ゲームの物理媒体が減少し、ダウンロード販売が市場の主流となる現代社会。気になっていたゲームのデジタル版は見かけても、手に取れるパッケージ版はそもそも流通していないケースも珍しくありません。
そんな中、フィーチャーフォンアプリの名作を次々と復刻し、とうとうパッケージ販売までこぎつけたゲーム会社が存在します。
今回は特別な機会を頂き、時代に逆行してパッケージ版のリリースに力を入れる『株式会社ジー・モード』様のこだわりと苦労について訊かせて頂きました。
【前編はこちら】
インタビュアー:稲庭 淳
カメラマン:よさりそら
執筆編集:こうゆう
愛蔵版『OU』でどうしてもやりたかったこと
――限定版の付録特典に何を付けるかをどうやって考えているのでしょうか?
竹下氏:例えば『OU』の愛蔵版ですと、一旦採算などは横に置いといて「ファンの人が喜んでくれるものってなんだろう」「とにかく作品のことが好きな人が手に取ったときに喜んでもらえるようにしよう」というところから考えました。

そこで出た意見は、『OU』が生まれるきっかけとなったミヒャエル・エンデの『モモ』の本のような質感や手触りを目指そう、というものでした。
記事を読まれている方には伝わらないことで恐縮ですが…この質感、この手触り、そして「ファサッ、と本がケースから抜ける感触」。ココを一番こだわりました。『モモ』の横に並べて本棚に置かれていることをイメージして考えていきました。
「OU」パッケージ版の進行はプロモーション担当の渡辺がメインでやったのですが、原作者の幸田御魚さんにもたくさん意見を伺って、様々なことを細かく確認しながら進めていきました。
あとこれは私のワガママなんですけど、最もやりたかったのが”栞”です。

竹下氏:この栞は専門の業者さんに発注し、穴にリボンを通してから袋に入れてもらったものをジー・モードに一旦納品してもらい、そこからさらに任天堂さん側でパッケージ内に同梱してもらっています。
八田氏:こんなデジタルの時代なんですけど、すごくいろんな人の手を介してるんですよね。
小島氏:竹下に「栞はパッケージの中に入れなきゃダメなんですか?」と聞いたら、「パッケージを開けたときに見えるようにしたいから中に入れたい」って。
サウンドトラックCDはマスト、ポストカードは入る限界の15枚に
竹下氏:あとやはり、「OUといえば音楽」なのでサントラCDはマストでした。こちらは作曲家の椎葉大翼さんに全面協力して頂き作っていきました。
竹下氏:そしてこちらは漫画版のOUになります。元々はニンテンドードリームさんの付録で付けたものです。

竹下氏:パッケージ版にも復刻版として付けたいと幸田御魚さんに相談したところ「それなら、新しく書き下ろしたページを追加したい」と言ってくださり、約20ページだったものが、最終的に2倍の40ページになりました。
漫画のラストでは「何故、OUの特典に※「『セパスチャンネル』」のゲームが一緒に入っているのか」という理由が分かるようになっています。
※幸田御魚氏がディレクター・ゲームデザイン・シナリオを手掛けたフィーチャーフォンアプリとして2008年にリリースされたRPG。現在は「G-MODEアーカイブス」として復刻中
またOUは様々なイベントに出展していたので、イベント配布用のフライヤーやプロモーションアートをいくつも作りました。
そのイベントでしか入手できなかったフライヤーたちを、愛蔵版の「ピクチャーカードセット」として同梱することにしました。

竹下氏:最初は10枚くらいにしようと絞っていたんですが、入れたいデザインがありすぎて、結果的には箱の中にギリギリ収まる限界の15枚になりました(笑)
とにかくファンの人が喜んでくれて、欲しいと思ってくれるであろうものを特典として用意すること。その考えを持って企画をスタートしています。
パッケージ化は最適な価格帯を見極める

