逆張りのハサミで切り拓く、等身大の青春『片腕のザリガニ – one-armed crayfish』

片腕のザリガニ – one-armed crayfish』は、なんでも「逆」を選ぶ少女・三好岬と、波風を立てないことを信条とする少年・野崎優太が織りなす短編ビジュアルノベルだ。

文化祭の出し物で「ザリガニ料理」という突拍子もない提案をする岬。物語はそんな破天荒なシーンから始まり、岬と優太は生徒会選挙という小さな舞台でぶつかり合いながら互いを理解していく。

全編スチルで描かれる画面は、まるで映画のワンシーンを切り取ったような密度を持っていた。

順張りと逆張りの対象的な二人

文化祭の出し物を決める教室。フランクフルトかザリガニ料理か、前代未聞の二択で唯一ザリガニに票を入れる三好岬。高慢で自分勝手なクラスで浮いた存在の彼女の第一印象は良いとは言えなかった。

対する野崎優太は多数派に寄り添い平穏な日々を送る「順張り」の申し子。流行りのゲームを買い、人気の映画を観る。本当に自分がしたかったことなのか、その疑問を封印して生きてきた。

岬に偽物のナイフで脅され生徒会長選挙の推薦人になった優太は、彼女の行動原理を間近で見ることになる。岬の逆張りは単なる反抗ではなかった。中学時代にスマホを制限され、友達の世界から外れてしまった過去。逆張りでしか自己表現できなくなった彼女の生存戦略は、痛々しくも純粋だった。

優太もまた、子供の頃は8本の傘で悪ふざけをするような独特な発想を持っていた。しかし両親の夫婦喧嘩をきっかけに、その自己表現を押し殺してしまう。外圧によって時が「停止」しており、正反対ながらも二人は似た傷を抱えていたのだ。

恋路のために選挙に出馬

岬が生徒会長選挙に出る理由はシンプルで人間臭い。幼馴染の天草カズユキが「リーダーシップのある人が好き」と言っているのを盗み聞きしてしまったのだ。カズユキは岬を幼馴染として長年サポートしてきた存在。彼女が逆張りで孤立しても、変わらず側にいてくれた。その優しさに、岬はいつしか恋心を抱く。

幼馴染の一線が引かれ、岬が告白できずにいるのを見て少女マンガのようなむずむずした気持ちになった。普段は逆張りと言いながら、実は「好かれるために一直線」な順張り的行動。その矛盾が、彼女を恋する一人の女の子として立体的に描き出していた。

片腕のザリガニが持つ意味とは?

池でザリガニを釣り上げた岬の笑顔が忘れられない。心から笑っているようで、見ていて嬉しくなった。ただ片腕だと判明して、一緒に釣りをしていた少年とのやりとりで沈黙が生まれる。この沈黙を自分の境遇と重ねているのかと思うと、心が苦しくなった。

私の解釈だが、片腕は何らかの欠けを示唆している。岬も優太も逆張りと順張りの生き方が身に染み付いている。それは好きでしているわけではなく、自分への自信のなさからくる防衛本能。ザリガニは自身で腕を切除でき、その後再生する。片腕のザリガニは醜くも見えるが、いずれ再生する。岬も優太も今は欠けているが、いずれは再生する未来にも思えた。

タイトルの意味は明確には示されない。プレイヤーに委ねられている感じがいい。本作のメッセージも押し付けるのではなく、プレイした人の気持ちが一番という姿勢。誰しも思春期には似た感情を抱える。流行りに乗る順張りの楽さも、意地になって逆張りしてしまう気持ちも、私にはよく分かる。


HARF-WAY コマーシャル

絵を一切使わずに文字だけで作られたテキストADV『文字遊戯』。様変わりした世界観が目玉と思いきや物語は思わぬ方向に進み、プレイヤーは言葉に干渉しながら世界を書き換えて真実と向き合うことになる。


全編スチルで描く映画のような体験

絵柄の美しさはもちろん、映画のワンカットのような構図が素晴らしかった。差分による表情の豊かさも心に残る。とくに噴水前のカットは印象的だ。あの一枚で二人の関係性や距離感、感情が表現されていた。

立ち絵がないことで、キャラクターの表情が伝わりやすかった。立ち絵だと誰が喋っているかは分かるが、表情までは読み取りにくい。一枚絵であれば表情も非常に分かりやすく、差分もよく作用していた。

大量のスチルによって構成されているため、立ち絵中心の作品と比べて没入感が段違いだった。まるで映画や漫画を見ているような、でもゲームをプレイしている実感もある。この独特の体験が、短時間でも深く心に刻まれた理由だと思う。

納得することが何よりも大事

本作をプレイして最も心に残ったのは「納得」という言葉だ。岬の逆張りも優太の順張りも、どちらが正しいという話じゃない。大切なのは、自分で選んで納得できるかどうか。

みんなが良いと言うから良い、流行っているから買う。私もそんな選択ばかりしてきた。でもそれは本当の納得じゃない。他人の評価に乗っかった安心感でしかない。岬の生き方は極端かもしれない。でも自分に嘘をつかない強さがある。

最終的な結末は是非プレイして見届けて欲しい。私も日々「順張り」と「逆張り」の間で揺れている。本作は、そんな日常の選択に「納得」という新しい軸を与えてくれた。正解はない、でも納得はできる。本作はこれから生きていく中でささやかな勇気を与えてくれるだろう。

〈詳細情報〉

ゲーム名片腕のザリガニ – one-armed crayfish
ジャンルビジュアルノベル
ストア価格350円
リリース日2025年2月21日

HARF-WAY コマーシャル

煙草を軸に交差する、ふたつの恋の物語。
無料で、どなたでも。スマホで、PCで、どこでも。
まるで文庫本のような、縦書きビジュアルノベル。

寂しさにも、熱がある。
『Keep Only One Loneliness』


最新情報をチェックしよう!