ロミオとジュリエットなんてありきたりですね。『Tiny Bookshop』

 「本が大好きだ!」といえるほど情熱もなく、かといって全く読まないほどドライでもない。高カロリー人間の発する圧倒的な偏愛に当てられると、あっという間に心が焦げる。中途半端な生き方が性に合う筆者みたいな人間は何かと生きづらい。

 荷物置き場と化した腹筋ベンチに平積みされたエッセイ本を手に取り、読み切ったモノを本棚に戻す。本棚の収容量も限界を超え、1冊取ったその奥にもう1冊収納されている状態。最近は、電車で読む本を隠し扉を開けるかの如く探している。

 エッセイ本、哲学書、ビジネス書、イラスト集や同人本。本棚には統一感のないジャンルが乱雑に収納され、「アンタは熱しやすく冷めやすい軽薄野郎だ」とラベルが貼られている。気になったら何でも知りたくなるのは新卒時代から何も変わってない。

 あれは確か20代前半のお正月。実家ぬくぬく生活を謳歌していたところ、ブックオフから年始セールのチラシが届く。当時の自分はコレといって本はおろかマンガすら集めていない。かといって、せっかくの機会を無駄にするのも気が引けたのでチャリに跨った。

 家から12分~13分の距離。行かない理由はない。いざ入店して人が少ない場所をうろつくと、予想どおりマンガコーナーは満員。「せっかくの正月だし気になってた漫画でも大人買いしちゃおうかな~」と集まっている気がする。ぽまえら…考えること一緒やな…

 ガラガラという理由だけで自分とは無縁のビジネス書コーナーへ。「長期連休を活かして勉強でもしようかしら」と企て、表紙に可愛らしいドット絵があしらわれた本を読んでみることに。

 立ち読みしてみると、商品を直接売り込んで買って貰う施策(ダイレクトマーケティング)が書かれていた。たぶん初学者向けではなかったと思う。知らないことばかりで1㎜も理解できないけど興味を惹かれて即購入し、付箋まで付けて読んだことを覚えている。

 本を読む入り口を作ってくれたのは1枚のチラシと1冊のビジネス書。変な出会いだ。でも予想外の出会いを含めて本が好きだ。面白いかどうかは重要視してない気がする。人と本との巡り合わせが好きかもしれない。これに関してはゲームも同じなんだろうなぁ。
 
 本といえば、自分の気になっているゲームがTwitterランドで話題になっていた。震源地は読書好きの方だった気がする。「自分で本を仕入れて売れる本屋さんみたいなゲームを見つけた!」と嬉しそうに呟いており、これが『Tiny Bookshop』購入の決め手となった。


 『Tiny Bookshop』は、自分だけの移動式書店をクルマで牽引しながら好きな場所で本屋を営むゲーム。小説や自己啓発といったザックリしたカテゴリの本を仕込み、ふらっと街に現れて商売をおこなう。題材然り、世界観然り、オシャレ過ぎて蕩けてしまう。

 ゴリゴリに選書して丁寧に並べるのではなく、ざっくばらんに設置して店をオープンできる気軽さも嬉しいところ。お客さんからオススメを聞かれることもあり、用意した本棚を眺めながら「コレなんていかがですか?」と提案できるのも面白い。

 ゲーム内の天気は晴れ。海の見える散歩道に車を止め、小さな本棚に旅行本や文学書を詰め込む。車の外観に小さなブイをぶら下げ、店内には浮き輪を立て掛け、地域に根差した本屋を目指して形から入る。

 薄紫色の明け方に車を走らせ、誰もいない定位置に店を置く。絵にかいたような健康ランニングお姉さんが最初のお客さん。スポーツウェアを身に包み、適度に汗をかきながら入店する爽やかさに目が眩んだ。

 ロマンス要素のある本を探してるんだ、と声を掛けてきたのでジェイン・オースティン著『エマ』を勧めた。無論、見たことも聞いたこともない。今作は実存する書籍が登場するので、歴史ある名著を知るという意味でも楽しめる。

