由が少しずつ明らかになっていくのです。

たとえば序盤。セーレは儀式の途中で訪れたとある部屋のクローゼットの前で、首を横に振るだけでした。しかし、同じ場所を訪れたレティが「ここは、わたくしの部屋」と語ることによって、セーレの仕草の意味が明かされます。

幼馴染だからといって、勝手に女性のクローゼットを開けたりはしない。セーレという人物の誠実さが、そこで初めて浮かび上がる。こうしてふたりの視点を重ねることで、謎は解け、物語は深まっていきます。

過去と未来。
沈黙と声。

ふたつが交わる瞬間を積み重ねながら、プレイヤーはふたりと共に真実に近づいていきます。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


可愛さと真実が交差する瞬間

この作品は可愛い。
ただ、それだけでは終わりません。

無口なセーレと明るいレティ。そんなふたりには隠された秘密と忘れられた過去があります。成人の儀は、そんな自分自身と向き合うための旅なのです。

エンディングでそのすべてを知ったとき、ふたりの幸せを心から願わずにはいられなくなるでしょう。

後日談を見たい、ふたりの未来を見届けたい。
そう思わせながらも、「ここで終わるからこそ美しい」と納得させてくれるような後味の良さも魅力です。

制作者さんの公式サイトでは、本編で明かされなかったキャラクターの詳細な設定や制作時の裏話も公開されています。

ゲーム内でもクリア特典として「おまけ部屋」があったりと、プレイ後の余韻に浸れる要素があるのも嬉しいポイントでした。

ドット絵の普遍性が導く未来へ

ドット絵は「懐かしくてかわいいだけ」ではない。
本作をプレイしてあらためて強く思いました。

限られた制約の中、小さなピクセルと試行錯誤を重ね、描かれた線や色。そのひとつひとつが、キャラクターや世界の息吹となってプレイヤーの情緒を揺さぶるのです。

またドット絵に対する作り手の情熱やこだわり強い主張やメッセージ性、といった圧力もありません。心の赴くまま、おだやかに遊べます。複雑なギミックや凄惨なストーリーに心を削られることもないでしょう。

1周20分で、エンディングは2つ。就寝前のひとときにもぴったりです。2周しても1時間以内で完走できるので、ちょっとした空き時間にも楽しめます。

「やさしい余韻」と「遊びやすさ」は、短編ADVというジャンルときわめて相性が良く、安心しておすすめできる作品です。

〈詳細情報〉

ゲーム名S_ _E
ジャンル探索型アドベンチャー
ストア価格無料
リリース日2025年8月28日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


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