――ファンの方は大きい箱に特典をいっぱい詰めて欲しいと願うと思うのですが、「これくらいの価格帯なら限定版として適切だろう」とかってどう考えているのでしょうか?
小島氏:「もし、このゲームで限定版を作るとしたらどれぐらいの価格がベターか?」という視点は重要です。
例えば、アクリルスタンドをたくさんつけるなど、特典を増やそうと思えばいくらでも豪華にできます。しかし大事なのは、ファンの皆さんが納得して手に取れる形にすることだと思っています。
――ファンの皆さんが「限定版がどのくらいの価格なら納得できるか」というのは目算が付くのでしょうか?
小島氏:これはもう直感です(笑)
HARF-WAY一同:(どっと沸く)
『探偵・癸生川凌介事件譚』パッケージ化にあたって
小島氏:『探偵・癸生川凌介事件譚』の場合は、1本の中に多数の作品が収録されています。
ダウンロード版が1本約500円だとしても全編10本(+2本)、後編10本(+2本)の合計24本入っているので、ダウンロード版の額を合わせると12000円以上となります。
竹下氏:実は定価状態のダウンロード版を全部買い揃えるよりも、通常パッケージ版で前後編を買った方が安いんです。
ダウンロード版の価格を考慮するとパッケージ版(通常版)は1本8000円くらいになるのですが、レトロゲームのパッケージ1本の値段として高く感じてしまうかなと思い、通常版は6,000円くらいが適切かなと考えました。


【収録タイトル一覧】
(こちらをクリックで表示)
【前編の収録タイトル】
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.1「仮面幻想殺人事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.2「海楼館殺人事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.3「死者の楽園」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.4「白鷺に紅の羽」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.5「昏い匣の上」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.6「対交錯事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.7「音成刑事の捜査メモ」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.8「仮面幻影殺人事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.9「五月雨は鈍色の調べ」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.10「永劫会事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 番外編「癸生川スライドパズル」
探偵・癸生川凌介事件譚 電子書籍「新説・仮面幻想殺人事件」
【後編の収録タイトル】
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.11「あねの壁」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.12「泣かない依頼人」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.13「黄昏は瑠璃の追憶」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.14「螺旋の棺殺人事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.15「逢魔が刻の狂詩曲」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.16「淡雪は緋の哀しみ」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.17「御堂丸邸事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.18「銀紫色の猫達の囲う円卓」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.19「薔薇鼠の視た夢は」
探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.20「月条邸事件」
探偵・癸生川凌介事件譚 番外編「生王正生の長い一日」
探偵・癸生川凌介事件譚 電子書籍「虹の失踪」

八田氏:常にユーザー側に立ってないと、どんなにモノが良くても買いづらくなっちゃうじゃないですか。買いづらくなる価格には設定できないよね、というのが根底にあります。
『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』コンプリートセットの特典作りで事件勃発?

――『探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション』限定版の特典はどうやって決めたのでしょうか?
八田氏:先ほどの話に基づくのですが、通常版上下セットで12000円なので、限定版は約16000円ほどかな・・・と見込みを立て、その金額の枠の中でどういったものができるのかを考えました。
小島氏:まず要望として「サントラが欲しい!」という声をSNSから多数頂いており、我々も入れたいと思っていたので必須で考えていましたね。
そこで面白い話がありまして…

八田氏:そうなんですよ(笑)
実はもともとサウンドトラックはCD1枚と思っていたところ収録曲数が多くて、時間を合計すると170分くらいあって1枚に収まりきらなくて…
「3枚組にしなきゃダメじゃん!」となって大変でした(笑)

小島氏:そこの製造費が増えた分はジー・モードで負担しています(笑)
竹下氏:ほんと、面白い話だよね。合計170分くらいあるのはSteamに出した時点で分かってるのに(笑)
CDを増やすとどうなるか?
答えは箱がデカくなる

――ちなみに、どの辺で気づいたんですか?
八田氏:特典内容を発表した後に気づきました(笑)
竹下氏:CDの制作会社様にいわれて気づきました。
八田氏:「3枚になりますよ」といわれ、「えっ!!」と。
――そこで「じゃあやっぱり1枚に削ろう」と言わないのがジー・モードの良いところですよね。
小島氏:1枚にギュッと縮めたダイジェストCDになってもおかしくないのですが、それはやらずに全部入れてCD枚数を増やそうとなりました。
竹下氏:でも、それでCDを増やすと箱が…

