私にとって大切なあなたへ。過ぎ去りし日々を追う物語『When The Past Was Around』

自身にとって「大切な人」と呼べる存在はどれほどいるだろう。

家族や友達、今生の別れを遂げた恋人。出会いや別れといった一期一会の縁もあれば、何事にも代え難い巡り合わせもある。その中で受け取ったものはずっと心に残り、ふとした瞬間に自身の背中を押してくれる。

ビジュアルノベル『When The Past Was Around』は、20代前半の女性「エダ」が自身の記憶を追い、過去の喪失と挫折から再起するまでを描いた物語だ。

主人公エダと、彼女が出会った「Owl(以下、オウル)」はバイオリンという共通項で繋がっており、本作は二人のささやかな記憶を追いながら進んでいく。

エダの喪失と挫折

▲エダが挫折を味わうシーン

主人公のエダはかつてバイオリン奏者だった。しかし、ある時期から思うように弾けなくなり挫折を経験する。原因は描かれていないため、スランプかもしれないし、成長の限界が来たのかもしれない。そして、彼女はバイオリンを自ら壊してしまった。

その折に出会ったのが、彼女の大切な人となるオウルである。彼はエダと同じバイオリン奏者だ。同じ共通項を持つ二人は惹かれ合い、次第に生活を共にするようになる。家でクッキーを食べながら談笑したり、キャンプに行き二人で満天の星空を見上げた事もある。

二人は互いにかけがえのない存在となっていくのが、とある出来事を境に彼女たちの日常は終わりを迎えてしまう。じんわりと迫る苦しみが、彼女たちの幸せな時間を奪っていった。

——ここまでが本作の背景となる前日譚である。
エダは日常の中からとあるものを失い、挫折してしまったバイオリンの道にも復帰しなかった。本作は、そんな喪失と挫折から再起するまでの物語が描かれる。

記憶を巡る物語の始まり

▲エダと鳥かごに捕らわれた黒い影

本作はエダが自身の精神世界のような場所で、鳥かごに捕らわれた黒い影と対峙するところから始まる。彼女は黒い影からオウルとの思い出のアイテムを渡され、そこから彼との日々を思い出す。

オウルと出会うきっかけとなったオルゴール、一緒に作曲をした楽譜ノート。初めて出会った時、寒そうなエダに彼が巻いてくれたショール。彼女たちにとっての大切な物が二人の日々を想起させる。

プレイヤーはエダとともに彼女たちの記憶を追う事で、二人がどれだけ想いあっていたかを垣間見る。

二人が出会った日の出来事や、一緒に出掛けた場所。
二人にとってのささやかで幸せな日々。
いずれもかけがえの無い思い出だ。

本作ではそういった思い出を想起させるアイテムが物語の「鍵」となってくる。ちなみに黒い影は誰かは終盤で明かされる。当記事では触れないが、プレイした際にぜひ見届けてほしい。

記憶の鍵となる「思い出の品物」

▲談笑するエダとオウル

このゲームに限らず、「物」は時として私たちの実生活で記憶を想起させる「鍵」となる。

例えば、学生の頃に使っていたノートを見つけて当時のことを思い出した経験はないだろうか。ほかにも、一昔前に着ていた洋服を見て、誰に買ってもらった服だとか、どこに行った時に着た服だとか、そんなことを思い出す人もいるかもしれない。

何年か後に見返して、記憶を掘り起こす。
どんな些細な物も、自分を思い出すきっかけとなる。

本作では彼女の記憶を辿る中で、様々な「思い出の品物」が登場する。二人で遊んだボードゲームや、二人がよく撮っていた写真。普遍的で何気ないものだが、エダにとってはオウルとの記憶の鍵となるのだ。


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絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


エダの再起、前を向いて歩きだす

▲エダは再び前を向く

悲しみを負い、人生の行き先を見失っていたエダは、オウルとの幸せな日々を一つ一つ思い出す。何気ない談笑や、ささやかな喜び、一緒に見上げた夜空。あの時のふたりはいつも笑顔だった。

そうして、追憶の先で彼女は自身を再起させる出来事に遭遇する。詳細は語らないが、バイオリンに挫折していた彼女は再び弓を手に取るのだ。

人は悲しみを乗り越え、いつかは前に進む。
辛い過去も、受け入れた上で歩んでいく。
大切な人のおかげで、より強く実現できるのでないだろうか。

エダにも同じことがいえる。オウルとの記憶が喪失と挫折を乗り越える糧となった。彼とのかけがえのない日々の記憶が彼女の背中を押したのだ。

私にとって大切なあなたへ 

▲エダと「大切な人」

自身にとっての「大切な人」は誰の心にも居るのではないだろうか。本作はそんな存在を思い返し、向き合うきっかけとなる。いつか悲しみに暮れた時、背中を押して前に進む糧となるだろう。

筆者は『When The Past Was Around』から、「大切な人がいる事の強さ」や「喪失と挫折からの再起」というテーマを読み取った。あくまで解釈の一つかもしれないが、本作には私たちが生きていく上で密接に関わってくるテーマを含んでいるのは間違いない。

作中に台詞がない事もあり、プレイヤーによって受け取り方も変わる。あなたはどんな解釈をするだろうか。ぜひ手に取って触れてみてほしい。

〈詳細情報〉

ゲーム名When The Past Was Around
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格920円
リリース日2020年9月23日

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