 お姉さんは「ありがとう!わたしにピッタリの本だわ!」とキラキラした誉め言葉を返し、6冊の本を爆買いして去っていく。自分で提案したものが喜ばれるのが素直に嬉しくて、実際に調べてみたらビターなお話だった。あの人、ちゃんと楽しめるだろうか…

 青色のマリンキャップを被ったボーダー服おじさんに『ざんねん?びっくり!文房具のひみつ辞典』を紹介して「完璧、ハマれそうだ」と褒められる。そんな出会いがあって良いのかと笑ったけど、予想外の場所で想定外の本を買うのも素敵な体験かもしれない。

 オレンジ髪が印象的な少女に「魔法や超常現象が起きるファンタジー作品が読みたい!」と注文を受け、売れ残りで構成されたスカスカの本棚から『進撃の巨人』を一か八か提案する。「げっ、そういうのはいいや」と苦笑いさえ、そりゃそうだよねと笑った。

 日も沈んですっかり暗くなり、ひっそりと店を畳んで収支を計算する。経費を差し引いて僅かな利益。死ななきゃ安いの精神で明日も営業を続けるつもりだ。決して儲かる商売じゃなさそうだけど、お客にとっては果てしなく重宝される存在だろうなと思う。

 なけなしの財布から10コインを差し出し、段ボールに入った中古本コレクションを購入した。本のタイトルは店頭に並ぶまで伏せられているので中身は分からないものの、1.5営業日くらいは賄えそうな分量。自分の店を持っている実感を感じられる良作だと思った。

 今作は本屋を経営するゲームともいえるけど、本のキューピッドになれるともいえる。がっぽり儲けることに主眼が置かれる作品は多い一方、足元の日常生活にフォーカスした作品は珍しい気がする。筆者は自分が思い描くキレイな本屋を営めた。

 本好きが今までの知識を総動員して無双する作品ではなく、かといって経営やマーケティングの知識を活かしてスケールアップさせる作品でもない。ゆったりした時間のなかで、誰かを想って選書して、自信なさげにオススメするのが今作の醍醐味だと思った。


 燃え殻著『この味もまたいつか恋しくなる』を再読している。思い出の食事をテーマとし、食事に関するエッセイが詰め込まれた短編集みたいな作品だ。白状すると、この本がエッセイ風ゲーム紹介記事の原型になっている。ぜひ読んでみてほしい。

 純粋な好きだけで行動を起こせるほど人は強くないし、人生はそれなりのきっかけがあるからこそ一歩踏み出せると思う。のらりくらりと何かを紹介して、他人が脇道に逸れて気分転換しているのを眺めるのが好きだ。中途半端な愛も悪くないよ。

 ファンタジーが好きな人にハリーポッターを勧めるよりも、万葉集を勧めて奇跡的にハマっている場面に出くわしたい。本やゲームに限った話でもないけど、関心と無関心を行ったり来たりするのが心地よくて好きだ。疲れるけど何だかんだ面白い世界だなと思う。

 他人の日常に茶々を入れる。楽しんでもらえたら儲けもの。別に人生を変えてやろうなんて意気込まなくても良い。なんというか、そういう生き方が性に合っていると最近になって気づいた。たぶん真似しない方が良いので悪しからず。

  先日、友人と一緒にロフトへ出かけた。そこで「カプセルテラリウム」を見つけ、ひとしきり妄想しながら互いに盛り上がる。帰ろうとした瞬間、友人がおもむろにカプセルを掴んでレジに並ぶ。ちょっとレールから外れるのも悪くないと思いつつ、底に埋まったカプセルを大切に救い上げ後に続いた。

〈詳細情報〉

ゲーム名Tiny Bookshop
ジャンル本屋経営SLG
ストア価格2,499円
リリース日2025年8月8日
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