八田氏:はい、箱が分厚くなりました(笑)
選りすぐりの難しさと、捻り出す難しさ
竹下氏:話が特典の決め方に戻るのですが、まずやっぱりファンの方たちのリクエストとか、こういうのが欲しいと言われている部分からスタートするのが基本になります。
お客さんが全く望んでない、期待してないものをつけても、それは誰も嬉しくないと思うんです。意見やリクエストも取って、あるといいよね、と決まったのが癸生川探偵事務所の手帳ですね。

竹下氏:これにもストーリーがあって、過去にメモ帳とボールペンも作っています。そのほかに癸生川事務所の謹製タオルや、クリアファイルも出してますね。
もし、この事務所のノベルティシリーズだったら、次はこれじゃないかなと。
小島氏:『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズは、フィーチャーフォン時代の作品なので、グッズ化に使える素材が充分あるわけではありませんでした。
しかしだからこそ、色々なアイデアを出して考える面白さがありました。

ジャケット作りで現れた救世主

竹下氏:『探偵・癸生川凌介事件譚』のパッケージ版のジャケットは、最初は既存のデザインで構成する予定でした。シンプルに「タイトルロゴ」だけという案もありました。
しかし、やはり何かサプライズも欲しいなと思い、新規デザインを作成できないかなと考えました。
ただ、かつてのキャラデザイン担当の方に連絡するのも難しく悩んでいました。
そんなときに、Xで癸生川のファンアートを投稿してくださっていた岩元辰郎さんのことを思い出して、ダメ元で依頼をしてみたんです。
小島氏:一度ダウンロード版で遊ばれた方も、購入して飾られることがあると思いますので、外側の満足感もすごく大事だと考えていました。
それにパッケージ版はお店にも並ぶじゃないですか。お店で陳列された時に目立って多くの人に手に取ってもらいたいとも思っていました。
竹下氏:ジャケットイラストを担当して頂いた岩元さんに無理を言ってしまったのですが、「店舗で、ジャケットの表を向けて並べたくなるように、しかも前編・後編どちらかだけじゃなくて、両方並べたくなるようにしてほしい」とオーダーしました。
これはドラゴンボールのコミックスの背表紙方式なんですけど、置いて並べると1枚の絵になるようにして欲しかったんです。

竹下氏:岩元さんに笑いながら「本当に無茶振りでしたね(笑)」と言われたんですけど、でも本当に描いてくれて。完成したビジュアルを見たときは心の底からお願いして良かった!と思いました。
八田氏:癸生川先生といえば「言葉に表現し難いようなポーズできりもみしながら」、というのがゲームの中で出てくる名フレーズなんですけど、それを絵に表すにはキャラ愛とか作品愛がないと描けないと思うので、岩元さんに描いていただいて大正解です。
小島氏:僕らが店頭に行ったときに逆に並べてあったら草の根活動でそっと直します。ファンの皆さんやこの記事を読んだ方も、もし気づいたらそっと直してくれたら嬉しいです(笑)
CD3枚事件の他にもこんな苦労話が…

――CD3枚事件もスゴイうっかりではあると思うのですが、パッケージ版を作るにあたって大変だったことはありますか?
小島氏:手帳のロットとかじゃないですかね?
八田氏:そうですね~(笑)
小島氏:この手帳、レトロな質感にこだわっていますので、触ってみて貰えませんか?
――懐かしい感じがしますね。引退間近のデカが使っている手帳のような。

小島氏:この手帳の製造数を決めて発注する期限が想定より早かったんです。
八田氏:手帳ってまさしくこれからの時期(※インタビュー時期は年末)が2026年に向けての製造ピークなんです。
早く決めないと製造が間に合わない。実は、ゲーム本体の製造本数を決める前に手帳の発注数を決めないといけなかったんです。
――ゲームの特典なのに!?
八田氏:ゲームの特典なのに(笑)
八田氏:箱、CD、手帳、それぞれに製造スケジュールがあり、製造数も決めなければいけません。さらに箱に入れるための形状も調整して決める必要があります。
小島氏:皆さんが思っている以上に、ここの製造管理は大変です。
竹下氏:ゲームにとって関わりが深いものなので、大変でもやるしかないかなと。

八田氏:今回の箱は、長く置いてもらった時に傷みにくい材質を選びました。
光沢を優先すると爪とかで引っ掻いてしまった時に残ってしまうので、あえて光沢のない材質にしようと。
そして、ロゴ入れるときはどういう材質だったらかっこいいか、ゴージャス感が出るか。金箔押しにしようか、と細かく決めていきました。
竹下氏:自分が昔すごい大好きだったミュージシャンの限定CDボックスとか、それこそ「スターウォーズ トリロジーBOX」とかのように、外装は重厚感が溢れる黒にしたい思いがありました。
結局やりすぎるくらいが丁度良い
八田氏:限定版をつくった後に「やりすぎたかもしれない」という思いがいつもあるんですよね。
でも、やりすぎるぐらいが丁度良いんです。
ダウンロード版で遊んでいる方で、それでもお金を出して購入して頂ける方もいるので期待値を上回る良いものを目指す。これがすごい大切だと思うんです。

竹下氏:いままでの制作経験が我々の経験値になって、次のパッケージ版にどう活かすかが引き継がれていきます。
――20年間デジタルアプリをやってきて、徐々に物理パッケージを作る喜びを覚えてますね…
八田氏:デジタルだから残らないってことはないんですけど、実際に手元の目に届くところに置いておけるって満足感があると思うんですよね。
それこそファミコンとかスーパーファミコンのカセットを買ってきた世代としては、クリスマスプレゼントで1万円くらいもするゲームの箱が来た時の嬉しさって、言葉にしがたくて語れないわけじゃないですか。
それと同じようなものがデジタル主流の時代になったとしても、やっぱりあって欲しいなというのはありますよね。

小島氏:今回の「探偵・癸生川凌介事件譚 コレクション」コンプリートセットの特典はすべてアナログのものなんです。
パッケージ版で本編を遊んで頂いて、CDプレイヤーでCDを3枚聴いてもらって、小説を紙で読んでもらって、紙の手帳を4月から使ってもらえたら最高です。
もしかすると携帯小説が復活するかも…

竹下氏:『探偵・癸生川凌介事件譚』のパッケージ版は、探偵癸生川シリーズの完全版にしたくて、当時のおまけアプリや電子書籍とかも入れられるだけ入れました。
最初は電子書籍なんて無理だと思ってたんですけど、「電子書籍のG-MODEアーカイブス化できました!」といわれ、画面をみてみると本当に電子書籍が読めたんです。
フィーチャーフォンで読んでいた電子書籍を、2026年にSwitchの画面でこうやって見れると考えたら面白くて。普通はやれないことだと思うんです。G-MODEアーカイブスだからできるのかなと。
小島氏:今後は当時の携帯小説がアーカイブとして復活するかもしれませんね。
竹下氏:「探偵・癸生川凌介事件譚」の電子書籍では、テキストの原稿データはあったけどアプリとしては復刻できなかったものは、紙媒体の小説として復刻しました。
八田氏:小説には3作入っているのですがページ数でいうと、400~440ページくらいですかね。
――読み応えもありそうですね。
小島氏:電車とかで読んでもらえたら嬉しいです。
リクエストは遠慮なく大きな声で
――G-MODEアーカイブス作品が初めてパッケージ化されるわけですが、他タイトルでもそういう予定はあるのでしょうか?
八田氏:具体的な予定はありませんが、やはりそういった声は我々も認知しております。ダウンロード版を出す時点でリクエストドリブンの形を取っているので、パッケージ化の要望についても同様にファンの方々から発信して頂けると助かります。
お一人お一人にゲームを買って、遊んで頂くことが、G-MODEアーカイブスを続けていく何よりのご支援の力になりますし、新しい取り組みに繋がっていくのかなと。
小島氏:ゲームイベントに出展していても、まだまだG-MODEアーカイブスの存在が届いていないことを感じており、一人でも多くの方に知ってもらうことが大切だと考えています。
竹下氏:復刻が確実に実現できるかどうかは分からないのですが、やっぱり多くの声があれば復刻化の動きに繋がりますので、もう遠慮なく声に出して頂けば幸いです!